「名前、聞いてもいいですか?」

「煌、元宮煌もとみや こうです。漢字できらめくって書きます」

「わあっ、名前素敵。煌くん、飴ありがとう。蜂蜜のど飴のおかげで朝からパワーもらえました」

「はい……あっ、飴溶けてなかったですか?」

 地味に中身の飴が無事だったか、心配だった件。

「それは大丈夫だったけど······何で?」

 くりくりっとした大きな瞳に意識が吸い込まれそうだ。

「それずっと握りしめてたんで」

 りりぃは「あはは、それで! 大丈夫でしたよ」と、今度は目を細めて笑う。

「私、自分の名前言ってなかったね。梨々花、今井梨々花いまい りりかです」


 りりぃは、自分の名前の漢字について説明をしだした。

 梨々花。

 りり、じゃなかった。

 梨の後に続く『々』の漢字。実はこれ踊り字と言うんだそう。時々や人々とかに使われてるものらしい。そんな物知りなりりぃが、やっぱり大人に見えた。


 彼女は鞄からタオルハンカチを出した。

 拭いてもしょうがないくらいにびしょ濡れになった俺の頭や服を、一生懸命に拭いてくれている。 

 この状況、情けないけれど嬉しさも込み上げてくる。

 りりぃの計り知れない優しさに触れ、大好きの想いが溢れだしてくる。

 追いかけてきてくれたのは俺に気づいたからなんだよな?

 だとしたらあの時の俺、よっぽど情けない顔してたんだろう。

 色んな感情が頭ん中を駆け巡る。 

 ······やっぱり言おう。

 言って振られて、すっきりして前に進もう。

 だって俺、片想いしてるだけでまだ何も始まってない。

 駆け出しの恋だけど恋をする楽しさを教えてくれたりりぃへ、ありがとうの気持ちを込めて想いを伝えようと思った。

 小雨になった所で「ありがとうございました」と伝え、一人走って駅まで戻った。










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