第三章
七
昨日の突然の雨とはうってかわって、今朝は眩しいくらいの朝日がやってきた。
まるで使い古した雑巾のようになった俺の心を、温かく迎え入れてくれている。
今日は土曜日で学校も休みだけど、いつも通り制服に袖を通して身支度を済ませ家を出た。
ポケットには、蜂蜜のど飴をひとつ入れて。
りりぃが働いている花屋の前に来た。
だけど彼女の姿が何処にも見当たらない。
今日は出勤じゃなかったのかなと思い、とりあえず目的の花を一つ買い求めラッピングをお願いする。
店員は、切り花が長持ちするようにと水切りした茎の先端を丁寧に水分の含んだスポンジでくるんでくれた。
これなら例え今日会えなくても大丈夫かなと安心した。
買い求めた一輪の花。さらに専用の細長い紙袋に入れてくれた。
(おお、これは持ちやすくていいな)
彼女のことをこの人に聞いてみようかと思ったけど、制服姿で花を一輪買った俺が聞き出すのは変かなと思い、今一歩聞く勇気が持てなかった。
ああ、もっと頑張れ俺! と自分を励ます。
周りをウロウロしていると怪しまれると思い、駅周辺に行って時間潰しに本屋かコーヒーチェーン店にでも行こうと決めた。
まずは書店に入って店内を物色。そんな時、タイミングよく
*
line
外出てる。何で?
暇ならどっか行かねーかなと思って
悪い。今、ちょっと立て込んでる
何?
お前には言ってなかったけど、俺好きな人いるんだよ
は? マジ? 誰?
花屋でよく話してくれる人
ああ! あの可愛い人な! そっかそっか、煌狙ってたんだあ
え、まさか伊織もかよ?
可愛いけど年上の人は対象外かなー。
何、年上だっていいだろ別に
悪い、違う、全然いいよ。俺はそういう風に見れないってだけで。煌が好きなら俺は応援する!
でもさ、向こうは高校生の俺なんて恋愛対象外なんじゃねーの? って思うんだよ
ああ、それなあ。ま、当たって砕けてみろ
それもう砕けたら俺、だめじゃん笑
それな笑 頑張れよ
*
伊織には改めて伝えようと思ってたけど。りりぃが好きなことを話の流れ的に言う他なかった。
年上の女性ってだけで、どうしてそんなに敬遠するのだろう。でも伊織は伊織の考えがあるわけで、俺は俺なんだから。違っていて当然。
その後しばらく書店で立ち読みしていたらお昼近くになっていることに気づき、とりあえず外に出た。
瞬間、思った。
俺はどうも天候に恵まれていないらしい。晴れているのに空からは小雨が降っている。
でも昨日の教訓を生かし、鞄に折りたたみ傘を忍ばせておいたのだ。我ながら用意周到って自慢気に傘を出す。
そんなどうでもいいことを自慢しながら人を搔き分けていくと、駅の入り口付近で空を見上げて突っ立っている女性を見て足が止まった。
りりぃ──だ。
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