第69話 ※予定は無事に決まりました。
それから少しして学校へとたどり着いたトオルは、すぐさまとある人物のもとへと向かう。
友戯について気になることはあるものの、もとより優先すべき目的があった。
「あの、おはよう」
「ん? おう、お前かっ!」
もちろん、その相手というのは、顔面凶器の大男──
先日仕入れた情報をもとに、今後の予定を打ち合わせしようと考えていたのだ。
「そ、それでどうだったんだよ!?」
「とりあえず色々分かったけど、まずはそれより最初はどこで会おうかって話をしたいかな」
前のめりになる鬼島にも若干慣れたからか、トオルは前よりも冷静に考えていたことを伝えていく。
「ああ、そうだな。そもそも、猛はどういうやつを想像してたんだ?」
「あ? そりゃお前、オシャレなカフェで……なんかこう、楽しくだよ!」
池林のフォローを受けつつ話を聴いてみれば、どうやらあまり考えていなかったらしいことだけは伝わってきた。
「ははっ、デートなら悪くないかもだが、学生同士の初交友だとちょっと本気感が出すぎかもしれんな」
「そ、そうなのか……」
しかし流石は池林というべきか。
ひとくくりに否定したりはせず、上手い具合にアドバイスを出している。
「まあ、だからといって学校だと目立ちそうだから、ファミレスとかが無難じゃないかな?」
「おお、それだッ!!」
トオルもまた提案を試みれば、鬼島は面白いくらいにつられてくれた。
──なんだろう、見た目ライオンの中身猫というか……。
その単純さには、厳つい容姿に反してもはや可愛げすら覚えてしまう。
「じゃあそういうことで、誰を誘うかなんだけど……」
女性はこういうギャップに弱いのだろうかと他人事のように考えつつ、仁好は参加するメンバーについての話を振った。
流石にいきなり二人きりはおかしいので、この場の三人を含め、誰かしら潤滑油になる人物を連れて行く必要があるだろう。
「ん? そんなのここにいる俺らとエルナちゃんだけで良いんじゃねえのかぁ?」
そう思っての発言だったが、鬼島的にはこの面子で確定していたらしい。
「あれ、それでいいの? もっと他に人いた方が気が楽かと思ったんだけど」
「ま、それはそうかもだが、それだと余計な茶々を入れられるかもしれないってことだろうさ」
トオルは疑問に思い尋ねるも、そこは代わりに池林が補足してくれる。
確かに、トオル自身もそうだが、恋愛などは密かに楽しみたいタイプの者もいるだろう。
見た目的に豪快なタイプかと思いきや、少なくとも恋に関しては鬼島も同族らしい。
「じゃあ、そういうことにするとして、今日の帰りとかでいい?」
「お、おう……」
とりあえずの条件が決まったところで鬼島に確認をとると、了承はしてくれたもののやはり緊張した面持ちを見せる。
──まあ、それはそうか。
当たり前だが、もし好きな人と初めてまともに話す機会を与えられたとしたら、トオルも同じようになるだろう。
──というか、俺も緊張してきた……。
そもそも、こうして平気で提案をしているが、よく考えてみればトオルは女子を誘ってファミレスに行ったことなどない。
友戯ならまだしも、石徹白さんを連れ出して、ほとんど話したことのない男子二人と会話するなど、以前のトオルからすれば充分に異常な状況だった。
──ここまできたら、やるしかないか。
ただ、一度知ってしまえば無視することもできないのがトオルである。
「分かった、それで連絡してみるよ」
覚悟を決めると、二人にそう言ってスマホを取り出すのだった。
その日の昼休み。
「──というわけなんだけど、今日予定とかって大丈夫かな?」
前日と同じように
「……まあ、オッケーしたのは私だけど、それもう狙ってますって言ってるようなものだよ?」
「そ、そう言われるとそうかもだけど……」
しかし、あまり機嫌がよろしくないのか、石徹白さんが正論を述べてくるのでトオルも困ってしまう。
