6.
儀式の後、村人たちは三々五々に自分の家へと帰って行った。行く当てのないハルだけは、いつまでも集会所に残っていた。
座敷にいた村人たちは彼女を取り囲み、一様に不思議がった。
「くん
「くったん赤っけ服、みったーなせな(こんな赤い服、みっともないな)」
「
耳慣れぬ訛りと、降り注ぐ好奇の目。
ハルは答えに窮して黙り込んでいた。すると、冬明が代わりに話し出した。
「
皆が注目する中、冬明は臆せず言い切った。
「
これを聞いて、その場にいた一人が声を上げた。
「
冬明は真顔で頷いた。
「さーざ(そうだ)」
その瞬間、その場にいた全員が眉を顰めた。一人の老婆が、ケガル、ケガルと言いながら、数珠を握って何やら拝み始め、辺りは不穏な空気に包まれた。
来ちゃいけないところに来ちゃったのかな。
明らかに歓迎されていないことを肌で感じて、ハルはますます委縮した。
すると冬明は彼らを睨みつけ、いらだちを滲ませながら叫んだ。
「
これには冬明の父も我慢ならないというふうに口火を切った。
「フユアケ、
父は息子の首根っこを引っ掴もうとしたが、一人の老人が彼を制した。それは、先ほどまで仮面をつけて儀式を行っていた道士様だった。
彼はハルの方へ歩み寄ると、その場にしゃがんでハルの方をじっと見た。少し緊張して、ハルは思わず目を逸らした。
「
彼はハルの肩に手を置いて、笑顔で穏やかに語りかけた。
「まぁ、
彼の鶴の一声で、部屋の中が水を打ったように静まり返った。
「……
冬明の父はチッ、と舌打ちした。
「
他の村人たちもそれ以上追及しなかった。
この集会所は冬明の実家で、道士様はここの家主だった。
ハルが通されたのは、家の一番隅にある物置のような部屋だった。
窓から差し込む月明かりが、埃っぽい空気に一筋の光を投げかけた。
「……あの人たちって、フユアケくんの親戚?」
二人きりになってから、ハルは布団を持ってきてくれた冬明に尋ねた。
「うん。みぃんな親戚ざげぇ、
「ヤガー?」
「くん村は
冬明は、村の人は彼の家のことを「
「あのお爺さんは、フユアケくんのお爺さん?」
ハルはかび臭い布団を敷きながら、道士様のことについて尋ねた。
「あぁ、
冬明は床に散らばったゴミを片付けながらそう言って、ゲホ、と軽く咳き込んだ。
「偉い人なの?」
ハルのこの問いに、冬明は目を背けたまま返事をした。
「……まあな」
よほど先ほどお祭りのことが気になったのか、ハルは興奮気味にまくし立てた。
「さっきのアレ、何だったの?」
「アレ、て?」
「さっきやってた、何かの儀式、みたいな……」
「あぁ、『
「クチユセ……?」
ハルにとっては何もかもが分からないことだらけだった。
ここはどこなんだろう。
あのお祭りは何なんだろう。
しかし冬明はと言えば、ふぁあ、と大きく欠伸をした。
「はー
ハルはまだ聞き足りないことがたくさんあったが、冬明はそれ以上彼女の質問に答えず、話を切り上げてしまった。
部屋を出る間際、冬明は隣の部屋へとつながる襖を指さした。
「あぁ、
その黄ばんだ襖には、表面に何枚もお札が張られていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます