戦闘糧食2型
シェラは、ホーク・アイで任務についた。
まずは、と。
荷物を宛てがわれた自室に置き、
階段を上るとビリィがまだ屈みこんで作業中のようだった。
(……何やってんだろ??)
火もないのに湯気のような白い水蒸気が立ち昇っている。
「あ、ぐ──軍曹殿」
黙って見ているわけにもいかず、手伝いを申し出ようとした。
人間
「おう、もうできる。──その辺で待ってな」
待ってろと言われても……。
ボーッとしているわけにもいかないだろう? と言いつつも、周囲を窺う。
暴風壁の他には、椅子や
どれもこれも石で作られている所をみるに、ミュウやその前任が魔法や手作業で作り上げたのだろう。
建設担当だと言っていたから、土魔法や、石工、細工等の技術に長けたドワーフが歴任していると推測できた。
ここでは珍しい、石以外のカップなどが無造作に放置されている。
「ほら、もってけ」
ポイっと無造作に渡される濃い緑の袋。
ガササ、という聞きなれない音に、思わず取り落としそうになりつつも受け取る。
到底食べ物には見えなかったが、礼を言った。
そう言えば……!
「あの……。軍曹殿は、火魔法を使えるので?」
火も起こさずに煙を出したり……今受け取った袋も火傷しそうなくらい熱い。
「殿はいらん。ミライ──あー、ビリィでいい」
「あ、はい! ビリィ殿…………ビリィ──さん」
ん。といって、背中を押されて先ほど見ていた椅子と物容に導かれる。
「火魔法は使えんが、まぁ、このスキルがあるからな」
……説明になってない。
「でも、火を──」
「気にしてもわかんないから、ほっときな」
と、地下から上がってきたミュウが緑の袋を受け取りつつ言う。
はぁ……? と
「これやるから、機嫌治しな」
濃い緑の袋から、鮮やかな黄緑色の平べったいものを渡される。
「いえ、別に機嫌を損ねたわけじゃ──なんですこれ?」
「おい、ミュウぅぅ…好き嫌いすんなよ」
見たこともない字で恐ろしく細かく書き込まれている。
素材も初めて触る触感だ。
あえていうなら、──…………敢えて言うものがない。
「鯖の生姜煮──魚だよ」
おえ、ッという顔でミュウが可愛らしく舌を出す。
魚──……魚!?
「え? これ魚なんですか!?」
なるほど、見たことも聞いたこともないわけだ。
森暮らしの長かったシェラは数種類の川魚以外見たことがない。
一応、軍営では調理済みの物も出てくるが……基本、原型はない。
なるほど。おそらく海のものだろう。
「へー……。これが魚」
ミュウは、それを試す
「ったく。……何でも食えっつうの。まぁチンマイし、ミュウ嬢は少しでいいんでちゅよね」
と幼児言葉で
「あははは」
その様子に自然に笑みがこぼれる。
にっくき人間がいるというのに──だ。
食事前のワクワクする空気がそうさせるのだろうか。
「へー……アンタ笑うと可愛いね」
「お、おう…びっくりしたぜ」
素直な二人の反応に、シェラをして恥ずかしくなる。
あんまりストレートに、こう返されると……その、なんだ。花も恥じらう年頃なもんで──。
「ううう……そ、そうだ! 水──出しますね」
恥ずかしさを誤魔化す様に、水魔法を唱えると空中に水球を浮かべる。
空気中の湿度がさほど高くないので、短時間ではいまいち大きなものができないが、人が飲むには十分だ。
「お、いいね……これに注げるかい?」
総石造りの小さな鍋を取り出すと、そこに注げと言う。
「はい──♪───♪」
……♪
──……──♪
まるで歌うような精霊詠唱。
その詠唱によって、軽く調整した魔力でもって水球を動かす。
プルプルと震えたソレは、革袋が破れる様に球の一カ所からチョボチョボと細く零れだした。
「ほー。さすがはエルフ。精霊詠唱をみたの久しぶりだよっと……。うん、ちょうどいいね。器用なもんだ。……あんたの前任はもっと大雑把だったよ」
そうかな?
