04話.[そうしましょう]

「かい、プレゼントとかって用意した方がいいの?」

「んー、さくがあげたいなら買えばいいんじゃないかな」

「そういうものなんだ」


 ならいいか、なんか自分だけ用意することになったら恥ずかしいし。

 参加することになってしまったが隅っこにでも座っておけばいいだろう。

 話しかけられたら対応をするぐらいでいい、下手に上手くやろうとするときっと失敗するからそれしかできないとも言えるけど。


「場所はさくの家ね」

「えっ? なんで……」

「ご両親がすぐに帰ってこないからいいなって、それなら多少騒がしくしても問題にはなりにくいでしょ?」


 そういうことか、まあ、誰かの家に行くよりは楽かと終わらせる。

 別にこっちが食べ物を買うお金を全部払わなければいけないとかそういうことでもないから気にしなくていい。

 ただ、このことをあのふたりにも言ってあるのかどうかが気になった。


「あ、もう言ってあるから。ちなみに柳平先輩は『そうなのね』と反応して、清水ちゃんは『四人で過ごせるならどこでもいいです』と反応していたよ」

「はは、清水さんはなんか拘っているよね」

「友達になれたからでしょ、僕だって友達とはいっぱい一緒にいたいと思うよ?」

「そっか」


 ベッドに寝転んで天井を見る、やっぱりこちらは無理して誘っているようにしか考えられなかった。

 いま頃、知りたいとか言ってしまったことを後悔していそうだ。


「ね、さくはどっちが好きなの?」

「恋愛に興味がなくなっているとか言っていたのに興味津々だね」

「僕が動かなければいけないわけじゃないからね、ほら、教えてよ」

「どっちが好きなのって、清水さんとは出会ったばかりなんだからさ」

「じゃあやっぱり柳平先輩なんだね、ふふふ、素直じゃないねえ」


 ちなみに現時点でも僕はれみのことが好きでいる、意外と抱えたままでもこれといって問題が出ていないからなにかがない限りはこのままということになる。


「実際お似合いだと思うんだよね、柳平先輩だってなんか気にしているから」

「友達だからね、僕がアホなことをしたから気になったんでしょ」

「確かにさくはアホだね」


 アホみたいに寝転んでいるのも馬鹿らしいから一階に移動してご飯作りを始めた。

 学習する人間だから食べるのかどうか聞いてみると、元気よく「食べる!」と言ってきたから彼の分も考えて作っていく。

 たまに言葉で刺してくる彼であってもこうしていてくれるところは好きだ、だからこれぐらいのことはしなければならない。


「おかしい」

「なにが? ご飯ができたから運んでよ」

「それはするけどさ、今日も来ないんだね」

「毎日来るわけじゃないよ、ほら、運んで食べよう」


 食べながら明日は買い物に行って色々買ってこようと決めた。

 こうして誰かが来る可能性があるから少し多めでもいいかもしれない。

 もっとも、家に来たうえにご飯を食べていくのなんて彼ぐらいなものだけどね。


「ぷはぁ、さくは女子力があるね」

「一応これでも長くやっているからね」

「昔はそれこそ柳平先輩のために作ったりしていたんじゃないの?」

「ないよ、作ってもらったことはあるけどね」


 というか彼はれみのことを話しすぎだ、興味があるようにしか見えない。

 なにも知らない男の人に取られるより彼が相手になってくれた方がいいかとまで考えて、それだとれみが我慢することになるから駄目だと捨てる。

 そもそもこの子はいま、恋愛はどうでもいいみたいだから意味のない話だった。


「あ、二十六日から三日までこっちにいないから寂し死しないでね」

「ははは、去年だって一緒に過ごさなかったんだから寂し死なんてしないよ」

「連絡するから、毎日五分毎に連絡するからちゃんと相手をしてね」

「嘘つき、そんなことはしなくていいから楽しんできなさい」


 大変になる前に洗い物を終わらせてソファに座る、ちなみにここには既に寝転んでいる彼がいたが気にせずその上に座った。

