12

「どこ、だよ。ここ…」


状況に追いついて行けず、途方に暮れていた自分の後ろで、突然、誰かが話しかけて来た。


「お待ちしておりました。友坂様」


「誰?!」


慌てて声の方へと振り返る。


そこに立っていたのは、黒いシルクハットに、これまた黒いスーツを身につけた、長い白髭が特徴的なお爺さん。


「貴方様を、御招待させて頂いた者であります。そうですね…、『支配人』とでもお呼びください」


彼は、顎に蓄えた髭を撫でながら答える。


「本日は、私共の名もなき小劇場に足を運んで下さり、誠にありがとうございます。今宵上映されるレイトショー、『卒業式』は間もなくの開演となっております。さ、どうぞ、中へ」


恭しくお辞儀をすると、彼は、目の前の古扉へ僕を案内する。


「ちょっと待ってよ!ここは一体何なの。それに、あのチケットは?破いたら燃えちゃったけど、桜の木、大丈夫だよね?大体、桜川中学の正門に居たはずの僕が、どうやって一瞬でここに来たの?」


淡々と進めて行こうとする彼に、頭に出てきた疑問を矢継ぎ早にぶつけていく。


そんな僕を、彼は面倒とでも言いたげな顔で制する。

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