確かに、技巧は素晴らしいと褒められていたけど……要すれば器用貧乏だという事だ。
戦力としての魔法は技巧も大事だが……やはり出力重視だった。
「優秀じゃないですけど……色々使えるので──その雑用は得意です」
だから、頑張りますと言外に伝えたつもりだが、
「おお! それは助かるな」
「そうだね! いやー、飯しか出せないボンクラと、水浸しにしかできない変態しかいなかったからきつかったヨ」
「石削るか、穴しか掘れない嬢ちゃんに言われたくないわ!」
「嬢ちゃん言うな!」
パカスン! と良い音。
基本的にミュウのほうが階級が上なのでビリィは最後に叩かれて終わるらしい。
なんだろう、こういう喜劇とかも洗練すれば流行りそうだなーと考えるのはシェラの頭がおかしいのだろうか。
「あはは……できました」
水を入れ終わると、ミュウが平たい石を取り出して真っ赤に熱する。
それを直接テーブル兼物容の上に置くと、ゴボゴボと早速湯が沸き始める。
地味だが凄い。
「さて、カップを───……シェラはこれ使いな」
無造作に放置されていたカップを一つ手に取ると、「フッ」と息を吹きかけ、軽く埃を飛ばす。
一瞬「う」と
本当なら……自分のカップを使わせてもらうか、せめて洗ってほしいかった。
……南無さん。
「これでいいかな」
懐からゴソゴソと小さな紙包みを取り出すと、
「アタシはこれ……。ビリィは──」
「ポ〇リ」
「あいよ」
「シェラはコーヒーかジュースどっちにする? 紅茶もあるけど……」
……!?
コーヒーに紅茶ぁぁあ!?
ま、まさか、そんな!
……人類に大陸を封鎖されて以来、そう簡単に入手できない嗜好品の数々。
とくにコーヒーなんて随分味わっていない。紅茶だって、バカの様に高いものだ。
「コー……紅……──ジュースでいいで……、──お願いします」
そうだ、コーヒーや紅茶を飲みたいのは山々だが、そんな贅沢品を下っ端の私が飲むわけにはいかない。
「?? はいよ。色はちょっとあれだけど、子供向けだよ」
子供と言われてムッとするものを感じるが…実際、成人していないので仕方ないだろう。
ダークエルフは長命の種族だが、シェラはまだまだ年若い。
「ありがとうございます」
とは言え、一々噛みついてもいられない。
「そう、そこを破って──中の粉をね」
まるで薬包のようだ。実際に中に入っているのも粉薬のようでなんだか得たいが知れない──……これがジュース?
「ミュウ、借りるぞ」
ビリィは全く気にした様子もなく、青い綺麗な紙を破ると真っ白な粉をカップに注ぎ、その上から湯を入れた。
「あ、やべ……! ホットポ〇リにしちまった」
不味ったという顔をしているが深刻なそれではない。
冷えた水のほうがよかったのだろうか。
「アンタ貧乏舌なんだから、気にしないでしょうに」
ミュウは少し焦げ茶色をした紙を破ると黒い粉を注ぐ。その瞬間に芳醇な香りが漂った──……本物のコーヒーだ!
こんな山の上に持ち込むなんて中々できない贅沢だと思う。
塩一つまみさえここでは貴重だ。
だがもしかすると──。
「これも、ぐん……ビリィさんが?」
ビリリと真似をして注ぎ入れた粉に湯をかける。
その瞬間甘ったるい匂いが漂った。
すごい……粉が一瞬で飲み物になるなんて!
よほど細かく挽き潰したようで…
「そうだよ? よくわからないけど、飲み物や調味料、タバコにお酒までついてるのもあってね。いわゆる当たりってやつさ」
『日本』のは……まぁ外れでもないけど、当たりでもないね──と、言う。
よくわからないが、レーション? にも色々あるらしい。
と、
「行き渡ったね?」
「おう」「?……はい」
ミュウが
「では、期待のニューフェイスが来たことを祝して」
──「「乾杯!!」」「か、乾杯」
タイミングはズレたものの、シェラはなんとかカップをカンッ! とぶつける。
そして口をつけると──。
「ぅぅぅぅぅ……くぁぁ甘ぁぁぁぁぁい!!」
なにこれ?
甘っ!
カップの中は、……その、なんだ。毒々しい紫色で、ブドウ果汁に見える。
が、味は近いもののブドウ果汁とは比べ物にならないほどに甘い!
しかも、温かいことも相まって、登山で疲れ切った体に沁みわたる。
高山かつ吹きっさらし故の低温にも、また染み渡る。
「気に入ったかい? アタシもビリィもジュースはあんまし飲まないからね、アンタが優先的に飲みな」
「あ、はい!」
おいしい……!
