第86話 ※話はやつらを倒した後です。
友戯との楽しい時間を終えた次は、こちらも概ね似たようなものになる。
「どうする、先に安置取るか?」
『あぁ……まあキルポも少しはあるし、そうするかー』
それはもちろん、もう一人の親友──
昼から夕方までを友戯と過ごし、夕食後は景井と夜までオンラインで遊ぶというのが、ここ最近のルーティンだった。
我ながら少々遊び過ぎなきらいはあったが、わかっていても止められないのがゲームというもの。
──夏休みゆえ、致し方なし。
せっかくの青春真っ只中であることを言い訳に、トオルは今日も今日とてぐうたらした生活に明け暮れるのだ。
「あ、そういやさ」
『ん? どしたー?』
というわけで、ゲーム内で有利なボジションを確保したトオルは、しばらく暇になったのでいつものように雑談を始めることにした。
「大好さんとどうだったんだ?」
『……えっと?』
「いや、友戯から聞いたんだけど、この間のマウンドセブンの時に二人きりだったんだろ?」
『あー……』
内容は、珍しくも恋バナのようなものである。
実はあの日、友戯と一緒に付けて来ていた友人というのは大好さんと景井の二人だったらしいのだ。
友戯がトオルと合流した以後は当然、残された二人で遊んだことだと思うので、ついどうなったのかが気になってしまうのも仕方のないことだろう。
『いや、これといって良い感じのは無かったなー。二人きりになった後も遠くから日並たちの観察に夢中になってたし』
「え、見てたの?」
が、残念なことに、面白い話が聴けるどころか予想外のことを知ることとなってしまう。
『おう、石徹白さんに抱きつかれてるところとか、転んだ二人をエロい目で見てるところとか』
「ま、マジかよ……」
しかも、がっつり見られたくないところを見られていたため、一転してトオルの方が追い詰められることに。
「ちなみに、カラオケの方は……?」
『そっちは流石に見てないよ。代わりに、別の部屋で大好さんの恋バナに付き合わされてたぜー』
幸いだったのは、カラオケボックス内での友戯とのやり取りを見られていなかったところか。
あれを見られていたら、いったいどんな誤解が生まれていたのか、恐ろしいにもほどがあるというものである。
『てか、その様子だと何かあったんだなー』
「い、いやっ、やましいこととかではないぞ?」
そして案の定、余計な質問のせいで疑いをかけられたトオルは慌てて否定するが、
『じゃあ、教えられるよなー?』
「うっ……!?」
またしても墓穴を掘る始末。
こうなっては、逃げたところで疑惑は残り続けてしまうこと間違いなし。
「その、引かないでくれよ?」
『あ、ああ……』
覚悟を決めたトオルは真剣な声色で尋ね、
「……友戯と、ハグ……的なことをした」
『…………』
おずおずと、真実を語った。
沈黙する景井に、トオルの緊張はピークに達し、
『はぁ……なんだ、そのくらいかー……』
「……へ?」
しかし、意外にも反応は軽いものだった。
「そ、そのくらい……?」
『いや、まあハグでも充分に驚きではあるけどもー……』
これには、逆に心配になるトオルだったが、
『正直に言うと、多少エロいことしててもおかしくないと思ってたわ』
「…………」
どうやら、彼の想像はさらに上を行っていたようである。
「お前は俺たちをなんだと思ってるんだ……」
酷い誤解をされていたことにショックを受けたトオルは、思わずため息をつくが、
『え? うーん……友達と言いつつそこらのカップルよりイチャついてるやつら?』
「なにっ……!?」
返ってきた答えはさらに無情なものだった。
「いやいや、そんなことないだろ……?」
『いやいやいやいや、君たち傍から見たら相当ですぜー』
まさかと思い確認するも、景井は至って真面目かのようにそう告げてくる。
──そんなイチャついてるって言うほどか……? でも、景井にはそう見えてるわけで……。
トオルは頭を抱えた。
自分としては全くそんな気は無かったのだが、他者から見たらそうだと言われればどうしようもない。
「でも、本当に恋愛感情とかは無いんだけどな……」
結果、口をついて出たのは正直な思いで、
『まあ、確かに恋人同士かって言われると雰囲気違うなー』
「だ、だろ?」
実際、景井もそこまでとは思っていないようだった。
これに、トオルは一安心しようとし、
『あ、でも、そういう意味で行くなら──』
つい油断が生じたその瞬間、
『──
「ン゛ッ!!??」
とんでもない爆弾を放り込まれ、堪らず咳き込んでしまう。
「げほっげほっ……! な、なんだって……?」
聞き間違いではないかと、喉の痛みに耐えながら確認するも、
『だから、石徹白さんは日並が好きなんじゃないかって大好さんが』
どうやらその線は無いようであった。
──石徹白さんが、俺を……!?
今までその可能性を考えたことは無かったが、言われてしまえば意識してしまうのが思春期男子。
自然と、白髪の美少女──
もし彼の言うことが真実だったとするのなら、それはつまりあんな可愛い女の子と付き合える可能性も出てくるということで、
──いやいやまさかっ!!
同時、あまりに信じ難いことでもあったために馬鹿馬鹿しいと首を振った。
「ち、ちょっと待てっ……なんでそんな話にっ……!?」
ひとまず、そんな戯言が生まれた原因を探るため景井に問いかけると、
「いやほら、最初のローラースケートの後、あからさまに避けられてただろ?」
「ああ、そういえばそんなこともあったな……で、それがどうかしたのか?」
「なんでも、それが好き避けなんじゃないかーって言ってたな」
「っ!!」
妙に説得力のある理屈が返ってくる。
──す、SU《ス》.KI《キ》.SA《サ》.KE《ケ》.ッ……!!
それは、トオルのような陰キャ男子にとっては都市伝説レベルの恋愛ワード。
惚れる側ではあっても惚れられる側では決してない、そう思っていたトオルにとっては正しく青天の霹靂な言葉だった。
「……景井は、どう思う」
まさか本当にワンチャンあるのかと、急にドキドキしてきたトオルは親友の意見が欲しくなり、
「……可能性は──」
「っ……」
溜まっていたつばをごくりと飲み下した直後、
「──おい日並、敵が来たぞッ!!」
「なにッ!?」
タイミングが悪いことに、ゲームの方で動きが発生してしまう。
──くそっ、どっちなんだっ……!?
結果、トオルはまるで戦闘に身が入らず、呆気なく敗北を喫してしまったことは言うまでもないのだった。
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