第10夜 騎士たちは集う

 放課後に昨晩の説明をすると伝えられた俺は、時間になると指示された国語準備室に入った。


 この場には二人の生徒と一人の教師がいる。

 なぜか黒鉄の姿は見当たらなかった。


「俺は、朝比奈あさひな 朔夜さくや。二年だ」

「知っているだろうが、一応自己紹介をしておこう。私は赤城あかぎ 陸玖むく。現代文・古典教員だ」

「冷静そうに見えますよね? でもこう見えて案外心優しい熱血な赤城先生、三十二歳独身です」

「白瀧、教師を茶化すものじゃない」


 落ち着いた低い声、細身な体に少し頬が痩けた姿の赤城先生は、どこか不健康そうに見える。

 短くもなく長くもないほどほどの長さの髪で額と耳を隠し、引き締まった顔立ちに眼鏡をかけ、きっちりと紺のスーツに紅のネクタイを着こなしている様子は、白滝と呼ばれた生徒が言った初印象通りに真面目で冷静な人間に見える。


 俺は眼鏡をかけていないため、この場に黒鉄さえいれば眼鏡と非眼鏡の人口比率が両立する空間になるだろう。


「僕は白瀧しらたき 澪斗れいと。一年で先輩たちの後輩です。夢ではどうもお世話になりましたね?」


 白瀧は夢の中で和装姿に弓をたずさえ、虎……ではなく猫を従えていた人物だ。

 おそらく二度も攻撃を邪魔し、敵を逃したことを遠回しに避難しているのだろう。

 どこか嫌みたらしく言う様子から、俺は彼に歓迎されていないように感じる。


戦友ともよ! キサマは先輩を敬うということを覚えるべきだ』

「そういうのは目の前で会話できるようにしてからにしましょうね、イチルちゃん?」

『だからイチルちゃんと呼ぶなとあれほど!』


 白瀧の言うように、黒鉄の声はするが同じ室内にいない。

 付け加えるなら喋る度に凄まじい打鍵音が聞こえる。


 なぜならば……。


「そこのディスプレイに映っているのが、朝比奈と同じクラスの黒鉄くろがね 一星いちる……のアバターだ」

「アバター」

『黒鉄ではない! 我が魂の真名まなは、スタンリー・シュヴァルツアイゼンだッ!』

「というのがイチルちゃんの設定です」


 アバターは黒衣で眼帯に赤目というスタイルで、夢の中での黒鉄の外見にそっくりだった。

 なお、現実での本人は黒目であることを確認している。


「本体はその個室にある」

「こしつ」


 部屋の隅になぜかある謎のブースは何なのだろうと思っていたが、いまその中に黒鉄がいるらしい。


『本体とか言うな! 中の人などいない!』

「黒鉄はなんでわざわざそんなことをしてるんだ? 近くにいるなら普通に話せばいいじゃないか」

「イチルちゃん、人前で喋れないんです。こうでもしないと筆談になってしまうので、そっとしておいてあげてください。ちなみにこの音声、実は合成音声で本人がキーボード叩いてます」

「すごい手間をかけていることだけは分かった」

『ふっ、ちなみにこのアバターは我が魂の盟友であり旭夜きょくやの一員でもある………………』

「ん? 口が動いているのに音声が聞こえないぞ。故障してないか?」

「ああ、それでいいんですよ。イチルちゃんは画面越しだととってもおしゃべりなんです。だから、システムがオタク固有の早口を検知した際にオートでミュートになるように設定されてるんです。静かになったらミュート解除されますよ」

「……この数分で黒鉄のポジションと扱いが分かった気がする」


 それに白瀧の性格も。

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