第4話 久しぶり
「…なので明後日から授業となる、みんな遅刻等するなよ」
拓馬から彼女の話を聞いてから先生の話は上の空の状態だった。
10年前に別れた彼女がこの学校にいる、けれどもしかしたら同名の人であって全くの別人かもしれない。けれど、もしかしたら…
(会いたいな…)
「それじゃ今日はここまでで土日を挟んで4日目から授業開始だから忘れ物等をしないように…それじゃ、お疲れ!」
担任である佐藤先生が、そう告げると席に座っている生徒たちは各々、下校したり友人たちと会って会話していたりする。
「はぁ〜、なんか4時間のために電車乗って来るのだるいわ…なぁ涼ちゃん、みんなとこれからファミレス行くけど行くっしょ?」
クラス替えもありはしたが、拓馬はほかのクラスの友人たちを呼び話しかけてきた。
総勢10名ほどの団体、しかもこれから昼飯となったらかなり待つことになるだろう。
(てか、この人数だったら確実にカラオケ・ボーリングコースだな・・・)
別に彼らと一緒に行動することが嫌いなわけじゃない。
ただ、今日に限っては彼らとの遊びより自分の目で、確かめたかった。彼女の姿を
とりあえず、うまくごまかそうと鈍い頭をひねりながらうまい言い訳を口に出す。
「悪い、ちょっと先生に相談することがあったから今日は俺、パス。」
「えっ、まじかよー!まぁ話すことがあるんだったらしょうがないか・・・」
「オッケー、また行こうぜ~」
そう言って拓馬率いる集団は人ごみの中へ消えていった。俺自身、拓馬のいいところは相手を尊重するところだと思っていて、無理に引き止めたりしないところで変なわだかまりは生まれない。
・・・まぁ、その為か女子生徒からは「私にあまり興味がない」だの言われて、交際期間が短いという欠点はあるが・・・
彼らの声が聞こえなくなり、廊下にいる人混みが落ち着き始め彼女を探すことにしたが、彼女が何組かも分からなかった。
それに、もしいたとしても友達といたり、何なら拓馬が言っていた姉貴どもと一緒にいたりする可能性だってある。こっちの存在が分からなければ、「キモい」と見なされて今後、会うことはなくなるだろう・・・
校内を考えながら歩き回っていると図書室の前まで来ていた。
(そういえば、初めて会ったのも図書室だったなぁ)
彼女と初めて会ったことを思い出し、図書室に入った。生徒の影は見た限りなく先生も裏で作業しているのだろうか、室内は廊下と違って静かだった。
(誰もいないな、まぁ始業式早々に来るやつなんていないだろうし・・・お、昔見てたやつじゃん・・・あ、これも懐かしいな)
本を読むこと自体嫌いではなく中学時代、本を借りており、当時読んでいた本を見ると懐かしさを思い出す。そうして、当初の目的を忘れ懐かしい本を探していると、小さい背丈の髪を上で縛っている女子の姿があった。
「・・・んっ?こんにちは。」
「え、あーこんにちは。もしかして一年生?」
「はい、一年の椎名由衣です。私、昔から本が好きなのでここの図書室はどうなのかなーって思って来てみたんです・・・私、お姉ちゃんたちに比べて運動できないものですから」
「恥ずかしいですよね」とクスクス笑いながら、自分の事を話す彼女。その笑う姿はあの時見た姿と変わっていなかった。僕の好きなあの笑顔で・・・
「・・・あの俺、直江涼太って言います。君と小学生の時に同じ図書室で本を読んでいた子・・・覚えていますか?」
覚えていると言ってほしい。覚えていてほしい、そんなことを願いつつ彼女に聞いてみた。
「すみません・・・昔の記憶はあまり・・・」
「ですよね・・・すみません。」
当たり前だ、十年も前の話なんだから覚えているのも難しいだろう・・・
「あ、すみません!これからお姉ちゃんたちと帰る予定があって」
「大丈夫ですよ、ごめんね。なんか足止めしちゃって」
「いえいえ・・・あのもしよかったら連絡先交換しませんか?」
え?連絡先を交換・・・?
「せっかくの会ったのも縁ですから。しましょ、ほら!」
そうせかされ携帯を開き連絡先を交換したのち、彼女は足早に教室から出て行ってしまった。
(覚えていないか・・・けれど、一歩前進した感じかな?)
覚えていないのだったらこれから新しく作ればいい、そうポジティブにとらえつつ図書室を後にした。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「それで、由衣ちゃんは思い出の彼と連絡先は交換できたの?」
「・・・うん」
「やったね!けど、急に恥ずかしくなって本音を隠しちゃうのは由衣ちゃんらしいよ(笑)」
2人の姉に言われながら椎名姉妹は揃って帰路に向かっていた
(久しぶり会って何も言えなかった・・・けど涼太くんカッコよくなってたな///)
まだ始まったばかりの春の季節は、暖かく出会いを運んでくれる
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