第6話 夕方の勘違い
『すみません・・・昔のことはあまり・・・』
帰り道はどこもよらずに真っ直ぐ帰宅し、久しぶりの再会を果たした彼女との出来事を思い返していた。
「憶えていないか・・・まぁ、しょうがないよね~・・・」
10年、物心がついた年齢で別れるとは違い小学校の低学年だ。当時の記憶なんてうっすらとしか憶えていないはずだし、高校生にもなれば背丈も声もほとんどが変わる。
俺だって、彼女が幼少期の思い出の時と比べてだいぶ大人っぽくなった事に驚いたんだ。しょうがないと頭では思いつつもやっぱり・・・
(へこむわぁ~・・・・)
記憶の中に一ミリも残っていないことが少なからずショックだった。
俺が思い続けていただけのようで心がチクチクと痛い。格闘技でいうところの倒れはしていないもののボディブローを食らいすぎて痣ができているのと近い痛みを、下校から数十分間の間受け続けている。
(俺ってこんなに打たれ弱かったっけ?連絡先交換はできたけど、このメンタルでメッセ遅れねぇ・・・)
拓馬たちとあのまま遊びにでも行けばよかったか。帰りの電車内でアイツから送られてきた写真は、ボーリングのスコアと競っている写真でどいつもこいつも楽しそうだった。
(俺もそっちに行けばよかったかな・・・いやいや、そっち選んだら連絡先交換なんてできなかっただろ!・・・もう、わけわからん・・・)
これがもし、声に出ていたら周りから物凄い目で見られていただろう。
新学期早々、頭を悩ませながら自宅のマンションにつき、エレベーターに乗った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ただいま~、さつきちゃんいるのー?」
家に帰ると、妹のものだろうローファーが置いてあった。三年間も履いている為か底が少しすれている。まだ中学生の妹は、基本的に部活がない日はすぐに家に帰ってくる。今日も家族の分の夕食を作るために早めに帰ってきて準備しているのだろう。
靴を脱ぎ、リビングに向かうと既にセーラー服から着替えて部屋着姿の妹が準備をしていた
「あ、お帰り~。お兄ちゃん、まず手を洗ってからこっち来てよね・・・」
「あー、ごめんごめん。返事なくてさ、本当にいるのかわかんなくて」
「全く・・・今日もパパとママ遅いらしいから私が作るね。あ、カレーだから今日のごはん」
「俺に拒否権なんてないでしょ、どーせ。」
文句を言いつつ感謝していることに関しては事実なのでゆっくりと食事を待とう。
妹の作るカレーを待ちながら、洗面台にいき手洗いをした後、部屋に戻って部屋着に着替えた。
(スマホの通知は・・・拓馬からと新クラスからだけね・・・)
彼女から何かしらメッセージが届いているかと思ったが、何も届いていなかった。
当たり前だろう、と思っていたがやはり残念なことは残念
はぁ・・・とため息をつき、携帯をベットに投げた後リビングに向かった
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「あのさぁ、お兄ちゃん。食事中にため息つくのやめてくれない?真向いでご飯食べていると食欲落ちるんだけど」
「え?ため息ついてた?・・・全然気づけなかったすまんね」
今日の出来事を思い出していると自然とため息が出てくる。普段はあまりため息をつかない兄が、しかも食事中にため息を連発しているのに心配なのか。さつきは少し心配した様子で話しかけた。
「新学期早々なんかあったの?拓馬さんとクラス別々になったとかさ。嫌な奴と同じクラスになったとか」
「そういう事はなかったよ、アイツともまた同じクラスだし。それより、さつきちゃんの方はどうなの?」
「んー?そういえばね・・・・」
それらしき事をいって会話をパスする。さつきは自分の話をするのが好きなタイプなので上手く話を切り上げれば、話をするのに夢中になって聞いてこなくなる。
妹のことは嫌いではないが、今日は触れずにそっとしてほしかった。
夕食を食べ終えお風呂に入る。落ち込んでいるときは暑いシャワーを浴びて洗い流すのが一番いい。
(忘れよう・・・明日からまた拓馬たちと馬鹿をやればいいんだ)
寝て忘れよう。すさんでいた心は何もかも否定的だった。
部屋に戻り時計を見ると夜の10時を回っていた。明日は土日なのでバイトに行くぐらいしか予定はないので夜更かししても問題ないのだが、今日は夜更かしする気力もなくベットに倒れこんだ。
ぼーっと天井を眺めていると、帰宅した際に投げ捨てたスマホが気になり思わず手を取った。
(どうせ、クーポンのお知らせぐらしか届いてないだろ・・・ん?)
対して期待していなかったが、そこには「椎名由衣」の文字があった。
『こんばんは、今日は急に連絡先を聞いてごめんなさい。また、図書室で待ってますね!』
「・・・あ~~!!んだよ!」
女々しくしていたのが、フラッシュバックしてきて途端に恥ずかしくなる。
『こちらこそよろしくね!』
(もうちょっと文章考えないとな・・・)
好きな相手にこんな文章を送るとは、さつきが見たらきっと怒るだろう。安堵からか笑みがこぼれ目を閉じた。
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