こんな甘い飲み物───ハチミツ以外には初めてだ。
いくらでも飲めそう……。
あ、でも、コーヒーも紅茶も捨てがたい。
あの口ぶりだと結構余裕があるみたいだ。
「じゃ、飯にしようかね」
ガサガサと濃い緑の袋からミュウが不思議な容器を取り出し並べていく。
中身はと言えば……。
白い容器に……透明なガラスの様なものが張り付いた妙なものだった。それが二つ。
そして、鮮やかな緑の──さっきの「魚」のでっかい奴。これにも文字がびっしり。
「これ何なんです?」
取り出した「魚」に、ミュウに貰ったものと同じ「魚」が入っている。
シェラだけ、「魚」が三つだ。
「こうやって──よっと」
ミリリリリ……と、ウサギの皮を剥ぐような音がして不思議な容器からガラスが取り外された。
途端にフワリとした甘い穀物の香りがする。
麦にも近いが──なんだろうこれは?
「こりゃ、フィルムって奴だ。剥がしてしまえば……コイツ──白米が主食になる」
「ご飯とも言うな」等と、そういってから『フィルム』に包まれた先割れスプーンを取りだした
「で、これだ。『サバの生姜煮』と『肉じゃが』って料理だ。美味いぞ」
そういって、白米…「ご飯」の上に鮮やかな緑の「魚」の上端を──……ピリリと破り、??? ボチョンと乗せた。
途端に広がるのは少し生臭い匂い──そこに混じるのは、
「う……魚の切り身と──ジンジャーですか?」
ほう。と驚いた顔をしたビリィ。
「よくわかったな。お前はこれを『魚』と勘違いしてるみたいだが、これは『レトルトパック』といって、一種の容器だ」
そういって鮮やかな緑の『れとるとぱっく』を示して見せる。
な、なるほど……。
真似をするようにピリリと上端を破く。固いと思ったがしっかりと破り口がついている親切設計だ。
ただ少し力を入れすぎたのか、中の汁がビュっと飛び散り、顔に──!
「うわ!」
ドローとした白濁液が顔に……。
「アツぅぅイん……」
ホカホカの白く濁ったサバ汁が……熱くて臭い白い汁が──!
く、くっそー、最悪だ。
って、なんで下種顔してるんですか? ビリィ軍曹殿?
「ドスケベが」
スパコンと、ビリィの頭を叩くミュウ。
「いや、なんでぇぇえ? コイツ、ガキやん!!」
「そういとこやぞ」
「???」
さっぱりわかっていないシェラは気にせず。
そして、ミュウはといえばもう一つのパックを手にして中身を半分ほど、ご飯にぶっかけていた。
その開ける手つきは慎重だ。
(……な、なるほど、ゆっくり開けないとだめなのか)
「ったく、いってーなー……まぁいいや、食ってみろ。旨いはずだ」
ミュウの馬鹿力でぶん殴られたので相当痛そうだ。
って、それよりも──「食ってみろ」と、そう言われても、想像以上に生臭い。
くんくん
川魚は食べたことはあるが……こんなに生臭かったっけ? 大抵焼いてたり、シチューの具になってたので何とも言えないけど…こんな切り身が、半身分も出てくるなんて。
しかも、ミュウさんがくれた分を合わせれば丸一匹分だ。……結構キツイ。
恐る恐る先割れスプーンで身を解す。
固いかと思ったが思ったより「柔らかい……」と口に出る。
うぇ。
「ビビッてねぇで食えよ」
ビリィは、既に豪快に半分ほどを先割れスプーンに突き刺して口に放り込んでいる。
モチュモチュと口の中で転がしたかと思うと、ご飯を一掬い、二掬いと、次々に口に放り込み口内で混ぜている。
なんだその食べ方?
「い、いただきます……」
解した身を恐る恐る……。
パクッ──。
う
旨い。
──美味い!
「お、美味しい…です」
驚いた顔でサバを
「お、シェラは魚食べられるんだ?」
ミュウは感心感心としきりに頷いている。
「ミュウはよぉ、偏食が過ぎるんだよ」
こんなに旨いのによー、とサバを豪快に食べつつ、
不思議な容器に乗っかったご飯を、ぶっかけた掛けた汁ごと豪快に飲み干していく。
食べるというより……なんだ? 掻っ込むとでもいうのだろうか。
見るからに下品な食べ方だ。
僕は違うぞ……と思いつつサバを食し、飲み下してから白米を口に……うん。
「ご飯って淡泊ですね」
「そういうもんだ」
サバの汁がかかっているから多少は味があるけど、これ単体だと食べるのはキツイ。
うーむ、と思いつつサバをパクリ。モッシャモッシャ──あ、うまいわ、魚。とうかサバ?
さて、飲み込んでからご飯──と考えていると、
「ゲップ」
ミュウが可愛らしい顔に似合わず盛大にオクビを漏らしつつご飯を掻き込んでいる。
──この人は女であることを捨てているのだろうか?