 彼だけがいる状態ならフラットな状態で対応できるから楽だ、最近はなんか放課後もよく一緒にいてくれているから続けばいいななんて考えた。


「……さくが参加してくれてよかった」

「清水さんもそうだけどいきなりなんでそんなことになるの? いやまあ、もう参加することにしたけどさ」


 誘われたのに去年も同じようにして断っていたとかそういうことではない、僕らは元々それぞれの過ごし方をしていただけなんだ。

 そういうのもあってなんか違和感がすごいというか、彼も同じく無理をしているようにしか見えない。


「前も言ったけどさくはふらっとどこかに行っちゃうからだよ、それに教えてくれないことだって多かったし……」

「距離を感じていたってこと? 柳平先輩のこと以外は全部隠さずに言っているよ」


 言わなきゃ他者は分からない、察して行動するのはなかなかできることではない。

 なんにも考えずに他者のために行動できる人がいたらその人は素晴らしい人だ。

 僕の場合は間違いなく考えるだけ考えて、だけど結局なにも動かずに終わるから尚更そう感じる。

 まあ、そんな人とはこれまで一度も出会ってことがないから妄想の存在みたいなものなんだけどね。


「心配しなくても柳平先輩の彼氏になりたいとか考えていないからね? 魅力的な人だけど遠い場所にいる人だからそもそも無理なんだ」

「え、そんな心配はしていないけど……」

「でも、なんか隠すじゃん」

「少なくともそういうつもりは一切ないよ、なんか言えなかっただけなんだ」

「言えないということはつまりそういうことなんじゃないの?」


 首を振って否定する。

 そういうことでもなんでもなく、本当に言えなかっただけだからそれまでのことでしかなかった。




「終業式も終わったけどかいもれみも清水さんも来ないな」


 てっきり一緒に帰るのかと考えていたがそうではないらしい、これならずっと待っていても馬鹿らしいから帰ろうとしたときにれみがやって来た。


「よかった、まだいたのね」

「かい達は?」

「え、知らないけれど」


 時間がかかったのは友達と色々話をしていたかららしい、彼女的には早く移動したかったみたいだが相手をするしかなかったみたいだ。

 こちらとしては誘っておきながら放置をするような子ではなくてよかったとしか言えない。


「それならたまにはふたりで帰ろうか」

「ええ、そうしましょう」


 学校をあとにしてから少しして、やっぱりこの子は件の人とのことを話してくれな

いなと内で呟いた。

 そういう意味ではなんにも進展していないのか、そもそも好きではないのか、本当のところは彼女しか分からないことだからもやもやする。


「今日はこのままあなたのお家に行くわ」

「あ、そうだね、一旦別れることになるよりはいいかな」


 終わったら今日は家まで送ろうと決めた。

 彼女はこっちに参加することを決めているんだからそういうことをしても全く問題ない、というか、夜に女の子ふたりだけで帰すのは心配だった。

 もう知っているわけだし、家を知ってどうこうとかそういうのもないしね。


「ただいまーっと」

「お邪魔します」


 飲み物を渡して、とりあえずこちらは制服から着替えるために部屋に移動をする。

 一応待たせていることになるからささっと着替えて移動しようとしたときのこと、何故かれみが部屋に来てしまった。

 勘違いしてほしくないから放置するつもりはなかったのだと説明しても彼女はなにも言わずに床に静かに座っただけだった。


「かい達はちゃんと来てくれるのかな?」


 へ、返事がない、これではやばい奴になってしまう。

 ちなみに自分で聞いておいてあれだが、今朝は「早く終わらないかな、終わったらいっぱい四人で楽しむんだ」と言っていたから間違いなくかいは来る、四人で過ごそうと言ったのは清水さんだからそっちも同じだ。


