第10話 話を遮った間

「お兄ちゃん、良いことあった?ここ最近さ」


バイトから帰ると珍しくリビングで過ごしていた妹のさつきに声をかけられた。


さつきは中学生の為、夜は早く寝る。

そして、夜は基本的に「うるさいから静かにして」と言われ、それ以降、バイトから帰ってきた際には静かに夕飯を食べている。

そんな中、急に部屋から出てきたので何事かと思っていたら単純に眠れなかっただけだった。

そして、眠れるまで話し相手になってほしいとのこと。


そして今に至る。正直なところ体はクタクタだし明日も学校があるのだが、こうして聞いてあげないとすぐに拗ねてしまうので、聞いてあげないといけない・・・

(炊事洗濯ももしかしたらやらされるかもしれないし…)


「まぁ…なんかあったといえばあったな。うん、あったよ」


「ほー!!なになになに!!何があったの??」


えらく食いついてきたな、そんなに興味が惹かれたのか。兄がこれまで、色恋沙汰の話を一切口に出してこなかった為か、何故か嬉しそうだった。


「えー?言うの、これ・・・まぁ、古い友人に久しぶりに再開した。向こうは俺のことを覚えていないんだけど」


それを聞くと、先程までキラキラさせていたさつきの表情は、一瞬にして興味を失ったようでため息とともに携帯を開いた。


「なにそれ・・・ちょっと聞いて損した気分。私が言いたいのは、そういう事じゃなくて春が来たのかってこと!!いつも、そういった浮いた話を聞かないし、何かいいことでもあったのかなぁってワクワクしたんだけど」


「新学期が始まって早々に始まらないって。そういう事は大体、夏休みからだし、4月の今の時期でそういったことは中々、ないものだよ」


そう、由衣さんとだって出会いはしているが、まだそこまで話しているわけでない。これから、もっと仲良くなっていきたいが時をせかせても意味が無いものだからだ。

兄の話を聞いて納得したのか、それとも興味をなくしたのか、これ以上、聞いてくることはなくなり、自分の話をし始めた。


(ゆっくりと夕飯食べたかったのになぁ・・・)


時刻はすでに夜の10時を過ぎていた


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


夕食を食べ終わりお風呂に入り終わった後、部屋のベッドに倒れ薄暗く消灯させた明かりを見つめていた。

たまに、悩みは無いが、ふと頭を無にしたい日がある。学校での出来事や由衣さんとのやり取りなど、まだ4月は始まって間もないのに考えることがありすぎた。

だからこそ、こうした無の状態が必要になってくる。


「…そういえば来月には体育祭か」


5月に行われる体育祭。今年も、クラスリレー以外は部活勢が気を入れてやってくれるのだろうか。その後は、中間テストで赤点だけは回避しなければいけない。


(何やかんや充実してるなぁ…)


布団を被り、目を閉じる。睡魔に吸い込まれるように眠りについた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「・・・それで妹が話し込んじゃって結局眠れなくてさ」


「ふふ、涼太さんの妹さんって面白い方なんですね!」


翌日も由衣さんと放課後、話をしていた。図書室ではなく、食堂で。

なにも、彼女自身から『静かに使用するのが目的の図書室で話し込んでいたら、周りの利用者に迷惑だろう』という理由だった。

真面目な人らしい意見といえばそうだが、朝メールをして場所も聞かずに、とりあえず放課後会う約束だけを取り繕った俺は、そのまま図書室に行っていた。


(まぁ、無事に会えたからよかったわ・・・今度からちゃんと場所も指定しよう)


互いに連絡をしない派なのか、それとも慣れていないのか。携帯音痴のようで少し頭が痛くなる。


「そうだ、昨日話していたんだけど来月、うちの学校で体育祭あるんだけど由衣さんのクラスではそういった話とか出てるの?」


「えーっと・・・まだ出ていないと思います。入学式に担任の先生が、日程で教えてくれたぐらいなので。もう少ししたら、そういった話が出てくると思いますよ。」


やっぱり、一年生のクラスではそういった話は出ていないようだ。入学して間もないわけだし、まずは勉強のこととか部活や友達との関わり合いでいっぱいだろう。


「やっぱりそうだよね、まだ入学して間もないし。でも、応援団とかやりたいって話す人とかいるんじゃない?」


「あ!それはいました!クラスの中心グループ的な人たちが応援団やるために結構、誘っているんですよ!」


やっぱり陽キャ気質な人たちは学年かかわらずそういったことをやりたがるのね。

しかし、彼女は何かの競技に出てくるのだろうか。


「そういえば由衣さんは何かしらの競技に出るの?多分、クラスリレーは強制参加だけど」


「運動は苦手なので…でも、多少なりは参加しないといけないかなぁって思っているんですけど」


「鈍臭いので」と苦笑しながら彼女は話した。確かに、運動が苦手な人が率先して前に出ることは想像しにくい。きっと応援側に回るのだろう。

そうやって由衣さんと話していると後ろから声をかけられた。


「お、涼ちゃん。おひさー、どうしたの?」


拓馬だった。

それと一緒にいたのは、クラス替えになったが同じくいつものメンバーの1人、佐野大樹(たいじゅ)だった。


「拓馬に大樹じゃん。どうしたの、2人揃って」


「拓馬が喉が渇いたってさ、一緒に飲み物買いにきただけだよ。それにしても涼太、彼女いたのかよ」


2人揃って、驚愕の顔をしている。3人揃って彼女がいない事を、何故か友情のように誓っており、俺が女子と話しているだけで2人とも動揺していた。


「ちげーよ、仲がいい女子だけ。そういった意味じゃねーわ」


そういうと2人はホッとため息をこぼしていた。

(特に拓馬が)

いったいなんなんだ、コイツらは


「それじゃ、邪魔した感じだったね。それじゃ涼ちゃんまたねー」


邪魔だと感じたのか、2人は揃って来た道を戻っていく。途中、大樹が後ろを向いた様にこう話してきた。


「あ、そうだ。涼太、お前さ何かしら部活入れよ。運動神経良いし、少しやればまた出来るようになるって」


はいはい、なんて適当に返事をしたのち、2人の姿は見えなくなった。由衣さん自身、呆気に取られている。少しビックリしたのだろうか。


「ごめんね、俺の友達が。あいつら、お喋りだけど良いやつだから。そんな、ビビらないであげてね」


「は、はい…そうだ、直江さんは何か参加されないんですか?さっきの友達が、運動神経がいいとか何とか言ってましたけど…」


「…俺はいいんだよ。別に、あんまり興味がなくてね」


「そうですか」と呟くと話は終わってしまった。気づけば4時半を回っており、互いに身支度をした後、帰路に着いた。彼女は最後何か言いたげな様子だったが、俺は多分話したくなかったのだろう。


そうこうしているうちに、4月は終わり5月が近づいていた。




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