第70話 ※三国同盟結成です。

 一方その頃。


 二日連続で教室に取り残された遊愛は、昨晩からの疑念をさらに強めていた。



 ──また、二人していなくなった。



 一回だけなら偶然の可能性も高かったが、ニ日続けてともなると明らかに不自然であろう。


 そうなると、やはり二人は何か特別な関係で、どこかでひっそりと密会でもしているのではないかと思わずにはいられない。



「遊愛〜? どうしたの難しい顔して〜」



 そんな風に一人モヤモヤしていると、横にいたレンが違和感を覚えたのか顔を覗かせてくる。



「別に……」



 しかし、もし正直に答えたら確実にイジられることが確定しているため、そう返すことしかできないのだが、



「う〜ん、前にもこんな感じのあったけど……やっぱり日並くん関係?」

「っ!」



 流石は長い付き合いの友人だけあって、すぐに図星を突かれてしまった。



「だったらなに……?」

「え、あ、うん、そうなんだ〜っていう……」



 故に、いつもならここで慌てるところなのだが、不思議とそんな気分にはならない。


 今はそれ以上に気がかりなことがあるため思わず低い声が出てしまったが、おかげでレンも反応に困ってしまっていた。



「こ、これは相当重症だねー」

「み、みたいだね〜……」



 レンと景井静雄かげいしずおの両名はそんな遊愛を見て動揺している様子だったが、もはやそれを気にする余裕も無い。



 ──いっそのこと、言ってしまおうか。



 そうして悶々としていると、徐々に吐き出したい気持ちが強くなってくる。



 ──まあレンも恋バナとか好きみたいだし……。



 やがて、別に話してしまっても良いのではないかという結論に至った遊愛は、



「ねえ、日並とルナってどうだと思う?」

「え?」



 とうとう相談を試みることを決意していた。



「あの二人がどうかしたの?」

「ほら、昨日今日と二人していなくなってるでしょ」

「あー確かに……って、まさかっ!?」



 それを聞いたレンは最初、何のことかよく分からなかったようだが、やはり嗅覚は衰えていないよである。



「なになに、そういう感じなの……!?」



 すぐに青春の気配を察知したのか、興奮した様子で詰め寄ってきた。



「分からないけど、もしかしたらって思って」



 遊愛はできるだけ平静を装って、何となくそう思った程度の姿勢を見せる。


 隙を見せればやられるのはこちらの方なので当然だろう。



「うーん、たまたまじゃないの? 俺も聞いたことないしー」



 と、ここに来て景井くんが割り込んでくるが、どうやら彼も全く知らない様子。


 確かに、二日連続で席を外しているだけだというなら彼の言い分も納得がいく部分はあるかもしれない。



「それがさ、実は昨日ルナのことについて聴いてきたんだよね」

「っ!!」



 だが、こちらにはもう一つ大きな根拠があった。



「好きなものとか、苦手なものとか、そういうの色々」

「なん……だと……?」



 もちろん、それは昨日発生した紛れもない事実であり、これには景井くんも動揺を隠せないようである。



「ええ!? じゃあもうほぼ確じゃない!?」

「やっぱ、そうなのかな……」



 そして、レンが鼻息も荒くそう告げれば、遊愛もまた気分がどんよりと落ち込む。


 やはり、そういったことを内緒にされていると考えると、日並にとって自分の存在が大したことないのではないかと勘ぐってしまうのだ。



「そんな馬鹿な……俺にも相談が無いだと……?」



 ところが、ダメージを受けていたのは遊愛だけではないらしい。


 景井くんもまた、似たような理由でショックを受けているのか、普段の呑気な口調を維持できないようだった。



「これはもう根掘り葉掘り聴くしかないねぇ〜!!」



 ただ一人、大好物を前にしたレンだけはテンションが上がりまくっているのは言うまでもないだろう。



「みんな、待たせてごめん!」



 すると、そんなレンの願いが届いたのか、タイミングよく件の少女が戻ってきた。



「あ、お帰りっ──」



 当然、レンは勢いよく振り返り、その好色な顔を向けるが、



「──ん?」



 すぐに異変に気がつき、表情が固まる。


 彼女だけではない。


 遊愛もまた、帰ってきたルナへと視線をやったのだが、同じように困惑することとなっていた。



「な、何かあった?」

「ん? 何が?」



 言葉を止めるのも変だと思ったのか、レンは続けて尋ねるが、逆に聴き返される始末。


 本人は自覚があるのかないのか、通常運転のつもりらしいが、そこにはしかし明らかな違和感があった。



 ──な、なんなのその無表情は……。



 何を隠そう、あの朗らかな笑顔がチャームポイントのルナが、人形のごとく感情を失っていたのである。


 表情はもちろん、声の抑揚もほとんどないそれは、どう考えても異常としか言いようがないだろう。



「それより、何の話してたの?」



 そんなルナは探りを入れられたくないのか、こちらが行動を起こすよりも早く話を逸らしてくる。



「えっと、エリーって日並くんのこと──」



 そこで、レンは臆することなく恋バナを振ろうとするが、



「……日並くんがどうかしたの?」

「──あ、いえ、何でもないです……」



 ルナの放つ謎の威圧感によって不発に終わってしまう。



 ──私がいくしかないか。



 ここは、好かれている側の有利を生かして自分が攻めるべきかと考えるも、



「あ、お待たせ……」



 タイミング悪くも日並が帰ってきたことで失敗した。



「日並、何かあった……?」

「え、ああいや、特には……」



 しかも、ルナとは別のベクトルで変化が起きているというおまけ付き。


 どこか気落ちした様子の彼はのっそりと自席に着くと、俯きながらため息をこぼしてしまっているのだ。



 ──絶対に何かあった……!



 ルナは隠そうとしているようだが、この状況で二人に接点が無かったと思うのはよほど鈍くないと無理だろう。



「…………」

「…………」



 とは言え、日並の雰囲気からして良いことがあったわけでないのは明白であるため、気軽に聴くこともできない。



 ──日並が何か失敗したとか?



 考えられるのはやはり、二人の間には気まずいことが起きたと言うもの。


 それも、二人の様子からしてネガティブな方面のものに違いない。



 ──上手くいってないのかな。



 結果、一つの答えにたどり着いた遊愛は、無意識に口角が緩みそうになり、



 ──いやいやっ、それは流石に酷すぎっ……。



 慌てて首を振った。


 いくら相談が無かったとはいえ、これを喜ぶのは親友二人にする態度としてはあんまりだろう。



 キーンコーンカーンコーンッ……。



 と、そうこうしている内に、昼休みは閉幕となってしまった。



「あ、じゃあ私戻るね」



 ルナは相変わらず平坦な声で呟きながら席を立つと、止める間もなく足早に去っていく。


 こうなったら、日並に直接聴くしかないだろうと決意する遊愛だったが、



「ごめん、ちょっとまたトイレ行ってくる……!」



 その気配を察知したのか、彼も同じように教室を出ていってしまった。



「…………」



 残された三人の間には静寂が訪れ、



「これは調べないとっ──」



 みな考えは同じだったのか、誰からともなくそう提案するのだった。

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