「さく君」

「あ、やっぱりあの人と過ごしたいとか?」

「いえ、それはないわ」

「じゃあ……どうぞ」


 早く来てくれ、僕ひとりでいまの彼女の相手をするのは無理だ。


「実は山口君達はもう食べ物とかを買いに行ってくれているの」

「あ、そうなの? それじゃあ後でお金を払わないといけないね」

「私も行くって言ったんだけれど、何故か『さくと一緒にいてください』と言われてしまって……」

「なるほど、じゃあいまここにいるのはれみの意思じゃないんだね」

「え、私の意思でここにいるけれど……」


 気に入っている後輩から頼まれて仕方がなくそうしているわけではないみたいだ、最近の彼女は本当に分かりやすくない子だ。

 ただまあ、仕方がなくいられるよりは間違いなくいいことなので、そうなんだと返しておいた。


「山口君も清水さんも優しい子だわ、あなたにも見習ってほしいぐらい」

「僕は無理だよ、それにそれはきみもよく分かっているはずだ」

「……なんでも無理無理って諦めないでほしいけれど」

「少なくともそういうことを僕に期待するのはやめた方がいい」


 僕がかいみたいにできる人間なら、僕が清水さんみたいにできる人間なら、そういうことは意味がないと分かっていても何度も考えたことがある。

 言ってしまえばふたりみたいにできるのなら僕はもっと昔に彼女に告白をしていたはずだ、そしてふたりみたいな魅力があるということから受け入れられていた。

 付き合えたらゴールというわけではないから色々と難しいところはあるものの、いちゃいちゃしながら上手くやれていたと思う。


「さく君――」

「あ、ごめん、もしもし?」

「さく~、重いから早く開けて~」

「分かった、すぐに行くよ」


 一階に移動して扉を開けるとやたらと大きい袋を持ったかいが立っていた、その後ろには清水さんもいてどこかほっとする。

 ふたつあったから片方は受け取って運ばせてもらった、……その重みから何円したんだろうと不安になったが表には出さないようにした。


「ふぃ~、って、暖かくないなあ……」

「ごめん、さっきまで部屋にいたんだ」

「おいおいおーい、柳平先輩となにをしていたんだっ」

「会話だよ会話。とにかくお疲れ様、レシート見せて」


 見せてもらったものの、こういう場合はどれぐらい払えばいいのか……。


「かい、どれぐらい払えばいい?」

「うーん、千五百円ぐらい?」

「て、適当だなあ」

「クリスマスなんだからそれぐらいでいいんだよ」


 清水さんもこの話になってからは不安そうな顔になってしまったので、どうしたものかと考えている間に唯一の年上であるれみが下りてきて安心する。


「私が全部払うわ、山口君と清水さんにはお世話になったから」

「おいおいおーい、清水さんはともかくかいは柳平先輩になにをしたの?」


 本当にこそこそしていたのは彼だったということになる、自分のことを棚に上げてちくりと言葉で刺すのは違うと思うんだ。

 僕は彼の真似をしただけだったが「え? 特には……」と本気で困ったような顔になってしまったから謝罪をした。

 まあいいか、約五千円だからそれなら僕はその半分の二千五百円を払おう。

 いい雰囲気を壊してしまうのが怖かっただけで、誘ってもらえたことが嬉しいからそうなってもなんにも嫌ではない。


「この子を参加させてくれたからよ」

「それで頑張ったのは清水ちゃんですよ?」

「あなたも同じよ、だから気にしなくていいわ」


 順調に仲良くなれているようで微笑ましくなる。

 これであとは僕が決めてしまえば、


「柳平先輩、僕も払うから安心してよ」

「駄目よ」


「さく君……」となるはずだったのに冷たくも見えるようなそんな顔で断られてしまい、やはり僕が格好つけたところで意味がないのだと分からせられたのだった。




「あ゛ぁ、食べすぎたぁ……」

「でも、かいがいっぱい食べてくれてよかったよ、余ってしまったら困るからね」

「うぅ、コントロールできないのが問題なんだよねえ……」


 なんか分かりやすく弱ってしまったから客間に敷布団を敷いて寝かせておいた。

