第23話 ※賑やかすぎるのも考えものです。
友戯との登校後、いつもの如く授業を乗り越えた先の昼休み。
「──と言うわけで、これからスペシャルゲストが来るんだけど、大丈夫か?」
「いやまあ、朝に話は聞いたけども」
先に話を通しておいた景井に再確認を取りつつ、自分も弁当の用意を始める。
「まさか、この間言ってた小学生の頃の友達とやらが、同じ学校とはなー」
「はは、俺も最初に知った時は驚いたよ」
こちらの都合で勝手に巻き込んだ景井はと言えば、事前に聞かせていた情報に改めて驚いているようだった。
「というかうん、景井は本人見たらそれより驚くと思う」
「おいおい、誰連れてくる気だよー……」
ただ、正体が友戯であることを知っているトオルからすれば、そんな情報よりもっと予想外であろうと思わずにはいられない。
「……なあ、そういやそれって──」
そして、景井が何かを聴こうとしてきたその時、
「日並」
横から、凛とした声が割り込んでくる。
「おう──」
トオルはそれに応えるように振り向き、
──…………ん?
視界に映ったものに思わず固まった。
もちろん、予定通りやって来た友戯に対してではなく、
「は〜い! 知ってると思うけど、
その後ろからひょっこり出てきた陽キャの塊──すなわち、友戯の横によくいる少女、大好恋花の存在が原因である。
つまるところ、
──いや、それは聞いてないけどっ!?
トオルもまた、予想外の出来事に動揺を隠せないのだった。
今朝の目標通り、無事に友戯と景井の邂逅を果たしたトオル。
「──へぇ〜! 日並くんと遊愛って小学校だけじゃなくて幼稚園も一緒なんだ〜!!」
「うん、まあちゃんと仲良くなったのは小学校からだけどね」
しかし、そこには一つ誤算が生まれていた。
「じゃあじゃあっ! 遊愛の小さい頃の写真とか持ってるの?」
「え、うーん……探せばあると思うけど」
当然、それは今目の前のテンションがアホほどに高い女子──
「面白そうだし今度見せてよ! あ、ほら、代わりに中学の頃のやつ見せてあげるから!」
そも彼女が来ることを知らなかったというのもあるが、
──いやこの子めっちゃ喋るなっ!?
一番は、会話を挟む隙もないほどにこの場の主導権を握っていることにあった。
──大好恋花……恐ろしい子!
このクラスに所属するものなら、その存在を知らぬ者はいないだろう。
友戯の友人にしてコミュ力の塊である大好さんは、友戯以上に男女別け隔てなく接する──否、もはやあの勢いはぶつかっていくと言った方が正しいかもしれない──ため、会話をしたことが無いという者がいないのだ。
特徴を上げるとすれば、やはり頭に乗っかる大きなお団子ヘアーと、表情豊かな愛嬌のある顔立ちだろうか。
大好さんは常に明るい雰囲気をまとっていることもあって、トオル的にはクラスのマスコット的存在として愛されてる印象、といったところである。
「え、ちょっと待って景井くんキャラ弁なの!? 確かそれ、プチチュアだよね!」
「あー、妹が好きで、結構家族で見てるんだよねー」
「へー! そう言えば私も昔見てたなー──」
で、そんな個性を存分に発揮している大好さんは、あまり会話したことのないはずの景井やトオルに対しても一瞬で距離を詰めてくる。
例えるならば、瞬獄〇レベルと言ってもいいその速度に、トオルのようなクソ雑魚コミュ力では対応できるはずもなかった。
──どうしたものか。
元々、友戯と景井の接点を作りつつ、ついでに友戯と学校で話せたらいいな程度の気持ちで設けたこの場だったが、気がつけばフィールドを支配していたのは四人目の刺客。
このままでは、大好さんによる1VS1を三回繰り返すだけの会合になってしまう事は想像に難くない。
「──ふぅ……」
そんな懸念に悩まされていた時、ようやくチャンスが巡ってくる。
息切れを起こしたのか、大好さんが会話を止めたその瞬間にトオルは割り込もうと試みるが、
「じゃあ、恋バナしよっか?」