口の中で、肉じゃが? とご飯を最大に混ぜつつモッシャモっシャと実に豪快。
チラリと目を向けられて──。
「シェラ……そんな食い方してたら戦争終わっちまうぞ?」
……む!
望むところです。
と言いつつも、既に一つ平らげたビリィは早くも二つ目のご飯を開封している。
確かに……遅いかも。
軍営では早食いが基本だった。
というより、メニューが簡素すぎて時間をかける理由もない。
パンにシチューに、なにか肉か──焼き物がついて、たまにデザートが付く程度。
レパートリーもそれほど多くない。
時には芋ばっかりなんてことも。
そう言った意味で言えば、この戦闘糧食も実に簡素なのだが、魚の味わいは深い。
さらにもう一つメインの肉じゃがなるものがあるのだから、
外で簡易的に食うものとしては、かなり上等だろう。
しかし、それにしても面倒なのはご飯と言うやつだ。
スプーンで掬っても大した量は取れないし、サバ汁を吸ってパラパラになって実にもどかしい。
「お上品だねー」
ジュルルルル、ジュルウゥゥ! と、派手な音を立てて汁っけタップリの肉じゃがを頬張っているビリィとミュウ。
く……なんかすごく馬鹿にされている気分だ。
「可愛いねー」
……ファ〇ク!
食えばいいんでしょ! 食えばぁぁ!
「はぐはぐはぐはぐ……!」
ジロジロ見られながら食うには
ここはもう先人に
そう、踏ん切ると一気にサバと一緒にご飯を掻き込んでいく。
汁気を吸ったご飯は、実に喉越し良く口の中に流れていき、胃袋まで直行だ。
しかして、ゆっくり味わいたいのもまた事実。
口の中に残ったものは
……モッチュ、
むむ!
モッチュ、モッチュ……!
むむむむ!!
───……!!!
うッま!
ナニコレ!?
「うみゃぃ……!」
口の中を一杯にして辛うじて声を出す。
……っていうか、マジでうまい。
サバとご飯の絡み合い混在化したこの味──……!
相性抜群!
なんじゃこりゃ!
なんじゃコリャ!
なんじゃ──!
サバはご飯に出会うために生まれてきたのか!?
すぐに、もう一つのサバをご飯に上にあけると、ツユダクになっているのも構わずに軽く先割れスプーンで解して食べる。
そう──お下品に、だ!
ジュゾゾゾゾゾオゾゾゾ!!
───っっくぅぅぅぅぅ!!
旨し!
旨し!
旨し、旨し!
一人で、グッグッ! と、ガッツポーズを決めつつ
その様子をホッコリした顔のビリィ&ミュウが見ている。
しかし、気付くことなくシェラは二つ目の品に挑戦するべく大きめのレトルトパックに手を付ける。
たしか……肉じゃがだったっけ?
「鴨肉じゃがだ。なんで鴨を使ったかは知らない」
と、ビリィが思考を先読みするように補足してくれた。
鴨?……あーカモね。たしか水鳥で、アヒルみたいな味の奴だ。
食べたかどうか明確に思い出せないが、不味いものではないはずだ。
その肉が入っていると?
そして、ジャガ……──あー、芋ね。
うん、しょっちゅう食ってる。
嫌になるくらいに……ね。
ようは、ベーコン入りのマッシュポトテみたいなものかな?
ミュウの食べてるものを見れば汁っ気たっぷりだけど、味はそう変わるものではないだろう。
──だって芋だし。
そう思い、今度は慎重にピリリとパックを開封していく。
少し、ピュッと汁が飛ぶが指に付く程度。なぜかビリィが残念顔……!
顔面発射の「アツぅぅイん」をさせたかったらしい───クソが!
それはさておき、開けてみればモワワ~と、広がる肉の油の匂いと───なんだろう? 甘ったるい匂いの中に香ばしさが……。
「ソイツは、肉のほかにジャガイモ、ニンジン、玉ねぎなんかが入ってて栄養満点だ」
ビリィの説明をなんとなく聞きながら、
ドロロロロー……と開封したご飯にかけると──なるほど汁たっぷりの具沢山。ほとんどシチューかと
「味付けは砂糖に、
砂糖!? シチューに?……それはまた贅沢な。
人類の大陸封鎖で物資が慢性的に困窮している魔王軍では、空いた土地を軒並み開墾し農作物を植えている。
主に、成長が早く収穫量の多いジャガイモやカブだ。
それでも足りず、商品作物であったサトウダイコンやら油菜はほとんどが、ジャガイモ達に土地を譲った。
故に本国でもどこでも常に砂糖は不足。いわゆる高級品のー贅沢品だ。
それをシチューに入れているらしい。どおりで甘ったるい匂いをしているわけだ。
そして、なんだろう?
