第5話 ※ほぼ恋人との約束です。
どんでん返しに次ぐどんでん返しにより、いつの間にか
しかし、目の前の課題を乗り越えた次には、改めて現実の課題に直面することになる。
「そうだ、次の授業!」
「あ」
ふっと湧いて出た言葉に、友戯も今思い出したかのように声を上げた。
そう、よくよく考えなくとも、現状は割とピンチであったのだ。
色々と話したいことはあったが、それどころではないだろう。
──ただ、扉が開かないことにはなあ。
とは言っても、もちろんすぐに解決策が思い浮かぶ訳でもない。
こういう時、マンガやアニメでは第三者が来て助けてくれるのが定番だが、このまま待ちぼうけというのも気が滅入ってしまうだろう。
しかも、それではもちろん授業に間に合わない。
──とりあえず扉がどんな感じなのかだけでも調べてみるか。
少なくとも鍵をかけられたわけではないのは知っているため、もしかしたら力技で開くかもしれないと扉に近づいていく。
「あっ!」
が、あともう少しで扉に触れようというその瞬間、友戯が声を上げたため、動作を中断させられてしまった。
「ん?」
何だろうかと思い振り返るも、
「えっと……その……」
返ってくる言葉はどこか辿々しい。
何か言いにくいことでもあるのだろうかと戦々恐々としていると、
「あ、そうだっ。
言いにくい、というよりは今思いついたかのような話題を提供してきた。
ゾンハンというのはゾンビィハンターズというアクションゲームの略称で、その名の通り恐ろしいゾンビを仲間と協力して狩っていく非常に面白いゲームだ。
なんと、今では十作品近くも出ている大人気シリーズである。
「ああうん、もちろんやってるけど──」
その意図は掴めないものの、とりあえず正直に答えてみれば、
「──そ、そうなんだ……」
返ってきたのは一言それだけで、再び沈黙が訪れてしまう。
「?」
トオルは意図が読めず、再び扉に手をかけようとするが、
「い、今ってどんな感じ、なの?」
またもや遮るように友戯の言葉が飛んでくる。
まるで扉に触れられたくないかのような言動に疑問が浮かぶも、残念ながらその答えまでは分からない。
「うーん……友戯がやってたのって3くらいまでだっけ?」
「うん、でもそれも少ししかやってないくらい、かな」
が、そんな疑問について考える暇もなく会話は進み、
「ああ、じゃあ今の見たら驚くと思うよ。今はもうエリア移動とか無くなってるし」
「え、そうなの!?」
「うん、まあ狩り場限定だけどな」
「それで、他にはっ?」
「そうだな──」
かつて友戯とやっていたゲームの情報を教えるたび、彼女の一見クールな表情には、少しずつワクワクしているのだろう感情がにじみ始める。
──友戯、楽しそうだな。
そんな風に微笑ましく眺めつつも、トオル自身もまた、話すのが楽しくて仕方が無くなっていた。
まるで、二人とも小さかったあの頃に戻ったようで、また、失っていた時間を取り戻しているかのようでもあったからだ。
「──ってな感じかな?」
「はぁ、いいなぁ……」
息をつく暇もないくらい、一通り語り尽くされた友戯は、何とも羨ましそうにため息をついていた。
「友戯も買ってみたらどうだ?」
「ああ、うん。そうしたいけど、今はお金が……」
特に何も考えず直球で提案してみるが、どうやら懐がお寒いらしい。
「そんなにか」
「最近は服とかデザートとか、そういうのに使っちゃってるから……」
どうやら、友戯は年頃の女子らしく、オシャレにお金をかけているとのこと。
まあ、これに関してはトオルがどうこう言うことではないだろう。
しかし、
「そうなると、難しいか──」
友戯にやってもらいたいという気持ちも確かにあった。
きっと、あの進化を目の当たりにしたら、感動して大喜びすることは間違いないのだ。
トオルがそれを見てみたいと思うのは、至って自然の摂理だろう。
「──あ、じゃあさ……今日、日並の家、行ってもいい?」
「ああ、家かぁ──」
が、そんなトオルに対し、友戯が提案してきたのは、
──家ェッ!!??
思わず心の中で叫んでしまうほどに、ハードルの高いものだった。
──いや、どういうメンタル!?
仮にも友達とはいえ、年頃の男女である。
それも今さっき久しぶりに会話したレベルの段階で相手の部屋に行こうとするのは相当に図太いか、もしくは鈍感であるとしか思えない。
──確かに昔はよく家に呼んだけど……呼んだけどもっ……!
もし、友戯が男だったのなら即答できたに違いない。
しかし、相手は紛れもない女の子である。
異性である彼女を自分の部屋に招き入れるというのには、どうしても心理的な壁がある。
もちろん、友戯に他意は無いと信じたかったが、何分今の彼女について詳しく知れるほどの時間もなかった。
ゲームというのが口実だったという可能性も、まだ充分にありえるのだ。
「あ、うんごめん……流石に今更、図々しい、よね……」
そんなこんなでしばらく葛藤していると、その沈黙に耐えかねたのか、友戯が申し訳無さそうに謝ってきた。
──しまった。
その声色から友戯の落ち込んでいく様が見て取れたトオルはすぐに後悔する。
考えればすぐに分かることだ。
友戯からすれば頼んでいる側なのだから、こんな反応をすれば嫌がっているように捉えられてもおかしくないだろう。
──よし!
友人の悲しむ姿は見たくないと、そう思ったトオルは覚悟を決めた。
そもそも、友戯に他の意図があったとして何が問題だというのだろうか。
もし、こんな可愛い女の子に迫られているとして、そんなものは光栄でしかないはず。
それに、このままでは一緒にゲームをやるという先ほどの約束を守れなくなってしまうのも事実。
最初から選択肢など無かったのだから、悩む必要などありはしないのだ。
「いいよ、友戯」
「ほ、本当? 嫌なら、無理しなくても──」
トオルの快い返事に、友戯は訝しむも、
「──一緒にやるんだろ、ゲーム」
「っ!」
そう、はっきりと言って見せれば、
「うん……」
ぼそりと小さく、それでいてしっかりと嬉しそうな声で頷くのだった。
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