第24夜 帰る場所
兄に立ち向かう決意をしても、俺は前と同じ家に住み続けている。
俺が卒業するまで一緒に暮らしてくれるつもりだったんだろう。
家賃は俺が卒業するまでの期間分がすでに振り込まれていた。
俺がしていることはちぐはぐしている。
兄を倒す決意をしながら、兄が戻る場所を守っているからだ。
それでも……。
訳の分からない超常現象によって兄がいなくなったことを受け入れるには、まだ時間が必要だと、自分自身に言い聞かせている。
……いや、時間を経ても受け入れられる日が来るとは思えない。
俺は希望を捨てられない。
優しかった心を失い化け物に成り下がった兄が、ハツゾメさえ倒せば元に戻ってくれるのではないかと、期待をしているからだ。
未だ甘い考えを口にする俺に、白瀧は唇を尖らせて言った。
「良いですよ、別に。なにしろ前衛不足ですからね。それに先輩が道を
歓迎されているのか、されていないのか。
いまいち不明瞭ではあるが、少なくとも以前のように拒否されているわけではないのだろう。
『やはりキサマは我らの同胞となる素質があったのだ! これから頼むぞ、我が弟子よ!』
黒鉄とは相変わらず対面での会話ができず、ディスプレイ越しで会話をしている。
しかし、スマホを手にタップをする彼の様子は、前髪と分厚い眼鏡で隠れていながらもどこか嬉しそうな雰囲気を感じた。
「朝比奈、良いのか?」
夢の中で感情を露わにしていた赤城先生だが、現実ではいつも通りの冷静を保っているように見える。
「
「はい、俺は兄を止めると決めました。……倒す覚悟はまだ、正直できていません」
「そうか……」
「それでも、兄をあんな風にしたのはハツゾメなんです。だから、あいつさえ倒せば、兄は戻るかもしれない……俺はそう期待したいんです」
俺の僅かな期待を聞くと、赤城先生は髪の上から右耳に触れて目を閉じる。
「……そうか」
ハツゾメはひどく赤城先生に対して執着をしていた。
俺と兄の関係のように、彼らもなんらかの因縁があるのだろう。
「だから俺にも、ハツゾメを倒す協力をさせてください。先生」
俺はハツゾメさえ倒せれば、それでいい。
それで兄が戻ってくれば、すべて解決する。
「……有難う、朝比奈」
俺を本当に仲間へ引き込むべきかを考えていたのだろうか。
先生は決断が終わったように目を開いて手を戻した瞬間、髪の隙間から穴だらけで目の引く耳が、ほんの一瞬だけ露わになったように見えた気がする。
「共に
「よろしくお願いします!」
俺たち四人は円陣を組み、手を重ねた。
獏夜を倒すという共通の目的を持った戦友とともに、これからの俺は夢の世界を駆けまわる。
兄を止めるため。
兄を元に戻すために……。
だから……大人しく待っていろ、兄貴……‼
~このあと、ヨウの話が2話続きます~
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