第13夜 旭夜《きょくや》
「嘘だ……信じられない」
よく言えば優しく、悪く言えば甘い兄が、他人の夢を奪い喰らいつくそうとするなんてことを、俺は信じられなかった。
いや、信じたくなかった。
しかし赤城先生の説明通りに兄の姿の
「信じたくない、の間違いなんじゃないですか?」
「……」
頬杖をつきながら冷たい瞳を向ける白瀧に図星を突かれ、俺はうつむく。
そんなとき、ディスプレイからしばらく聞こえていなかった黒鉄の声がした。
『……同胞たちよ、話は終わったか?』
「そんなしょんぼりした顔していちいち確認しなくても、辛気臭いお話が終わらないとミュート切らないですって」
『そ、そうか……』
「あとその厨二アバターでしょんぼり顔はどうかと思いますけど」
白瀧の言うように黒鉄のアバターはどこか落ち込んだ表情をしていたが、指摘されたことで我に返ったのか突然不気味な声をあげ始める。
『はっ! ククク……、どうやら落ち込んでいるようだな、我が弟子よ!』
「弟子? 誰がだ?」
首を傾げると黒鉄アバターが俺に向かって指を突きつけた。
『ほらそこの! そう、そこの男だ!』
「朝比奈先輩のことらしいです」
「通訳ありがとう。いつ俺が弟子になったんだ?」
『キサマは獏夜と交戦のうえ無事夢から生還した者だ!』
「すごく邪魔されましたけどね」
「……悪かった」
最後の攻撃を止めたことを根に持っているのか、白瀧の言葉は辛辣だ。
『ええい! 辛気臭いぞ!』
「辛気臭いのは普段のイチルちゃんですよ」
『う、うるさい! とにかく! キサマは我々の仲間となる資格があるのだ!』
「仲間になる……資格?」
黒鉄の一言に俺はまばたきをした。
『そうだ! 我々、
「朝比奈先輩は現時点ではまだ仲間でもなんでもないんですけどね」
『
またもや生徒二人が騒ぎ始めてしまったため、赤城先生が俺に説明を始める。
「朝比奈。始めに、我々の役目はとある存在から夢を守ることだと言ったことを覚えているか」
「はい」
「……その相手が、獏夜だ。獏夜と接触の上、夢の世界から記憶を保持したまま帰還した者は数少ない。その中でも一握りの人間が、獏夜に対抗できる力を得る」
俺は夢の中で黒鉄と白瀧が獏夜を相手に闘っていた光景を思い出した。
「それが我々、旭夜だ」
「じゃあ俺も、その力を得ているかもしれないんですか?」
「それは未知数だが、どうやら黒鉄は朝比奈を勧誘したいらしい。気に入られて良かったな」
赤城先生の言葉に画面を振り返ると、黒鉄のアバターと目が合った。
彼はアバターではあるものの照れ隠しをしているのか、顔面を手で覆い格好つけている。
『ふっ。貴様が真に我が弟子として覚醒する日を心待ちにしているぞ……!』
「僕は、反対ですよ」
黒鉄の歓迎する声とは真逆の白瀧の冷たい声色が妙に室内に響いた。
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