第22夜 ムクに初染
解放されたトラヒコが傷つくことを避けた白瀧は、虎を自分の元へと招き寄せた。
そうしている間にも、ハツゾメは上空に今度は両手で盾を展開する。
先ほどより警戒を高める様子は、白瀧と黒鉄に対して手を抜いていたということに他ならない。
それでも戦力差を理解していた二人は襲われた生徒の元へ退避する。
上空から光が落ち、貫くようにハツゾメを襲う。
それは、銀の槍を手にした赤城先生による攻撃だった。
槍と盾、二人の力は轟音を立ててぶつかり合う。
槍は赤城先生の不健康そうで細身の体から繰り出されるとは思えないほどの勢いで盾を突破しようと突き続ける。
「随分と遅かったじゃないか、ムク!」
「うるせえッ! 妨害したのはお前だろうが‼」
ハツゾメがムクと呼んだ存在は、
赤城先生の姿は眼鏡とスーツに紅のネクタイという装いは現実と変わらない。
違いがあるとすると、スーツの色が紺ではないこと。
他の
そして……。
「俺の生徒に手を出すんじゃねえよ!」
普段は教師であることから感情を抑えているのだろうか、怒りを露わにした赤城先生の口調は荒々しい。
対して、なにがおかしいのかハツゾメは笑っていた。
「ははは! こうすれば君が来てくれると信じていたからね」
突によってヒビが入り始めていた盾が耐えきれずに紙吹雪となって散っていく。
それが目くらましのように大量に増殖すると、二人は一度互いに距離を取り合う。
「気色悪い声で嗤うなっ!」
すぐに赤城先生がハツゾメへと槍を突こうとするが、敵は盾のとき同様に糸を生成し、絡め、先生の武器に瓜二つな槍を編み出して攻撃をしのぐ。
「仕方ないだろう? ムクがやってくるのを私は心待ちにしていた。そのためだけに、この舞台を整えたのだから」
「整えた? ……っ、朝比奈の兄はお前が
「当然さ」
赤城先生が槍を払い、突き、そして叩きつけると、ハツゾメも教師を模倣するような形を以って応戦する。
「っ! いい加減に、俺を真似るのをやめろ!」
「いいじゃないか。私にとって、君は興味深い対象なのだから」
攻撃をはじき返し、二人は再び間合いを取り互いの様子を伺う。
顔をしかめて疼きを抑えるように左耳に触れる赤城先生に、ハツゾメは嘲笑した。
「私は君が知りたい。知って、君を真似たい。僕は獏夜たちの保護者なのだから。教師と保護者の私たちは、似たようなものだろう?」
赤城先生は再び槍を構える中でハッとなにかに気づいたような表情をすると、決意を込めたように敵の懐に飛び込んだ。
「似ているわけがないだろうっ!」
「さあ、まだまだ私に夢を見せてくれ。君の最高の夢を……!」
「「てめえに見せてやる夢はない!」」
歓喜に震えるハツゾメの声を、赤城先生と俺の声が阻む。
「⁉」
ハツゾメが驚愕に目を見開いて振り返った瞬間、俺が背後から剣を振りぬき、前方からは先生が槍を敵に叩きつけようとする。
完全に注意が先生に向いていた敵は前方からの攻撃を模倣した槍で防いだものの、俺の攻撃を防ぐことはできなかった。
「ぐッ……!」
振り返って確認すると、肩に向かってバッサリと切り口を作ることができていたが傷は深くはないようだ。
傷ついた彼は兄と同じように血を流さない。
しかし、少なからず痛みは感じているようで、傷口を手で押さえて俺たちから距離を置こうとする。
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