第21話 ※エピローグはそれぞれです。
それからしばらく、二人でゾンハンを楽しんだ後、
「じゃあ、そろそろキリもいいし、落ちるかな」
『ん、分かった』
トオルがそう声をかけたことで、今日のところはお開きとなった。
「それじゃあ、おやすみー」
そのまま、通話の切り際に挨拶を残そうとし、
『ねぇ、日並──』
直前に聞こえてきた友戯の声に指を止める。
「? どうした?」
何か言い忘れたことでもあるのだろうかと言葉を待つが、
『あ、えっと……』
何やら歯切れが悪い様子。
『また明日……って、それだけ…………おやすみ』
そして、微妙な間を待たせてきた友戯は結局、無難な挨拶を返すだけ返すと、通話を切ってしまった。
──なんだったんだ?
今の友戯の意図は分からなかったが、まあいいだろうとトオルは気にしないことにした。
──とりあえず、仮説は合ってたっぽいよなー……。
何せ、他に考えるべきことがあったのだ。
友戯の景井に対する反応には確かな手応えがあった。
それはつまり、立てていた仮説に近い何かがあるということで、
──どうしたものか……。
トオルは、複雑な感情に思い悩まされてしまう。
先ほどまであった楽しい感情と、この後のことを思うと感じるどこか寂しい感情が、ないまぜになっているのだ。
──まあ、明日考えればいいや……。
ふとスマホの時刻を見れば日付が変わる直前であることを知る。
夜更しする気も起きなかったトオルは、面倒なことから思考を遠ざけるように部屋の電気を消すと、そのまま闇の中で眠りにつくのだった。
友達との通話を終え、その余韻に浸りながら布団の上をゴロゴロと転がるとある少女。
モコモコの上着とショートパンツのパジャマを身につけた彼女──
その理由というのが、先程の通話相手である友人──日並トオルにメッセージを送りたかったからというものなのだが、
──ど、どうしよう。
文章を打ち込んでは消してを繰り返しているせいで進捗は芳しくなかった。
たかだか文章一つ送るのにいったい何を悩んでいるのかと言えば、
──絶対、変な誤解されてるよね……。
今日一日に起きた出来事を思い返して、今更ながら色々とやらかしていたことに気が付いたのが理由である。
──あんなの、嫉妬してるようにしか見えないし……。
何を隠そう、今日自分のしたことと言えば、日並の友人である
──しかも、あんなことまでしちゃったしっ……。
極めつけには、景井と遊ぶ日並の脇腹をつついて邪魔をするという、構われなくて拗ねている人のそれをまんまやってしまっていた。
思い出すだけで恥ずかしくなるやらかしだったが、
──まあ、日並はあまり気にしてなさそうだったけど。
不幸中の幸いか、彼の方も乗っかってきてくれたため、友人同士のじゃれ合い程度で済んではいる。
しかし、
「っ〜〜!」
よくよく考えてみると、それはそれで別の意味で恥ずかしかった。
何せ、昔からの友人とはいえ男の子に身体をつっつかれたうえ、あんな情けない姿を晒してしまったのだから当然のことだろう。
──別に意識とかはしてない、けどっ……。
ただ脇腹を触られただけ──そう思い込もうとするも、やはり相手があの日並だという事実に、顔が勝手に熱くなってしまう。
何分、人に身体を触らせたこと自体ほとんどないのだから、もちろん異性への耐性などはありはしない。
──太ってはない、よね……?
故に、相手がどう思ってるのかが気になって、ついつい自身の脇腹を確認してしまうのも仕方がないとことだろう。
──って、違う違う!
が、そこまできて本題から外れていることに気がついた遊愛は首をぶんぶんと振る。
日並の中で完全にイメージが崩壊しているだろうなとか、自分の身体を触ったことに対する反応無かったなとか、そんなことはどうでもいいのである。
──まずは誤解を解かないと。
今優先すべきことは、おそらく勘違いしているであろう日並に真実を伝えることなのだ。
遊愛にとって一番嫌なのは、
『友戯って結構、重いやつだったんだな……』
というような感じで引かれてしまうこと。
つまり、今すぐにでもメッセージを送って誤解を解きたいところなのだが、
──い、良い言い訳が思いつかないっ……。
残念ながら、どう文字を打っても逆効果なようにしか見えなくて指が止まってしまう。
例えば、
『本当に景井くんと友達になりたかっただけだから』
と念押ししてみれば、むしろそれ以外の意図があったのを隠そうとしているように見えるし、
『ごめん、本当は日並と話したかっただけ』
などと弁解した日には結局重たいやつに思われてしまう。
──確かに、ちょっと羨ましいな、とは思ったけど……。
ではなぜこうした問題点が発生しているのかと言うと、それは実際の動機があながち大外れでも無かったからである。
遊愛本人としては認めたくないが、じゃあなぜあんなことをしたのかと問われれば、
──なんか、ズルいじゃん……。
やはり、少なからずあの景井という男の影響であると答えざるを得ないだろう。
自分が日並と疎遠になっていた間、中学校に通っていた三年間ずっと彼らは一緒だったに違いない。
以前から覗き見てはいたが、その仲の良さはごく一部の特殊な女子がキャーキャーと騒ぐ程度には睦まじく、その気兼ねのない関係は正しく自分がなりたかったものである。
一応、今の日並との関係もそこまで悪いものではないが、異性故かどこか壁のようなものを感じるのも事実。
実際、一緒にいれば良からぬ噂をされてしまうことは間違いなく、一緒に登下校することも、休み時間を共に過ごすこともできない。
──私が男だったら……。
そうは思えど、現実にどうにかなるものでもないだろうことは自分が一番理解している。
「むーん…………」
いくら考えても答えは見つからず、枕に顔をうずめる自分の唸り声が部屋に響き渡るばかり。
──いっそのこと、気にせずに行ってみるか。
ここまで来ると、そもそも周りのことを気にしてしまっていること自体、自分らしくない気もしてくる。
昨日今日と、変な勘違いをされたのが気恥ずかしくて距離を取ってしまったが、周囲の視線など気にしないタイプであったはず。
今まで通り堂々としていれば、多少の誤解などそのうち消えていくかもしれないのだ。
──よし。
日並と友人同士であることはお互い認めあっている。
ならば、変に距離を取る方が失礼というものだろう。
──明日からは自然に行こう。
睨んでいたスマホを適当に放り捨てた遊愛は、今日の失態は明日以降取り戻せばいいだろうと、これ以上悩むのをやめた。
「…………続きでもやろっかな」
スパッと思考を切り替えた遊愛はゲーム機を手にすると、久方ぶりのゾンハンの世界にのめり込んでいくのだった。
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