第38話 ※本当の戦いはここからです。
友戯にある疑惑が生まれたその日の帰り道。
「お、大好さん、ほんと恋バナ好きで困っちゃうよなぁ」
「う、うん……」
そこには、ほんの少し気まずい雰囲気の二人が並んで歩いていた。
何故、よりによってこんな日に二人きりなのか。
原因はハッキリとしている。
『悪い、今日は二人で帰ってくれ!』
思い出すのは、そう告げると一人消えていった景井の顔。
明らかに、『気遣いのできる俺に感謝しろ』と言わんばかりの表情を浮かべていたことからも分かる通り、これは狙って作られた状況と言っていい。
──友戯も口数少ないし……!
さらに、疑惑否定派のトオルはまだマシだが、嫌疑のかかっている友戯本人が妙によそよそしいせいで、本当にそれっぽい雰囲気が流れている始末。
これではトオルも変に意識してしまううえ、疑惑の天秤がいつ肯定の方に傾き出してもおかしくなかった。
「そうだ、今日は寄るのか?」
とりあえず、友戯が喋り出す可能性が限りなく低いので、トオルの方から話題を振るしかない。
そう思い、いつもと同じように尋ねるが、
「え、あ……いい、の……?」
チラチラと視線をやりながら、これまたぎこち無い口調で応えてくる。
本当に意識されているのではないかと疑りたくもなってくるが、今まで通りなら『ん、いこっかな』くらいの気軽な対応になるはずなので、それもしょうがないことだろう。
「もちろん……というか、友戯は気にしすぎじゃないか? 意識してるみたいでむしろ恥ずいぞ」
だが、友のことを信じているトオルは、あえてからかうことで緊張を和らげようと試みる。
「っ! う、うるさい……そういうんじゃないし……」
そして、そんな思惑は上手く行ったのか、友戯は僅かな照れを見せながら抗議の目線を向けてきた。
トオルは少し調子の戻った友戯にひとまず安堵し、
──ん?
ふと、誰かに見られているような気がして背後を振り向く。
が、それらしき人物は見当たらず、
「どうしたの?」
「ああ、いや……それより今日は──」
すぐに気のせいだと割り切ったトオルは、いつものようにこの後のことを話しながら帰路につくのだった。
それから少しして自宅にたどり着くと、
「ふぃ〜……よいしょっと!」
トオルは低い声を漏らしながら鞄を放り投げ、定位置の座椅子にどっかりと腰を下ろした。
「ちょっと日並、おっさんみたいだよそれ」
それを、くすっと笑う友戯にツッコミを入れられつつ、
「じゃ、防衛団やるか!」
「んー」
さっそくゲームを起動していく。
やるのは当然、地上防衛団5である。
なぜなら、最近ようやく終盤まで来たのだが、ここ数日は友戯と遊べていなかったために待ちぼうけを食らっていたからだ。
「で、どうするの? 何か詰んでた気がするし、アイテム稼ぎする?」
ちなみに現在の進捗はというと、終盤の鬼門とされているミッションでかなりの回数失敗に終わっているという状況である。
「んー、この難易度なら頑張れば行けそうな気はするんだけどな。友戯が爆発物ばっか使うせいで……」
「……なに、別にいいでしょ」
「いや、俺を巻き込むのはまだ分かるんだけど、いつの間にか遠くで自滅してるのはちょっと」
「それはほら、二画面プレイで見辛いから……」
その理由のほとんどが、友戯が自分の放った爆発物に巻き込まれてダウンするというものだった。
派手な武器を使いたがる気持ちは大いに分かるが、それで進まなくなっては本末転倒である。
「上等だよ、そんなら俺も爆発物だけでいってやるよ!」
が、そこであえて逆を行くのが遊びというものだろう。
トオルは二つしか持ち込めない武器の両方をとりわけ強力なミサイル兵器へと変更し、
「ちょ、ちょっと待ってっ……くくっ、その武器はダメだってっ……」
「何がダメなんだよ、ほとんどの敵を一撃で倒せて爆破範囲もすごいんだぞ」
「ぜ、ぜったいっ、し、死ぬって……!」
それを見た友戯が堪えきれずに吹き出した。
もちろん、これはトオルの思惑通りである。
何せ、トオルの選んだ武器はどちらもロマン武器──悪く言えばネタ武器と称されるものだったからだ。
データだけ見ると威力も攻撃範囲も強いため多くの人が騙されるが、実は大きな欠点があるのである。
「ちょっと、付いてこないでってっ……!」
「友戯は俺が守るっ!!」
「ばかっ、良いってもう!」
それを証明するため、トオルは友戯と笑い合いながらその背後をしつこくつきまとい、
「発射ッ!!」
接敵した直後、ついに最終兵器を解き放つ。
が、
『『ウワァーッ!!』』
次の瞬間、男たちの悲鳴と共に画面は赤い爆炎に包まれ、全てが吹き飛んでいた。
当たり前だが、トオルと友戯の操るキャラも含めて、である。
何を隠そうこの武器──スカイシールド、通称鈍盾はあまりに弾速が遅すぎるのだ。
そのうえ、一番近くの敵を追尾するという仕様上、思ったより敵を巻き込めず、地形を正確に読み取るという高度な機能も無いため、ちょっとした段差に引っかかって誤爆することさえある。
「ねえっ! ほらもうこうなったっ……!」
「あははっ!!」
結果、付きまとった友戯ごと見事に爆散し、画面にはミッション失敗の文字が表示されていた。
友戯はノリの良いリアクションをし、トオルはそれを見て笑う。
それは、気兼ねのない友人としての至って普通のやり取りで、自然と二人のテンションも上がっていき、
「あれ? 今のなに友戯さん?」
「い、今のは事故でしょっ」
友戯のへんてこなミスをいじることもあれば、
「日並、こっち来て! ここなら耐えられそう!」
「了解!」
逆に、真面目に攻略を試みたりと、順当に二人の時間を楽しんでいった。
「はぁ〜やっと突破できたぁ……」
「もうここはやりたくない……」
そんなこんなで、小一時間かけてようやくミッション一つをクリアした一行。
すでに疲労困憊ではあったが、ゲームの楽しさの前には大した壁ではない。
「よし、次行くか!」
その後もしばらく順調にミッションを進めていくこととなり、
「いやぁ、結構進んだな……!」
やがて、残るミッションも一桁程度まで減っていた。
やはりあのミッションの難易度が高すぎただけで、装備の整った今の二人ならほとんど難なく突破することができるようだ。
「うん……」
が、ふと友戯の方を見てみれば、何故か物思いに耽っているように静かであることに気がつく。
「疲れた? 今日はここら辺までにしとく?」
「あ、えっと、うん……」
時間で言えば二時間も経っていないくらいだが、一応学校帰りでもある。
それに白熱したプレイ内容を思えば、疲れていても何もおかしくはないだろう。
そう思っての気遣いだったが、
「あの、さっ……」
何を思ったか、友戯は覚悟を決めたかのような表情でこちらへと乗り出してくる勢いで声を上げる。
「ど、どうした?」
その迫力に、若干仰け反らされるトオルに、
「ひ、日並って、その──」
友戯は緊張した面持ちのまま少しずつ言葉を紡ぎ、
「──つ、付き合ってる人、いる、の……?」
顔を赤くしながら震える声でそう尋ねてくるのだった。
それを聞いたトオルは、至って冷静であることを誇示するかのようにふっと微笑むと、
「……はい?」
頭上に大量の疑問符を浮かべながら、首を傾げさせられるのだった。
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