俺は知っているから その2
【ご報告】
新連載始めました。タイトルは「日本連合王国の反逆者たち」です。最近では数が少なくなった異能バトルものです。ご一読とご感想の程、お待ちしております。
https://kakuyomu.jp/works/16816927862423802455
フィリップ ヴァーグナー
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今日はテスト範囲に出て来る英文法を教えて欲しいと雪菜からリクエストがあり、いつもとは違って会話練習をせずに黙々と勉強を進めていたが、秋人は少し気まずさを覚えていた。
「(やっぱりなんか怒ってるよな……。今日の教室での件だよなぁ、多分)」
朝のホームルームでやっかみを受けて以降、雪菜はずっと腹に据えかねるといった表情をしていた。自分の事ではないというのに、根本的にこの子は優しいのだなと秋人は苦笑いした。
「あのさ、別に今日のことは気にしなくて良いから。ああいうの、正直慣れてるし」
突然の秋人の言葉に反応した雪菜は、そっとペンをテーブルに置く。
「……秋月君のために怒ってるわけじゃないわ。人が陰でどんな努力をしているのかも知らずに、うわべだけ見て文句を言う人が嫌いなだけよ」
肘をつきながら視線を逸らす雪菜に、思わず秋人は吹き出す。
「何?」
「いいや、何でも」
怪訝そうに秋人を睨む雪菜だが、秋人はそれすらも微笑ましかった。
「(ほんと、素直じゃないな)」
結局のところ、秋人のために怒っているのだと告白しているようなものなのに、それを素直に表現できない。そんな面倒くさいところも雪菜の魅力だと、秋人は最近気づいた。
「ところで、もうすぐテストが近づいてきているし、掃除とか晩ご飯の作り置きとかしばらく大丈夫だよ。さすがにテスト勉強と両立は厳しいでしょ?」
「えっ? でも……」
突然の申し出に雪菜は驚く。
「大丈夫。ご飯はお総菜とか弁当を買うようにするし、掃除は最近お掃除ロボットを買ったから、しばらくは俺一人でもなんとかなると思う。俺のせいで成績が落ちてしまったらそっちの方が申し訳ないし……。あ、もちろん英語は今まで通り教えるよ。何だったら他の教科だって――」
「ま、待って!」
秋人の言葉を雪菜は大声で遮った。
「それじゃあ、等価交換にならない。秋月君ばかりが損をして、私だけが得をしてしまう。その上他の教科まで教えてもらったら、秋月君の負担が増えてしまうわ。……私だけが、貰ってばかり。そんなの、ダメ」
雪菜は真剣な眼差しで秋人に訴える。しかし、秋人は雪菜の言っている意味が分からず、首を傾げた。
「どこが貰ってばっかりなの?」
「え……?」
今度は雪菜が秋人の言っている意味を分からず問い返す。
「だって、水川さんに掃除や料理をやっていてもらえているおかげで、翻訳の仕事に使える時間を確保できているわけだし、健康的な生活を送ることが出来ている。これって、水川さんが思っている以上にメリットを享受している状態なんだよ。むしろ僕が貰いすぎなくらいだ。ちょっとの期間掃除やら料理やらをやらないだけで、等価交換が釣り合わなくなるとは思わないよ」
雪菜は何も返答しないが、秋人は構わず言葉を続ける。
「他の教科を教えるのだって、別に僕は負担だとは思わない。水川さんは地頭が良いから教えたことはすぐ覚えてくれるし、数教科教えるものが増えても負担にはならない」
「でも……」
なんとか言い返そうとする雪菜に、秋人は少し苦笑いする。
「水川さんは、人に頼るのが苦手すぎるよ。……もう少し、俺を頼ってほしいな」
秋人の哀愁漂う言葉に、ついに観念したのか雪菜はため息をつく。
「……分かったわ。じゃあ、お言葉に甘えます」
「どうぞどうぞ」
秋人は満足げに笑った。
「なら、明日から料理と掃除はお休みということで! 期末テスト、いい結果取れるようにお互い頑張ろう!」
「そうね。秋月君はきっと余裕で一位取るだろうから、お掃除の方、頑張ってね」
「もちろん、お掃除ロボット君が頑張ってくれるよ」
「……どうしよう、不安になって来たわ」
雪菜は秋人の他力本願な姿勢に、わざとらしく不安そうな表情を作った。
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