第20話 ※今、戦いが始まります。
布団の上に座して待つトオルのスマホが鳴動する。
それはつまり、決戦の合図であった。
『できるよ』
極めてシンプルなその四文字に、
──来たかっ!
ごくりと唾を飲み込む。
もちろん、友戯からすれば約束通りゲームを遊ぶために連絡をしてきただけなのだろうが、あいにくトオルには別の意図が生まれてしまっていたのだ。
──確かめるぞ……。
問題は友戯が景井に対して如何様な感情を抱いているのかについて。
ゲームを一緒に楽しむというのは大前提とはしつつ、タイミングを見て揺さぶり、反応を伺わねばならないだろう。
ひとまず、友戯を待たせるわけにも行かないので、返信が来てすぐに通話ボタンをタップした。
「ああ、あ、あ……聞こえる?」
『ん、聞こえる』
すると、想定通り友戯もすぐに応じてくれる。
友戯との通話は初めてなので声に僅かな違和感は覚えるものの、抑揚はないが優しい雰囲気のあるそれは間違いなく彼女のものであろう。
「招待送ったから、それ押してもらえばいけるよ」
『えっと……うん、これでオッケー押せば良いんだっけ?』
「そうそう」
ゲーム内でのパーティーの組み方をレクチャーして、自身の作ったロビーへと招待する。
このロビーという場所で依頼を受けて、みんなで狩りに行くという仕組みだ。
『あ、いけたよ』
「おーきたきた……ってあれ、その装備……」
と、そんなロビーに入ってきた友戯のキャラを見たトオルは少し驚く。
それもそのはず、彼女の身につけていた装備は明らかに初心者のものではなく、中盤以降の強敵を倒さねば手に入らないような代物だったからだ。
『うん、帰ってからちょっと、やってて』
「いや、ちょっとて……」
友戯いわくあの後一人でやってたらしいが、それにしたって今この時までの時間を考えれば、やり過ぎなレベルである。
友戯に合わせて新規で男キャラを作っていたトオルからすれば若干引くレベルだったが、
『だって、久々にやるから面白くて……』
子どもみたいに言い訳をする友戯の声を聞いてしまえば許さざるを得ない。
「まったく、これじゃあ俺のキャラが介護される側じゃんか」
『ふふっ、じゃあ私が代わりに手伝ってあげよっか?』
「まあ、友戯がそれでいいなら俺はいいよ」
『ん、りょーかい』
互いに軽口を叩き合いつつ、今日はそういった形でやることに決まる。
『何からやるの?』
「いや、言っておくけど、チュートリアルクリアしてキャンプの依頼を少し進めたくらいしかやってないぞ」
『大丈夫、ギルドの方は私もまだ進めてないから』
ここで話しているキャンプというのはいわゆる一人用のモードであり、ギルドというのがパーティー向けのモードである。
当然、ギルドでの依頼の方が難しいのだが、トオルはそこに初期装備のまま放り込まれるらしい。
『じゃ、さっそくこのディバリウスのやついこっ』
ということで、何故か友戯にキャリーしてもらいながら、ギルドの依頼を進めていくことになったのだが、
「いや待て待て待てっ! 死ぬ死ぬっ!!」
『あははっ──』
いきなり主役級のクリーチャー──それも、凶悪とされる音楽家がモチーフの敵を選んできたせいで、一撃で体力の九割が消し飛ばされるわ、
『──えっ!?』
「そんな……友戯ィィィィッ…………!!!!」
巻き添えで音波攻撃を受けた友戯が消し飛ぶわ、
『ザッザッ……』
「あれ、友戯? 何か剥ぎ取ってないッ!?」
友戯が戦闘中に尻尾を剥ぎ取り始めるわで滅茶苦茶な展開になってしまう。
結果、
「どうすんのよこれ」
『でもほら、もう少しで足引きずるかもしれないし……』
友戯とトオル、各々が一度死亡したため、後がない窮地へと追い込まれていた。
ちなみに、トオルが死んだのは戦闘中に尻尾から素材を剥ぎ取ろうとする友戯にツッコミを入れていたせいなので、実質的には二回とも友戯が原因と言っていいだろう。
『まあまあ、本気でやれば行けるって』
「こっちはほとんどの攻撃が即死級なんだよなぁ……」
にも関わらず気楽に言ってくる友戯に恨み節を吐きつつ、そんな時間が楽しくも感じるトオルは、
──そろそろか。
頃合いだろうかと、軽くジャブを打っていくことにする。
「ああ、そういえば今日のことなんだけどさ」
『ん、なに?』
ゲームプレイの方にもほどよく集中しながら、景井に関する話題を振ろうとするも、
「なんか景井について知りたい感じだったの?」
『えっ』
