第21夜 交閃《光は、交わる》

主人公視点ですが、彼は戦闘中です。

謎の実況だと思ってください。

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「さて、と」


 俺と兄が交戦する中、黒鉄と白瀧もまたハツゾメと対峙していた。


「それでは私は君たちに相手をしてもらおうかな? ああ、案ずることはないさ。もちろん、ムクが来るまで相手をしてもらうだけだからね」

「くっ」


 ハツゾメがひとつ歩んだだけで、黒鉄は怯み、白瀧が冷や汗をかく。

 二人と一匹はじりじりと追い詰められたように後退しながら、黒鉄が白瀧に問いかけた。


「どうする、我が戦友ともよ」

「どうするもこうするもありませんよ。奴が出てきてしまったら、隙を見て撤退する……つもりでしたが」

「……弟子か」


 このとき二人が撤収しようとしても出来なかったのは、俺をひとり見殺しにできなかったからだ。


「三度目はありませんよと言ったじゃないですか、朝比奈先輩……!」


 それ悪態をつきながらも白瀧は俺を見捨てる選択肢を選ばない。

 俺はそうとは知らずに、兄である獏夜を相手に感情のまま怒りをぶつけていた。


 これ以上後退すると襲われた生徒が人質に取られないというギリギリの位置で二人は立ち止った。


「なに。君たちが前に出会ったときからどのくらい成長したか、見せてもらうだけさ。……そうだな。中間テストのようなものだと思ってもらえばいい。そう思えば肩肘張らずに済むだろう?」

「テストで余裕しゃくしゃくでいられるのは、バカか天才のすることですよ」


 白瀧が弓を構えて警戒しながらハツゾメの様子を伺うそばで、黒鉄が魔導書を開き小声で呪文を唱え始める。


「それにあなた、偉そうにして僕たちのなんのつもりなんです?」

「敵だろう? とは言え、いまの私は君たちとただ暇つぶしがしたいだけさ。それに、私はムクの仕事の教師というものも知りたいんだ。だから、先も言ったが君たちが気負う必要はない」

