10

「もう、終わったよ…」


誰に言うともなく、呟いた。


昼の桜は、どこか朗らかな気持ちになれるというのに、夜桜は、どうもしんみりしてしまっていけない。


感傷に、酔ってしまいそうになる。


振り払うように首を振り、スマホの液晶に表示された時刻を確認する。


19:59


あの、淡い水色のチケットに記されていた、上映予定時刻の二十時まで、後一分。


「…こんな所まで来て、ほんと、何やってんだろ」


あんな、意味の分からない文面に釣られて、ここまで来てしまった自分に、思わず自嘲気味な笑みを零す。


そんなものに、縋り付いてしまうぐらいには、追い詰められていたという事なのだろうか。


液晶に表示される時刻が、変わった。


それを横目で確認しながら、少し皺のついてしまったチケットを取り出し、頭上に翳す。


ー何だっていい。この息苦しさが、無くなるなら。


霧散する、光の粒子の中で、僕は、その淡い水色のチケットを、一思いに破り裂いた。


その、瞬間。










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