第19話 ※こういう時は得てして深読みです。
時刻はすでに、午後の八時を回ったところ。
つまりもうじき、友戯から連絡が来る頃合いであるのだが、
──どうして脇腹なんかつついてきたんだっ……!?
トオルは未だ、数時間前のことで悶々と考えさせられていた。
それもそのはず、冷静になったいま考えてみると、男の友人同士だとありえない馴れ合いを平然とやっていたことに気がついたのだ。
友戯の笑顔にごまかされていい話風になっていたが、あの光景は傍から見たら恋人がやるそれでしかないだろう。
──いったい何であんなことをしたんだ友戯……! あんなことされたら世の男子は勘違いしちゃうんだぞっ!?
実際ここに一人、友戯の思惑を測りかねて悶える男がいるので、何も間違えたことは言っていない。
もしかしたら、気持ちに気づいて欲しくてそういうことをしたのではないかと思ってしまうのも、思春期男子なら当然のことだろう。
──はっ! いや待て? 友戯からすれば、俺は女友達に近いのか……?
だが、そこで一つ、辻褄の合う仮説が湧く。
それは女の子同士がつつき合っていたのだと変換すれば、微笑ましい風景に早変わりするというもの。
トオルが男友達的な感覚で接しているように、友戯から見れば女友達的な感覚で接していたとしても何らおかしくはない。
要するに、友戯にとってはあの程度、本当に友人同士のじゃれ合いにしか過ぎなかったと考えれば、あの大胆な行動にも納得がいくのである。
が、しかし、
──だとして、あのむくれっぷりはなんだったんだ?
ひとまず、そこに関しては結論が出たところで、もう一つの疑問が湧いてくる。
それはもちろん、非常に可愛らしかった友戯の拗ね顔の、その理由である。
──単純に、構ってもらえなくて嫉妬していた?
真っ先に思い浮かぶのは嫉妬心によるものではないかという仮説だが、
──いや、そんなわけがない。
即座にその可能性を切り捨てる。
何せ、友戯と再会したのはほんの一日前の出来事なうえ、たかだか一度だけ無視した程度である。
正直、それだけであんなに機嫌を損ねるとは到底思えないのだ。
──一緒にやっていたのだって景井だし……。
もし、ゲームをしていた相手が女の子で、なおかつ友戯がトオルに恋をしているという前提があるのならばあり得なくもないが、どちらも絵空事でしかない。
──ん? 景井?
が、そこで、全く違う視点からのアイデアが浮かんできた。
景井──すなわち、トオル以外で最も友戯に近かった男の存在を思い出したのだ。
──直接的な接点は殆ど無いはず、でも……。
確かに、引っかかるところがあるのだ。
昼休みの質問攻め、下校時の交流、ゲーム中の妨害──その全てに存在していた疑念と、その全てに関わっていた共通の存在が結びつき、
──っ! まさか、そういうことだったのか……!?
直後、トオルに電流が走る。
刹那的な閃きが導き出した結論、それは、
──友戯は景井のことが気になっているっ……!!
最初に潰していた嫉妬心という可能性もあながち間違いではない、意外な仮説だった。
しかし、昼休みに景井のことを聴いてきたのも、下校時に景井にばかり話しかけていたのも、強い興味を持っているからだと思えば何も違和感はないだろう。
それがどの程度の感情なのかは分からないまでも、明らかに興味を惹かれていることは疑いようもないのだから。
──ゲーム中に妨害してきたのも、俺ばかりが景井と楽しんでたことへの嫉妬だと考えれば、納得がいく。
友戯にとって、トオル=友達、景井=気になる人なのだと思えば、トオルは気になる人とイチャつく友達という構図に見えなくもない。
唯一懸念点があるとすれば、友戯と景井の間に接点があるように見えないことだが、
──まあ、一目惚れって可能性もあるしなー。
人が人を好きになるのに深い理由なんて無いと聞いたこともある。
それに、景井はあれで前髪をあげてちゃんとセットすれば中々の男前なうえ、あのマイペースさもミステリアスな感じがして興味を惹かれるというのも理解できる。
「ふぅ……」
一通り答えがまとまったところで、トオルは一息をついた。
──もし、本当にそうだとして……。
自分はどうなのだろうかと、胸の内に問いかける。
──友戯は……まあ、問題ないか。
まず、改めて確認する事でもないが、友戯はあくまで友人の枠組みを出ない。
もちろん、女性としての魅力は感じるものの、それが恋愛的な感情に繋がるかと言えばノーである。
求めているのは、小学生の頃に感じていた気楽に楽しみ合える関係であり、恋人的なことをしたいかと言われればそうでもなかったからだ。
──そんで、景井は良いやつだから……。
一方の景井だが、こちらも同じく大切な友人の一人であり、仮にお先に彼女を作られたとして、祝福することはあれど妬むようなことはないだろう。
──うーん、特に問題ないな。
どちらも気のいい仲間であり、その二人が結ばれたとするなら文句の無いカップリングのようにも思えてきた。
──ああ、でも……。
ただ一つ、気になることもあった。
──寂しくはなる、か。
それは、彼らが少し遠くに行ってしまうという可能性である。
二人がどういう考え方かは分からないが、友人よりも恋人を優先するというのは充分にあり得る話だろう。
もしそうなれば、今より遊ぶ機会が減ることは明らかで、
『──ごめん、今日はちょっと……』
そこに思考がたどり着いた瞬間、過去の記憶がフラッシュバックした。
──また、あんな想いをするのは……。
友が少しずつ、それでいて明確に離れていく、そんな残酷なまでに寂しい思い出。
──いやいやっ、もう関係ないだろあのことはっ!
だが、ネガティブな感情が心に影を落としかけてすぐ、この後のことを考えて振り払った。
せっかく、楽しい時間が待っているのだ。
わざわざ気分を落ち込ませたまま臨みたくはなかった。
──よ、よーしっ……。
とりあえず、悩んでも仕方がないと覚悟を決める。
どうせ、これからすぐに友戯と話す機会があるのだ。
そこで上手い具合に探りを入れて、事実を確認してから考えても遅くないだろうと、いったん結論を置いておくことにした。
すでに、マインでの連絡は済ませている。
また、景井にもあの後、親に呼ばれてたと言い訳をして納得してもらっていた。
後はもう、ゴロゴロ転がれるように敷いた布団の上で、いつ連絡が来るかとスマホの画面を睨むのみ。
──既読がついたッ!
そして数分後、自分のメッセージの横に既読の二文字がついたのを確認したトオルは、正座に居直って反応を待つのだった。
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