第12話 ごった返しの日の中で

5月某日。GWを迎えたある日、渋谷の街は人でごった返しな状況だった。待ちゆく人々のほとんどは、若い年齢の人たちで同世代の高校生か大学生だろう。

そんな、晴れたこの日に俺はとある人と待ち合わせをしていた。


(由衣さんもう着くかな・・・しかし、この人混みの中で無事に合流できるのだろうか)


つい先日、彼女は体育祭にて障害物リレーに出場することが決まり下校時、かなり落ち込んでいた。運動ができない自分が競技に出場していいものだろうか、もし最下位でクラスに迷惑をかけないだろうか、など思い悩んでいたのだろう。

そんな彼女を見かねた俺は、この渋谷にある有名なスイーツの専門店に誘うことにした、それで少しでも元気になってくれればいいな、なんて思ったからの動きだろう。


待ち合わせ当日になると、普段は二度寝をかます自分だが8時に一発で起き軽くシャワーを浴びた後、髪の毛を整えていった。妹のさつきからは「こんな時間にそんな気合を入れて一体何しに行くの?」なんて言われたが、気合が入っているのだからしょうがない。

待ち合わせの場所には1時間前という速さで着き、目的地までの道のりをしっかり確認して彼女の姿を待った・・・


待ち合わせの時間になり、あたりを見渡す。たくさんの女性が街を歩いており、正直どれも同じようにしか見えない。しかも、背の低い彼女だ、探すのに少し苦労をする。

(あれ、待ち合わせの場所はここで合っているよな・・・ん、なんか通知が来た)


『ごめんなさい!ハチ公前だと人が多いから、反対側の駅前あたりで待ち合わせしませんか?』


『りょーかい、これから向かうから少し待って』


確かに今日はGWで人込みが多い、待ち合わせならハチ公前だと思っていたが冷静に考えれば場所は変えたほうがいい。少し遠回りになるが、反対側の駅前に少し小走り気味で向かった。


「このあたりかな・・・彼女は・・・」


「おーい!お待たせ!」


声がするほうに顔を向けると、駅の改札から向かってくる彼女の姿があった。薄茶色のロングスカートに白のブラウス、そして肩にかけるデニムジャケット。背がいつもより高いな、と感じるのはかかとが高いヒールを履いているからだろうか。髪の毛も上でまとめつつ、毛先をいじっており学校で会う彼女とは全く別の美しい女性だった。


「ごめん!少し朝の準備に時間がかかって・・・気付いたら乗ろうとしていた電車を一本乗り過ごしちゃったんだ・・・」


「別にそれぐらい大丈夫だよ。それにしても、由衣さん。今日はだいぶおしゃれしてきたんだね」


「え!あー・・・お姉ちゃんたちが張り切りすぎちゃって。私的にはもう少し落ち着いた感じの服装が良かったんだけど」


「似合ってるよ、うん。五月らしくていい」


「⁉///早くいこう!ね!」


「おお・・・それじゃあ行くとしますか」


姉二人が張り切りすぎたなんて言っているが、それでも断りもせずそれを受け入れておしゃれしてくるのはすごい嬉しかった。好きな相手のことなら尚更・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「綺麗なお店・・・こういったカフェは初めて来たかも」


「そう?俺もあんまりいかないけど、由衣さんのところだったらお姉さんたちと出かけていると思っててさ」


お店に着くと、そこにはかなりの人数が並んでおり予約をしなければ1時間ぐらい待つほどだった。流石、SNS映えで有名なお店だ、前日に予約をしたおかげで待つことなく入店することができた。


(しかし、写真でしか見たことがなかったけどかなりおしゃれだな・・・モダン的っていうのか、テラスもあって開放的でいい)


自分のチョイスが当たったことが少しうれしくなる。まぁ、GWでかなり客数がいっぱいなところはアレだが・・・


「あ、これか。イチゴソースの特別パフェ」


由衣さんがメニュー表を見ながらそうつぶやく。そう、このお店自体スイーツで有名なのだがその中でも、『イチゴソースの特別パフェ』が一番有名なスイーツなのだ。

高さ自体はそれほどではないが、パフェの層が厚く五段にも重なり、上にはバニラアイスとイチゴが乗っており、仕上げにイチゴのソースがかけられている。ネットでは来たら絶対に食べるべきとまで、書かれているほどだった。


「ちょっと・・・これ食べてみたい。うん、これにする」


目を輝かせながらイチゴパフェを見ると、連れてきてよかったと思う。昨日の下校時に見た彼女の顔よりだいぶ良くなっていた。


(だいぶ落ち込んでいたんだな、まぁ運動苦手なのにも関わらず競技に参加するなんて公開処刑だもんな)


少しでも彼女の気がまぎれればいいなぁ、なんて彼女の待ち遠しそうにパフェを待っている姿を眺めていた。




「本当においしかった!全体にイチゴの味がして甘すぎない感じがとっても!!」


「そう?喜んでくれたのなら誘ってよかったよ」


カフェを出てから、夕方の解散時刻まで渋谷の街を歩いていった。彼女自身、服に関して興味がないのか、雑貨屋や本屋など比較的に落ち着いた場所を2~3件巡り今日は解散となった。


「いやー、人が多い・・・もう少し落ち着いているのかなって思っていたんだけどな」


「まぁまぁ・・・でも、直江君とこうして遊べて楽しかった。おかげで少し悩みが晴れたような気がする!」


「そっか、それならよかったよ。また、こうやって出かけて気分展開してもいいかもね」


「!?・・・うん、そうだね。あ、次の駅」


「もう、ここまで来てたか、由衣さんここで降りるんだよね」


「うん、名残惜しいけど。それじゃあ、またね」


「うん、また学校でね」


そういって彼女は立ち上がり電車から出ていく。ホームに降りた彼女は電車が動き出すまで手を振り続けてくれ、俺も手を振り返す。電車は動き、彼女の姿は見えなくなった。


(やっぱり好きなんだな、俺彼女のこと・・・)


短い時間ではあったが、それでも楽しかった。拓馬とかの男友達との楽しさとは別の暖かくなる感じ。それがなぜか、自分の胸に広がっていった。


車内から見た夕焼けはその気持ちを一層高めていった。



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