第06夜 交戦
「そこのあなた! ぼさっとしていないで、早くこっちに来てください!」
「あ、ああ……!」
慌てて
「次はいつ会えるか分からないんだ。折角のご馳走を逃がすわけにはいかないよ」
「させるかと言ったんだ‼」
イチルと呼ばれた魔導士風の旭夜が魔導書を勢いよく開き、呪文のような台詞を口にする。
「我が切り開くは、閉ざされし過去。いまこそ封じられし歴史を紐解こう。今より、
「あー! もうッ! だから、勢いあるのに詠唱長いんだって言ってるじゃないですか!」
長々と続く呪文に、和装の旭夜は苛立ったのだろう。
手にしていた弓に矢をつがえ、静かに弦を引いて隣に控えていた虎に命じる。
「
「フーッ! ニャー‼」
外見に似つかわしくない鳴き声をあげる虎に俺はあやうく脱力しそうになっているうちに、和装の旭夜が捕食者へ矢を放つ。
「っ、あぶないね」
ひゅんっと矢が耳のそばをかすめる音と追跡者の息を飲む声が間近に聞こえ、俺が捕まるまでまさに間一髪だったことを俺に悟らせる。
そのあとすぐに虎風の動物が足止めをくらった獏夜へと間髪入れずに飛びかかったのだろう。
「ンニャッ‼」
「きみたちは本当にひどいね。ぼくの邪魔をしないでほしいな」
背後から衝撃音が聞こえてくるが、俺は振り返らずに走り続ける。
和装の旭夜と虎が引き止めてくれたお陰で、俺は旭夜の二人のもとへ無事に辿り着くことが出来た。
振り返ると、兄の形をした獏夜はいつの間にか鋭く伸ばした爪で虎の攻撃に応戦している。
優しかった兄に不釣り合いな姿を見せる男に、俺は不快感を感じた。
「ふふふ。猫と戯れるのも、悪くないね」
「ニャニャニャニャニャーッ!」
爪の引っ掻きを同じく爪で弾き返す獏夜対し、虎は次に猫パンチを繰り広げるが、どれもひらりとかわされてしまう。
「次は猫を飼う子の夢が食べたいな」
「なんですって!」
敵の呟きを拾った虎の主の眉が怒りで跳ね上がる。
「そんなこと、僕たちが許すものですか!」
彼が叫んだ直後、虎の攻撃パターンが変化した。
「ニャ!」
「ッ!」
鞭を振るうような音を立てて放たれた尻尾攻撃を、獏夜が避けようする。
しかしそれは不意打ちだった。
「ニャァッ‼」
避けた方向から放たれた爪の攻撃を避けきれず、獏夜の衣装が切り裂かれる。
初めて当たった攻撃に怯んだ男に、虎は続けて容赦なく右腕に噛みついた。
「ぐっ! あああッ‼ 痛い! やめて!」
獏夜は兄の顔と声で苦悶する。
「ぼくはまだ、消えたくない……!」
その顔が、兄の事故後の顔と被って見えて……。
「――刻は、満ちた!」
虎が闘っている間にも詠唱を続けていたイチルが宣告するように高らかに叫ぶと、獏夜に抵抗されながらも腕に必死に喰らいついていた虎が口を離して退散を始めた。
虎の様子を見届けたのだろう、彼はトン……と支えている手とは反対の人差し指で開いたページを叩く。
「顕現せよ!」
その仕草が術発動の合図だったのだろうか。
開いた本のページから禍々しい鮮血のような水がボコボコと湧き上がっていく。
紙が濡れた様子もなく勢いよく吹き出し始めた血は、やがて渦を巻き始める大きな形を得ていく。
そのとき俺は悟ってしまった。
彼の攻撃は兄の姿をした男を倒してしまうだろうと。
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