 こちらは片付けなどをして今回も後の自分が困らないようにする。


「あの、やっぱり払います、私のわがままに付き合ってもらったんですから全部払いますよ」

「それなら僕なんて一度断っておきながら誘ってくれたからって参加しているよ、一緒に過ごしてくれてありがたいからそんなのいいよ」

「私が払わせるつもりはないわ、そもそももう山口君には渡してしまったもの」

「「え」」

「清水さん、あなたには特に感謝しているわ、ありがとう」


 だからって全額じゃなくてもいいだろうに、彼女はこういうところがあるから本当に困ってしまう。

 しかも理由が理由だから呆れる、一度こうと決めたら変えないところは彼女らしいと言えるけども。

 それぐらい好きな人のために行動してほしかった、そのせいで誘ってもらえたのに断ることになったんだから気をつけてほしい。


「あの、どうしてそこまで長濱先輩にこだわるんですか? 私も誘いましたけど、柳平先輩のそれはなんかもっと違う意味が込められている気がします」

「この子はこれまでひとりで過ごしてきたからよ」

「誘わなかったんですか?」

「私は何度も誘おうとしたわ、でも、駄目だったの」


 一応言っておくとクリスマスが近づく度に嫌な態度を取っていたわけではない。

 ひとりで過ごすのが当たり前だったとはいえ、誘われたら参加していた。

 それが彼女ならそれはもうテンションを上げていたことだろう、まあ、残念ながら今年以外はなにもなかったことになるんだけど。


「もう十九時十五分ぐらいだけど清水さんは大丈夫なの?」


 待ちきれなかったかいに応えて少し早めに始めたからこその時間だった。

 とはいえ、ご両親としては早く帰ってきてほしいだろうからいつまでもここにいさせるわけにはいかない。


「ちなみに長濱先輩的には何時ぐらいまでなら大丈夫ですか?」

「僕的には二十時だって二十一時だって一緒にいてくれるならありがたいけど、帰らなければいけないことを考えたら少なくとも二十時前にはきみが家にいられるぐらいがいいかな」


 その方が家に帰ってからお互いにゆっくりすることができる。

 長時間いられればいられるほどいい結果をもたらすというわけではないため、一緒に過ごせた、楽しめたということを喜んでおけばいい。

 なんて、楽しく過ごせたのは僕のおかげではなくてふたりがいてくれたからだ、僕と清水さんは似ているから多分そのように考えているはずだった。


「柳平先輩が相手でも同じ対応をしてくれますか? 柳平先輩だけ泊まらせるとかそういうことをしませんか?」

「一緒に送っていくつもりだったよ」


 れみがそんなことをするわけがないとは思いつつも言ったりはしなかった、誘われたとき以外は大人の対応というやつができている気がする。

 悪いところばかりではないということがこの短時間で分かって、僕はその点でも嬉しくなれた。


「それならもう少しだけいさせてください、ちゃんと長濱先輩が望んだ時間には帰りますから」

「追い出そうとしているわけではないからね? そこを勘違いしないでね」


 勘違いでもなんでもなく無表情でこちらを見てきている彼女はなにを言いたいんだろうか。

 清水さんが喋ると彼女が黙って、彼女が喋ると清水さんも喋るから対応が大変だ。

 この点だけは今日の微妙なところだと言えた、分かりやすく行動をしてくれるまではふたりきりじゃないと駄目みたいだった。


「本当に今日は四人で過ごせてよかったです」

「はは、怖いって言っていたのは別人だったのかな?」

「違います、私はいまでも怖いです。でも、恐れてばかりではもったいないことになりそうだからやめたんです」

「強いね、普通やめようと思ってもなかなかできないものだよ」

「わがままなだけです、頑張れたということは嬉しいですけどね」


 うーん、れみも清水さんも頑張りどころを間違えているというか……。

 ただまあ、本当にいい笑みを浮かべていたからいちいち言ったりはしなかった。

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