酒はわかるけど、アルコールを料理にいれるのは少々もったいない気がする。
もちろん酒精を加えることで料理の味を引き立たせることは知っているし、肉には香りづけとしてぶっかけることもある。
いずれにしても…贅沢なものだ。
さらには、なんだっけ? 醤油──。
え?
……しょ、
しょ、しょ、しょ、醤油ぅぅう!?
し、醤油って、確か……。
かつての王宮料理で使われた…豆から作る魚醤の一種じゃ──。
う、うそ…………それ滅茶苦茶高級品じゃないの!?
え、えええええ!
肉じゃが半端ないくらい贅沢品じゃ……!
「そ、その……こんな高級なもの、いただいていいのですか?」
語尾はゴニョゴニョと小さくなっていく。
軍営では一応、食事は支給されるのだが、それで足りないと感じる者も当然いる。
その場合は……訓練兵は別にしてだが、
部隊配属のものや、職業軍人は自分で買い付けたもので自弁することがある。
そのため
皆この自弁用の追加の食べ物を売買するためだ。
お値段はピンキリで、
自家製ザワークラウトやピクルスに、炙りベーコンにアイスバインなんかも買えたりする。
当然、お肉は超高い。
一等兵の安月給では早々、買えるものではない……。
ということは、
もしや──この肉じゃがなるものはすごく高級品で……。
※ 妄想中 ※
「いただきまーす!」
モッサモッサ
「うまーい!」
とシェラが喜んだその瞬間──。
「じゃーお嬢ちゃん、体で
とばかりにビリィが本性を剥き出しにして、
「あーれー」
ビリビリビリィ! と、哀れシェラはおしりの純潔を散らす羽目に……。
「ひっひっひ、エルフは小さくても可愛いのー、ひっひっひ」
「ひ、ひどい!! まだはじめてなのに──……!!」
───な~~~んてことに!!!!
※ 妄想終了 ※
「この腐れ外道!!」
外道滅せよ! 水球ゥぅぅぅ乱打!!!
「ちょちょちょちょちょちょちょ! 何やってんのよアンタ!!」
慌てた様子で、肉じゃがを掻き込みつつミュウが仰け反っている。
……安心してくださいミュウ曹長。
いつもこの外道に体を弄ばれていたんですね……たかが飯、されど飯。旨い飯には罠がある!
「滅せよ外道! 我がシェラ・フェルドリンの名のもとに成敗してくれる!」
───ええ加減に、
「「せい!」」
ススパパーーンン!!
と、息のあった突っ込みを頭に食らって強制的に魔法をキャンセル。
ボシュウ~と空気中に霧散していく水球たち。
「ったく、急になんだってんだ」
「ビリィ……この子、アホの子かもしれんね」
ムカッ! 失敬な!
「だ、だって、こんな高級品タダでくれるはずが……」
一体いくら取るつもりなのか。お金も──軍票で少しは持ってきているが、とても払えるとは思えない。
「はぁ? 肉じゃがで金なんかとるかよ……」
「コイツの出す飯は全部タダだよ。でないと誰がこんなとこで勤務するもんかい」
もちろん、軍務である以上──行けと言われれば行かねばならないのだが……。
選べるなら、誰もこんなところには来ないだろう。
「いいから食え。冷めるぞ」
うぅ……本当だろうか。
食ったら
「い、いただきます……」
食事中に2度目のいただきます。
仕切り直しには必要だろう。
おそるおそる……。
ビリィの方を上目遣いで確認しつつ、
パクリ──。
……う
…う
う、
旨~~~~い!!!!!
やっばぃ! なにこれ!?
味わいがぁぁぁぁぁぁ!
えええ、
ナニコレ、なにこれ、何是!?
甘い……の中に、ジューシーさと……肉の旨味が塩味と絡み合ってぇぇぇぇぇ!
「超ぉぉぉ旨ぃぃぃぃぃい──……でっす」
思わず叫んでしまった。
いや、私は悪くない。だって、
だって、
「旨いぃぃぃぃぃ───……でありまっす」
なんか上官二人の目が怖い……。
なんだろう。ホッコリ顔から……──あぁ、あの目は知ってる。
雨の中捨てられてる犬を見る目……。
可哀そうな子──を見る目だ。
……え?
えー……ダメ?
叫んじゃダメな子?
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