顔をは見えないながらも、明らかな動揺を見せてきた。
「ああいやっ、友達とかになりたい感じなのかなって」
ただ不審がられるのは本意では無いので、誤魔化すようにそれっぽいことを尋ねる。
「ほら、昼休みにも聴いてきてたし」
『…………ん、まあ……そんなとこ』
対し、友戯はどこか歯切れの悪い感じで肯定してきた。
どう聞いてもそれだけではないようにしか聞こえない。
クールな雰囲気に騙されがちだが、分かりやすい時は分かりやすい性格をしているのは昔とあまり変わらないようだった。
「やっぱそっか、相談してくれれば良かったのに」
『ああ、うん……でもほら、気軽に行ってそりが合わないみたいなことあったら、トオルも気まずくなるでしょ?』
が、すぐに出てきた言い訳自体には割と筋が通っており、本当にそうなのかもと思ってしまう。
ただ実際、それ自体が本当だとしても、疑惑が否定されるわけでもないので、やはり裏に何かあると確信は強まっていた。
『それよりほらっ、いい感じだよ!』
それをより深めていくように、友戯ははぐらかすような姿勢を見せてくる。
言われて意識をゲームに向ければ、ちょうど敵クリーチャーが足を引きずって撤退するところであった。
「最後まで油断するなよ」
『日並は自分の心配した方がいいと思うけど?』
意図せずして歴戦のコンビのような会話をになったあたりで、まずは目の前の敵を片付けようとトオルも意識を切り替える。
『っ、日並の方行った!』
すると、狙うべき相手が分かっているのかいないのか、敵は防御力の貧弱なトオルへと向かって突進を仕掛けてきた。
だが、
「大丈夫だ!」
トオルのキャラが使う武器は片手斧。
小回りの利くこの装備であれば、鈍重な攻撃にはまず当たらない。
『ヴィオォッ!?』
代わりとばかりに化け物の足を切りつけてやれば、見事に転倒させることに成功する。
「今だ、畳み掛けるぞ!」
『ん、おっけ』
もはや隙だらけの敵の顔面に、片手斧による連撃と大剣による重たい一撃が叩き込まれ、
『クエストクリア!!』
化け物の断末魔と共に、画面いっぱいに勝利の証が表示された。
『やった』
「ふぅ……本当に何とかなったな」
ミスの許されない状況故にヒヤヒヤする場面も何度かあったが、終わってみれば何とも悪くない緊張感であった。
『日並、流石だね』
「いやー危なかったけど、おもしろかったわ……」
結構な縛りプレイではあったものの、経験は裏切らなかったようだ。
友戯もややふざけていた序盤こそ危うかったが、それはそれでワチャワチャして楽しかったので何も問題はない。
故に、非常に満足感のある時間であり、
「ここに景井のやつもいたらなー──」
何となしに、この場に景井がいたらもっと楽しかっただろうと呟いたのだが、
「──!?」
いざ、討伐した敵から素材を剥ぎ取ろうとしたその瞬間、自キャラが上空へと吹き飛ばされ驚愕する。
原因は明白で、友戯が巨大な剣で切り上げてきたためである。
ダメージこそ無いものの、このゲームには味方へ攻撃が当たる仕様になっており、トオルはその犠牲となっていたのだ。
『…………』
「ちょっ、おいこら……友戯っ!?」
慌てて元の場所に戻って剥ぎ取りを再開しようとするが、自身の剥ぎ取りすら忘れて無言で構える友戯に迎撃され、再び宙を回されてしまう。
「タイムタイム! 剥ぎ取れなくなっちゃう!」
どうにか剥ぎ取れないものかとチョロチョロ動き回るも、残念ながらどの位置も彼女の射程圏内である。
「はっ、上等だよ!」
『あっ!?』
だが、この程度でめげてやるほど、トオルはこのゲームに疎くない。
隙の多い大剣の攻撃をフェイントで躱すと、その間に射程ギリギリのところで剥ぎ取りモーションに入る。
『っ!』
「うおっ!?」
だが、友戯にも意地があるのか前転によって隙を減らすと、最速の攻撃で阻止しようと襲いかかってきて、
「はぁ……はぁ……一回、剥ぎ取ってやったぞ……!」
『むー…………』
結果、この不毛な争いは辛うじて剥ぎ取りに成功したトオルの勝利にて納まった。
敗北者である友戯は何やらスマホの向こうで不満そうに唸っていたが、勝ちは勝ちである。
『あ』
そう確信していたトオルだが、
『日並、尻尾剥ぎ取ってなくない……?』
「ハッ!?」
ここに来てまさかの情報が突きつけられたことで、あいにくの引き分けに持ち込まれるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます