第10話

 



 新入生代表の挨拶は、当然ながら王太子です。

 当り障りのない無難な挨拶。


「王族だからとおごらず、皆と共に学びたいと思う。立場など関係なく話をして欲しい」


 それは貴方だけの事でしょうに。

 あぁ、自分語りが始まりましたわ。

 いかに自分が優秀か、いかに自分が恵まれているか、自分と過ごせる同年代の生徒達は幸せだなどと言ってしまいましたわ。

 そこかしこで失笑が起きております。

 誰にも相談しないで挨拶文を決めたのでしょうか?


 前回は私が用意しました。

 時事問題や他国との関係をわかりやすく噛み砕き、学園での勉学と絡ませて、皆一緒に国を発展させる為、未来の為に頑張ろう的な挨拶にしました。

 それにより、彼の学園での評価がとても上がったのでしたね。


「なんか、つまんない挨拶でしたね。アンシェリー様の婚約者なので、もっと優秀な人を想像してました」

 カレーリナが私にだけ聞こえるように囁きます。

「私も王太子殿下には、王妃様主催のお茶会でしかお会いした事ないのよ」

 暗に『よく知らないから聞かれても困る』と答えます。

 これは周りの人達にも聞こえる声量です。

『王太子に惚れている』

 その前提があったから捏造ねつぞうされた冤罪。

 まず根底を覆さないといけないですからね。



 自分のクラスへ移動し、担任からの挨拶を聞いて解散となりました。

 私とサンドラとカレーリナは同じクラスです。

 王太子は隣のようですわね。前回は同じでしたのに。

 例の子爵令嬢はDクラス……今回も頭の中身は残念なようです。

 成績順のクラス分けなのですが、多少爵位のが付きます。

 それなのにBとは、王太子として大丈夫なのでしょうか?私には好都合ですが。



 今日は入学式だけですので、早々に帰りましょう。

 下手に王太子に絡まれても困りますからね。

 それにしても、私の記憶の中の王太子よりも大分印象が違いますわね。

 頭の中身は勿論ですが、外見も残念な方向へ変化してます。

 髪ももっと艷やかな金髪でしたし、背筋も伸びていて堂々としてました。

 表情も覇気があり、誰が見ても美丈夫!という雰囲気でしたのに……。

 前回を知らなければ、それなりに美形には見えますでしょう。


 あら、噂をすれば王太子ですわ。

 私の頭の中だけでの噂ですけれど、そこはまあ良いでしょう。

 一緒にいるのは……フローラ!?

 二人はぶつかったのでしょうか。

 座り込んでいるフローラを王太子が助け起こしています。

 それにしても、なぜ王太子には従者も護衛も付いていないのでしょう?

 いえ、3歩ほど離れた位置に控えていました。

 控え過ぎでしょう!?何かあっても護れませんよ!



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