第17話 ※ゲームを借りに来ただけです。
友戯に呆れられながら乗るエレベーターが九階に到達すると、ようやく扉が開いた。
空気に耐えかねたトオルはいち早く飛び出ると、友戯に先んじて自宅へと向かって歩く。
──やらかした〜〜っ!
まさか、約束するだけして根本的なことを忘れていたとは。
友戯に指摘されなければ、夜になってから後悔に悶えていたに違いない。
あまりの恥ずかしさに早足になってしまうのも仕方がないことだろう。
「その、勘違いしてるかもだから言うけど……別に、怒ってないから」
そんなことを考えながら歩いていると、背中に友戯の声がかかる。
「え、そうなの……?」
「うん。そもそも、私が貸してもらう側なんだし」
予想外のことに思わず振り返ると、平常運転の顔をした友戯が映った。
どうやら、言葉の通り友戯はあまり気にしてないらしい。
トオルはいったん救われたような気持ちになりつつも、
──でも、さっきは確かに……。
先ほど見た表情は何だったのだろうかと疑問に思ってしまう。
「まあ、忘れっぽいのは日並らしいなーとは思ったけど」
「め、面目ない……」
とは言え、せっかく事なきを得た中で改めて掘り返すのも気が引けたので口にすることは無かった。
からかうような口調の友戯に、トオルはそんなふうに思われていたのかと恥ずかしくなって頭をかく。
「じゃあ、ここで待ってて、持ってくるから」
そうこうしている内に玄関前にたどり着いたので友戯にそう告げるが、
「ん、いいよ、私もいく」
「あ、ちょ」
扉を開けて中に入っていくトオルの背後をピッタリついてきた友戯は、扉を閉める隙もなく侵入してきた。
──ま、まあいいか。
結局、ゲーム機とソフトが渡せればそれでいいのである。
そう思って自室まで招き入れたトオルはすぐに後悔することとなる。
「はい、これ」
とりあえずと、収納棚から携帯ゲーム機である3DMとゾンハン4のソフトを取り出し友戯に渡すと、
「あれ、GSのじゃないんだ」
「ああうん、途中はこっち路線になってたんだよね」
「へぇ……」
それを受け取った友戯は自然に腰を下ろし、
「あ、連絡先も交換しなきゃだよね」
「うわ、それも忘れてたっ!!」
違和感に気が付かせないようにスマホを取り出してそんな提案を行ってくる。
そして、
「ゲームの方は何か設定しなくていいの?」
「ああ、フレンド登録は今しておいてもいいかも」
「わ、何これ」
「それは3D機能だね、俺は酔うから使ったことないけど」
「きのう最新作やったからどうかなと思ったけど、やっぱ初めてやるゲームはワクワクするかも」
「はは、分かる分かる」
「…………あ、この敵懐かしい」
「そう言えば、Wの方には出てこないなこいつ」
といった感じで五分、十分と経過していき、
──この娘、いつ帰るのかしら……?
やがて、普通にゲームをやり始めた友戯は、まるで自宅かのような気軽さで床に寝そべり始めていた。
「制服にシワとかできちゃわない?」
トオルはそれとなく立ち上がらせようとするも、
「んー……まあ、ゴロゴロ動かなければ大丈夫でしょ」
何とも適当な返しをされてしまう。
ずぼらなその姿は一瞬過去の友戯と重なるが、今はそれどころではない。
「それより、トオルはやらないの?」
「ああえっと、ちょっと待ってくれ……!」
何せトオルはこの後、景井と遊ぶ約束をしているのだ。
友戯の相手をしている余裕は無くなるし、ここはさっさと帰ってもらうべきなのだが、
「……ふふっ」
何とも楽しそうにだらけている友戯を見ているとそれも言い出しにくかった。
ピロンッ!
その時、タイミング悪くスマホから通知音が鳴り響く。
──は、早いなあいつ……!