どうやら向こうのが上手だったようだ。
もしかすると、彼女のバイタリティは無尽蔵なのかもしれない。
そんな絶望にトオルが呑まれそうになった直後、
「レン、その辺にしといて」
ようやく救世主がやってきてくれた。
「えぇ〜? せっかくうら若き少年少女が一同に会したんだからやろうよ〜」
「『えぇ〜』、じゃない。二人とも困ってるでしょ」
流石は大好さんの友人と言うべきか、友戯は駄々をこねる彼女を無碍に扱っている。
「ぶーぶー! そんな言うなら三人で話せば〜!」
「はいはい、拗ねない」
当の本人は机に上体を投げ出しながら抗議の姿勢を見せているが、これもいつものことなのか友戯は適当にあしらっていた。
「ま、まあまあっ、大好さんの話も楽しかったよ!」
トオルとしてはわざわざ付き合ってもらっていることもあるので一応のフォローをするが、
「ほらぁ!! 日並くんもこう言ってるよ!」
「お世辞でしょ……あと、日並もあんま甘やかさない方がいいよ、この子すぐに調子乗るから」
「だ、誰がぁッ──」
一瞬で復活した大好さんを見て、友戯の言うとおりである事を学ばされる。
──何か、不思議な感じだな。
そうして正面に座る二人の間でギャーギャーと騒がしくなる中、トオルは友戯の雰囲気が二人でいる時と違うことに気が付いた。
一昨日、昨日と、マイペースでどこか抜けている感じのあった友戯だが、大好さんと喋る今は、無愛想だけど頼りがいのあるクールな女へと変貌しているのだ。
──そう思うと、結構キャラ作ってるのか。
おそらく友戯の素は、昔と変わらず天然で鈍く、ちょっと子供っぽい方だろう。
ここ一ヶ月、遠くから見ていた友戯は今見ているそれに近かったので、もしかすると自分に対しては他の人より気を許しているのかもしれないと、つい嬉しくなり、
「──ん? なに?」
「ああいや、友戯って結構、雰囲気変わったよなって」
「……え?」
結果、視線に気がついた友戯に、余計とも思える一言を発してしまい、
「え、なになに!? 昔の遊愛ってどんな感じだったの!?」
新たなる火種に速攻で食らいつかれるはめになってしまった。
「……日並」
勝手に火をつけられた友戯は表情を抑えながらも、その上から伝わるほどの圧力をかけてくる。
「あ、ああごめん! 気のせいだったかも!」
「いいよいいよ、遊愛に遠慮しないで! この私が許すから!」
「勝手に許可しないでっ……」
まずいと思ったトオルは無かったことにしようとするも時すでに遅し。
詰め寄ろうとする大好さんを、トオルを睨みつける友戯が必死に抑えようとする混乱状態に陥っていた。
「じゃあ多数決で決めよう! 景井くんはどう!?」
しばらく揉み合った後、埒が明かないと思った大好さんは、一人蚊帳の外だった景井へと選択を委ねることにしたらしい。
実際の選択権はトオルにあるのだが、もはや彼女にとってそんなことは関係ないのだろう。
「うーん──」
話を振られた景井は逡巡する素振りを見せると、
「──どちらかと言えば聴きたい」
「っ!!」
「やった〜!!」
大好さんの方に賛成の意を示した。
どうやら、今回は大好さんに軍配が上がったようだ。
「さあ、日並くんカモン!」
「え、ええっと……」
勝利を確信した大好さんがキラキラした目でこちらを見てくるが、
「…………」
チラと見れば、友戯の恨めしく思うような視線と目があってしまう。
よって、
「ひ、一つだけ! 一つだけね!!」
妥協案として、そう提案してみる。
「ええ〜?」
これに、大好さんは不満そうだが、
「まあ、本当にそれだけなら……」
友戯の方は隣の友人のしつこさを知っているのか、諦めたように了承してくれた。
そして、
「ええ、じゃあこれは昔、俺と友戯が仲良くなったばかりの頃の話なんだけど──」
ようやく静かになったところで、トオルも期待に応えて語り始めるのだった。
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