第11話

 



「すまない、俺がよそ見をしていたからだ」

「私の方こそ、、心配で探してたせいで前を見てなくて」

「来ていない?」

「はい。私が屋敷を出る時にはまだ全然準備してなくて……我儘な方し、間に合わなくて追い返されたのかもしれません」


 サンドラ。貴女、入学式に出席してない事にされてるわよ。

 あの女としては、絶対に間に合わないように仕組んだのでしょう。

 なので出欠の確認もしなかったようね。


「私だけ入学式に出てしまって……きっと屋敷に帰ったらまた折檻されちゃいます」

「また?」

「はい。お嬢様は少しでも気に入らない事があると、すぐに暴力を……いえ、私が何も出来ないのがいけないんです」


 こうやって健気な女を演じて、王太子に近付いたのですね。

 サンドラの事を過去形で語っているあたり、侯爵家を追い出されるのは予想しているようね。


「私、帰ります。お嬢様もいないし、馬車もないでしょうから、歩いて帰らないといけないので……急がないと何をされるかわかりませんし。ぶつかってしまって、本当にごめんなさい」


 チラチラと上目遣いで見ながら、可哀想な私!送って欲しい!と訴えているのですね。

 わざとらしくスカートに付いた埃をパタパタと落として、色仕掛けですか?叩くのではなく、スカートを持ち上げて振るって、斬新な方法です。


「俺が送ってやろう」


 まんまと策に嵌りましたね。

 視線はチラチラと見えるフローラの太ももに釘付けです。

 前回も似たような方法で出会ったのでしょう。

 情けなさ過ぎて、涙が出そうです。

 こんなくだらないきっかけで、私の人生が潰されたなんて!

 私だけじゃありません。

 これから侯爵家へ向かう馬車の中で、フローラは嘘八百を並べて、サンドラを貶めるのでしょう。

 前回、フローラは侯爵家の侍女見習いではありませんでした。

 王太子が侯爵家からしてあげたのでしょう。


 隣でワナワナと震えているサンドラの腕をそっと掴みます。

「行かせましょう、王太子の馬車で侯爵家まで」

 ただし、私達の馬車が到着した後に着くように……ね。

 英雄気取りでやって来る道化師と、間抜けな女狐を迎えてあげましょう。




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