スマホの画面を開いてみれば、『準備できたぜー』といういつもなら嬉しくなる文字が映るが、今この状況ではタイムリミットを縮めてくれたようにしか見えない。
ここはドタキャンをすべきかと悩むも、
「へえ、景井くんと約束あるんだ」
「っ!?」
それよりも早く、横からにゅっと生えてきた友戯が内容を見てしまう。
「ああいや、まあそうだけどっ」
何故か、浮気相手と連絡してるとこを見られたような気分になったトオルは声が上擦るが、別に友戯とは恋人同士でも無ければ、景井にいたっては同性の友人でしかない。
そのはずなのだが、友戯の顔を見るとどうしても申し訳ない気持ちになってしまうのだ。
「いいよ、先に約束してたんでしょ?」
「あ、おう……」
だが、友戯はふっと笑いながら快く許してくれた。
まあ、許されるも何も、元々悪いことをしているわけではないのだが。
「じ、じゃあ、友戯も見てみるか?」
とりあえず、それらしく誘ってみるが、
「んー……私はとりあえずこっちやってるかな」
「あ、そっか……」
残念ながら、素っ気なく断られてしまった。
単にゾンハンをやりたいだけなのか、それともやはり誘いを断ったことを気にしているのか。
できるなら前者の方が気を使わなくて済むので、どうかそちらであってくれと願う。
──うん、ここでやってくのね。
GS4を起動しつつ後ろを見れば、先ほどと同じくうつ伏せに寝そべりながらゲームを遊ぶ友戯の姿。
ひとまず、帰る気が無いことだけは理解したトオルは、景井を待たせるのも悪いと景井に連絡を送ることにする。
『悪い、今日マイク使えないから通話でもいいか?』
いつもはヘッドホンをつけた状態で遊ぶが、友戯がいる前でそれをするのは憚られたのでそう文字を打つと、
『おっけー』
特に事情を詮索することなく、すぐさま了承の返信をくれた。
景井の良いところが出たと密かに好感度を上げつつ、連絡用アプリであるマインを通話モードに切り替える。
『ういーっす』
「おう」
すると、耳慣れた景井の声がスマホから聞こえてきたので、互いに短く挨拶を交わし、そのまま互いにゲームを始めるのだった。
『──ああ、そういやさっきのは驚いたな』
「ん?」
そうしてしばらく二人でゲームを楽しんでいたトオルだったが、
『ほら、友戯さん。まさか話しかけてくるとは思ってなかったから』
「あ、ああ……」
景井の振ってきた話題にドキッとする。
何せ、今トオルの隣にはその友戯がいるのだ。
当然、この距離であれば声を聞かれてしまうので、景井が余計なことを言わないかとハラハラさせられてしまう。
『いやーでもやっぱ、流石の可愛さだったよなー?』
「え」
が、人はそれをフラグと言うのか、さっそくとばかりに答えづらいことを聴いてくる景井殿。
「…………」
恐る恐る友戯の方を見てみれば、相変わらず黙々とゲームを遊んでる姿があったが、よく見れば彼女の左目はこちらをチラチラと伺っていた。
──これは完全に聞かれてるな……。
何とも答えにくい状況だとは思いながらも、
『あれ、日並的にはそんななのかー?』
こっちの気も知らない景井はさらに追い込んでくる。
「いや、まさかっ! めっちゃ可愛かったよ!?」
友戯の視線もジトみを帯び始めてきていたので、とりあえず褒めておくという無難な選択に出た。
少なくとも嘘は言っていないはずだと友戯のリアクションを確認してみれば、
「…………っ」
何故か彼女の目はキツくつり上がり、こちらを睨みつけていた。
──なんでぇっ!!??
乙女心は複雑なのか、それとも嘘だとでも思われたのか、友戯の機嫌が悪化していっているのは明らかである。
『だよなー、あんな子と付き合えるやつが羨ましいよ』
一方、その原因を作った男はのんきに友戯の話題を続けてくる。
この話はいつまで続くのかと恐怖におののくトオルは、
「ほ、ほんとなー……あ、敵いたぞっ!!」
タイミングよく現れたゲーム内の敵プレイヤーに感謝を抱きつつ、話をうやむやに終わらせるのだった。
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