「気負うな、とあなたに言われて僕たちが手を抜くとでも思いましたか?」

「抜きたければ抜いて構わないよ」


 ハツゾメの足元から白い紐状の帯がひとつ伸びて、倒れたままの生徒に向かって飛び掛かろうとする。


「君たちはそういうものだと、評価しようと思うからね」

「ッ!」


 警戒していたのとは異なる方向に攻撃を仕掛けられ、白瀧は焦りながら帯に向かって矢を放った。

 矢が当たった瞬間、帯は紙を破いたように粉々になり紙吹雪のように散り散りになって消えていく。


 生徒の無事を確認した白瀧は次に備えて複数の矢を一気に弓につがえる。


 彼がそうしている間にもハツゾメは再び足元から生成した帯を今度は複数、白瀧の隙を狙ってでたらめに解き放つ。


「黎明の光よ、撃ち落とせッ!」


 黒鉄が帯に向かって指を突きつけ術を発動させると、白瀧に迫り来る攻撃の束を降り注ぐ光の光線が撃ち落とした。


「まだ来るぞ! 戦友よ!」


 そうしている間にもハツゾメの足元からは波のように次々と白い帯の攻撃が放たれている。


「くっ、詠唱に集中できる時間がない!」


 白瀧は複数の矢をまとめて放ち帯を破壊すると、間髪入れずに次の矢をつがい、帯を作り出していたハツゾメを的にして放つ。


「うっとおしいんですよ! あなたは!」

「おっと。苦し紛れの攻撃に当たってやるわけにはいかないな」


 次の帯の波を黒鉄に向けて放ち始めていたハツゾメが意外そうな表情で左手を前に伸ばす。


 彼が爪の先から糸のように空中に盾を生み出して矢を防いだのと、黒金が帯を炎で焼き払ったのはほぼ同時だった。


「紅き煉獄の炎よ! 届け!」


 帯を燃やし始めた炎は、勢いよく糸を伝いながらハツゾメに迫っていく。


 連続で矢を放ち続ける白瀧からの攻撃を防ぐため盾を維持したままのハツゾメが黒鉄に向けていた帯を冷静に消滅させる。


 その瞬間、それまで様子を伺っていたトラヒコが死角を狙って彼に襲い掛かった。


「ニャーーーッ‼」


 隠れていたトラヒコの攻撃を予想していたのか、ハツゾメは難なくその攻撃を避けると足元から帯を放ち着地した虎を狙う。


「イチルちゃん!」

「ああ!」


 白瀧が銀色に強く輝く矢をつがえ、撃つ。

 声を掛けられた黒鉄が放たれた矢に向かって炎を放つと、矢は銀色の輝きを散らし炎をまといながらハツゾメに襲い掛かった。


 銀炎の矢がハツゾメに迫る直前、それまで帯と戯れるようにハツゾメの周りを飛び跳ねながら翻弄していたトラヒコが幻のように突然姿を消してしまった。


「そう来たか!」


 捉えるはずの獲物を逃した帯が所在なさげにふわふわと中を踊る中、ハツゾメはそのままにしていた盾に更に左爪先から糸を織り込んで銀炎の矢を防ごうとする。


 白瀧と黒鉄の渾身の一撃は盾を貫くことはできなかったが、衝突した瞬間に互いの力が干渉し合い、周囲に衝撃波を生み出す。


 そうしてハツゾメの注意が二人の攻撃に向いた瞬間、彼の真後ろからトラヒコが再び現れ襲い掛かった。


「ンニャーーーッ‼ フギャッ⁉」


 しかし、トラヒコの攻撃は防がれてしまう。

 ハツゾメの周りを泳いでいた足元からの帯が、トラヒコの体を捕獲してしまったからだった。


「ふー。不意打ちか」

「ッ⁉ トラヒコ‼」

「くっ、気高き獣を離せ‼」


 風が収まる様子を待ちながら次に備えようとしていた白瀧がその光景を目にして息を飲む。

 その傍らで黒鉄が術を放つが、すべて盾で防がれてしまう。


「な、なんで、トラヒコっ! なんでっ、抜け出せないんですかッ!」


 必死にもがくトラヒコの周りをハツゾメが獲物を吟味するようにゆっくりと歩き、舌なめずりをする。


「ああ、旨そうだな」

「っ‼」


 ハツゾメの食欲を伺わせる言葉に白瀧が絶句する。


「強い意志を感じる猫だ。君はこの猫が救いたくてたまらなかったのか。しかし、君が救えなかったこの猫は、夢の中にだけ描き留め置くことで存在する……。想いが詰まってとても旨そうな夢だ」

「……っ、僕のトラヒコを否定することは許しませんっ!」

「ああ、否定していないさ。むしろ肯定しているんだがね?」


 トラヒコに触れようとするハツゾメに、白瀧は震える手で狙いを定めた。


「フーッ!」

「気負うなと言ったのはキサマではないか? 約束が違うではないか!」

「さて、そんなこと言っただろうか?」

「中間テストのようなものだと思えと!」

「ああ、言ったな。あまりにも楽しくて忘れていたよ、ははは」

「冗談じゃない! あなたたちは夢を喰らうためなら、いつだって、いくつだって、息をするように嘘をつく生き物だって知っているんですよ! 大人みたいに狡猾で、信じるに値しません!」


 震えを隠しながら怒鳴る白瀧に、ハツゾメが心外そうに肩をすくめる。


「人間の大人と一括りにされるのも癪だな。それに、それはムクにも言えることかい?」

「先生は信じるに値する人です……っ!」

「君はよく分からないな。……と、噂をすれば……」

「え?」


 ハツゾメがふいに呟き上空を見上げ、興味を失ったようにトラヒコを解放した。


「ハツゾメーーーッ‼」


 その直後、上空から怒りを込めた怒鳴り声が響く。


「来たか……!」

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