え、あーアイドル

ぺんなす

第1話 原石

ダイヤの原石を探し求めて、今日も町を練り歩く。

雨の中見つけた少女は、傘もささず佇んでいた。

少女は輝いていた。眩しいくらい輝いていた。

暗い時間で、雨も降っていてこんなにも視界が悪い中俺は───

原石の擬人化と出会った。

口から出た言葉は一択だった。

「アイドルになりませんか?」

不審者。そう、完全に不審者だ。

それでも、彼女の輝きを見て、これを言わずにはいられなかった。

驚いた表情の少女。

「うん。いいよ」

一瞬で微笑んだ表情に変わり、そう答えた。

驚きを隠せるわけなく、俺の時間は一瞬止まった。


これが、"ラン"こと宮内 蘭との出会いだった。

彼女のアイドルとしての才能は凄まじいものだった。

天才肌……と言えば伝わるだろうか。

彼女に歌とダンスを一度教えれば、すぐに覚え完璧にこなし自分のものにする。さらに

「あれ、そこの振り……」

「え、あーこれ?こっちの方が映えでしょ」

「……確かにそうだな。よし、先生に連絡してみるから、映像撮るか」

「うん」

自分の魅せ方も分かってる。一つ一つの動作に表情、その全てが完璧だ。出会った時はここまで才能のある子だとは思わなかった。

ただ一つ、問題がある。それは

「今日も帰らないのか?」

「え、うん」

そう。彼女は家に帰らないで、近くのホテルに泊まっている。

何故家に帰らないのか。聞くべきことであるとは思うが、プライベートなことだ。簡単に心に入り込むのはよくない。とはいえ、蘭は高校生だ。一人で夜道は危ないと思っていつもホテルまで送っている。

「今日もお疲れ様、蘭。明日もよろしくな」

「うん、おつかれ。じゃ」

やっぱり聞くべきなんだろうか…。うーむ……。

普通親御さんが心配して連絡が来るものなんじゃないか?

いや、それは決めつけだな。よくない。こっちから連絡したほうがいいだろうか…。でも、蘭が帰りたがらないってことは蘭にものっぴきならない事情があるんだろう。それなら、まだ出会って間もない俺が、踏み込むべきではないな。

家族というのは簡単に説明できるものではなく、人それぞれ異なる存在だ。

もう少し時間を空けてから聞こう。

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