とは言え、鬼島とは同じクラスというだけの関係でしかないのでそういった考えがバレてしまうのも致し方ないだろう。
「でもほら、話してみたら惹かれることもあるかもしれないし」
「うーん、そんなことあるかなぁ」
なので、精いっぱいのフォローをしてみるが、石徹白さんは懐疑的な反応を見せるばかり。
「あ、例えば俺と石徹白さんなんか全く接点無かったけど、こうして仲良くなれた……よね?」
ふと、いい実例が思いついたが、彼女の態度を思い出すうちにだんだん自信が無くなってくる。
もしかすると、本当は割と嫌われているのではとも考えてしまうが、
「あ、うん。それはそうかも」
幸いにも石徹白さんはあっさりと頷いてくれた。
「そっか……良かった……」
「どうしたの? 別に何もおかしくないと思うけど」
トオルはほっと一息をつくも、彼女的にはそちらの方が違和感があるらしい。
「いや、もしかしたら嫌われてるとかもあるのかなって。ほら、俺って友戯と仲良かったりでそういうのも──」
故に、苦笑しながら素直に答えようとするトオルだったが、
「そ、そんなわけないからっ!!」
「──っ!?」
言葉を遮るように放たれた大声に肩を跳ねさせられる。
「日並くんは何度も優しくしてくれたし、遊愛ちゃんと仲直りできたのだって日並くんのおかげだしっ」
珍しく声を張る石徹白さんに気圧されつつ、その内容に少しずつ心が温かくなっていった。
「だからその、感謝だってしてるしっ」
やがて、石徹白さんはいつもは言わないような言葉も素直に告げてきて、
「私は日並くんのそういうとこす──」
そのまま言葉を続けようとした後、
「…………」
唐突に固まった。
「…………とこす?」
よく分からない沈黙が広がる中、耐えきれず先に聴き返したトオルだったが、
「す、素晴らしくお人好しだなって思うよっ!?」
「えぇ……?」
石徹白さんは顔を真っ赤に染めると、何故か急に皮肉を吹っかけてくる。
これにはトオルも困惑を隠しきれないが、
「もしかして、照れてる?」
「ち、違うけど!?」
すぐに今朝の友戯を思い出し、それが照れ隠しであることに気がついた。
類は友を呼ぶというべきか、石徹白さんは眉を寄せて否定しているが、まんま友戯と一緒なのでおそらく図星なのだろう。
「あははっ……実は石徹白さんのこと少し怖いイメージあったけど、おかげで安心できたよ」
「それなら、いいんだけど……」
おかしくて思わず笑いをこぼしてしまうトオルに、石徹白さんは少し不満げだったが、マイナスのイメージを払拭できたからか特に突っかかってくるようなことは無かった。
「むしろ、何というかその──」
そうして彼女の赤ら顔を見つめているうち、ふとある感情が湧いてきたので、
「──かわいい人なんだなって、思えてきたかも」
ついストレートに口に出してみれば、
「……は?」
石徹白さんは口を開けたまま再び固まってしまった。
「あ、いや! そんな深い意味はなくて、単純にこうギャップがあってかわいいと言いますか!」
これは失言をしたかもしれないと、辛辣な言葉を返される前に慌てて弁明を図る。
「そっか、かわいいんだ……」
「え、う、うん」
が、意外なことに、石徹白さんはぼうっとした様子でぼそりとつぶやくと、
「まあ、当然だよね」
急に無表情になり、声からも抑揚が無くなり始めた。
「それじゃ、私行くね? また放課後に」
「え、え……?」
そして、最後にそうとだけ告げると、引き止める暇もなく立ち去っていく。
──まさか、昔から嫌になるくらい言われ慣れてるから、癇に障ったとかかっ!?
残されたトオルは、今まで見たことのない石徹白さんの反応にひたすら慌てふためくしかないのだった。
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