第9話 進む物事

放課後になると、下校する生徒や部活に行く生徒で校内はごった返しになる。そのうちの一人、拓馬も教科書をロッカーにしまった後、体を伸ばしラケットバックを手に取った。


「あー、部活の時間じゃーん。とっとと行きますか」


「いってらっしゃい、そういえばテニス部は一年生入ってくるの?」


「部長が言ってたけど何人かは来るって。5~8人かな」


そうか、一年生は仮入部的な形で部活動に参加できる。その形で5~8人が入部してくるというのか、拓馬自身が喜んでいる姿を見ていると、あまり正直に言えなくなる。そうこうしているうちに拓馬は部活に向かっていった。俺もそろそろバイトに向かおうと立ち上がると携帯に一通のメッセージがきていた。由衣さんからだった。


『こんにちは。放課後、図書室で会えますか』


バイトまで三時間ほどはある。そんな長い時間は話せないけど、それでも会って話したかった。


『わかりました、今行きますね』


身支度した後、教室を出て図書室に向かっていった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


図書室に来るのは、あの日以来だったが前回と変わらず生徒の姿はほぼおらず、受付の先生と如何にも本が好きそうな文系系の生徒数人しかいなかった。

座席には彼女の姿はなく、探しながら室内を歩き回る。少し歩き回り前回と同じ場所に彼女はたたずんでいた。手に持っている本はこれから借りるのだろうか、大事に持っている。


「こんにちは、本当に本が好きなんですね」


「ん・・・直江さん、お久しぶりです。急に呼び出してごめんなさい」


「別にいいよ、バイトまでまだ時間あるし。それに、少し話したかったからさ」


実際、SNSでもそんなにやり取りしていない。お互いの活動時間が違う為か、バイト終わりに連絡をしても基本返信があるのは翌日の朝で、逆に向こうからメッセージが来たとしても、こっちがバイトの時間で返すことができなかった。だからこそ、話すのはSNSでも対面でも久しぶりであった。


「やっぱり、直江さんはバイトされているんですね。連絡しても返信が来るのが夜の10時頃でしたし、姉二人の言う通りでした」


「あー、バイト結構入れているから返信が遅くなってさ、ごめんね。由衣さんは7時か8時頃に連絡くれるけどバイトとかやってないの?」


「うちは両親が学生のうちは勉強とか部活を頑張ってほしいって理由でバイト禁止なんです。それに、私自身、運動が苦手なので部活も入ってないから、帰宅して落ち着く時間帯がそのあたりなんですよ」


「そうなんだ…それって〜」


話したい事が沢山出てくる。女子とは、あまり話さないタイプだけど由衣さんとの会話はそんな事を感じなかった。それは多分、こっちの話に対してリアクションが必ずあるからだと思う。


「あ、ごめん。もうバイトの時間だわ」


「え!ごめんなさい、時間取らせちゃって…」


「別にいいよ、由衣さんと話せて楽しかったし」


「うん…それなら良かった。バイト頑張ってくださいね」


そうして「それじゃあ、また」と図書室を後にした。時刻は午後4時30分、バイトには間に合うだろう。校舎内は、クラスを喋っている生徒ぐらいしかおらず閑散としていた。外からは運動部の声がする。


(暑いな…うかうかしてたらすぐに夏が来るんだろうな)


春の日差しが、思いの外暑く感じる。そんな放課後であった。



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