0055 火の力を試す者達
【40日目】
○
"名付き"の1体にして、ベータの舎弟、回転移動を習得していた
自らは吐き出した可燃性の強酸を燃焼させ、周囲の被膜や肉の繭を焼き尽くしながら、さながら
エイリアン=ビースト共通の種族的特徴である「十字牙顎」はそのままに、
そして、背中から4枚、肉と骨と皮からなる落下傘のように大きな翼膜が生えている。
頭の側に向かって2枚、お尻側に向かって2枚。
名前が"
ただし、この蝙蝠蛍、自力では空を飛べないらしい。
『因子:軽骨』の効果によって、全身が軽く浮かび上がりやすくなってはいるものの、翼膜自体を動かす筋肉と身体構造が未発達であるという歪さがあり――イプシロン達に試しに「飛んでみろ」と命じたものの、びたんびたんと見苦しく4枚の翼膜をバラバラに羽ばたかせることはできたのだが、どうにも様々な意味でのバランスが悪いのか、風を受けて空を飛べるに至らないのである。
ぷるきゅぴ達が「特別講師さんを呼ぶよ!」と言って呼び寄せた『哨戒班』のイータ率いる
邪魔であったのでアルファに命じて【おぞましき咆哮】を迷宮中に響く音量でぶっ放させて、ベータと
初めての『属性因子』である。そこからどのような"現象"が編み出されるか俺は期待し賭けていた部分もあったが、結論から言えば、このように
【火属性】が『因子:強酸』とある種の反応を起こして「可燃性の強酸」となったことは、最初に繭から出てくる際に述べた通りである。
そして
無論、それだけでならば
これにより、羽ばたく度に「燃酸」と「火の粉」が空中で反応。
絶え間ない"小爆発"が発生し、その衝撃波を4枚の落下傘のように広く広げられた翼膜で受け止め、"軽骨"で形成された脆くも軽い身体で浮かび上がるという、進化の収斂上の"ゴリ押し"とも言える解決策によって『因子:空棲』に
――火炎と小爆発に包まれ、ちょっとした熱風を撒き散らしながら浮かび上がるもんだから、その検証は「縦に広く」掘り抜いた部屋で行ったが。
そういう意味での"蛍"ということ。腹部を淡く光らせるのではなく、全身に小爆発の火気を纏わせながら、燃える強酸を振らせて真下にいる生物を2重の意味で"焼く"という、儚さも侘び寂びもへったくれもない"蛍"であった。
とてもではないが、
しかし"戦略爆撃機"としての性質を備えているという意味では、また異なった運用法が考えられる。言わば生ける焼夷兵器であるとも言え――
ただし、【火属性】を持たないエイリアン達を巻き込まないようにするという意味での運用上の注意は必要である。
対【樹木使い】のリッケルでも、地上部の森を全て焼き払うのは最終手段である。そして俺はむしろ――「燃酸」という
……むしろ炎舞蛍自身は「携行兵器」や「燃酸生成装置」に徹させた方が効率が良い、とすら言えるかもしれない。少なくとも、今のこの局面においては。
○
『連星』の2番手であるイータは現在
しかし、余裕があるうちには"選択肢"の検討をしておくことは価値がある。
そのため、当初の方針を軌道修正して1体だけ――『
≪資源がカツカツさんだと言っておきながら、
≪やったぁ、造物主様の"冒険心"だね!≫
≪で、でも……1体だけなら、大丈夫さんだよ……きっと≫
『
それは一言で言うならば、「空飛ぶリコーダー」といったところだろうか。
完全な棒状とはなっていないものの、折りたたまれた四肢と、両端から頭と尾を掴んで縦に引き伸ばされたような"長い"肢体となっており、しかし
細長くなってしまったために、見た目の"圧"という意味ではさらに弱まっている。
しかし、その異形さは増していた。
その名に与えられた『一ツ目』の通り、元々存在する両目とは別に、額からもかなり上の頭頂部に近い辺りに、まるで脳みその半分が変異したのかと思われる巨大な赤色の虹彩を放つ"目玉"が生えていたのである。
それこそ連日、海上で
そしてこの"巨眼"の周囲には、【火】属性の魔素の流れが渦巻いており、限定的ではあるが【火】属性の魔法を
……だが、重大な欠陥として、純粋に『因子:火属性適応』を取り込んだ
無論、"名付き"となった以上は、指揮統率する能力も求められるため、むしろ臆病な性格は生存率が高いため決して忌避されるものでもないだろう。
――しかし、
系統技能【属性換装Ⅰ】。
念の為
すなわち、1体の
……ただ、少なくとも【火】に関しては失敗であり、少なくとも今検証せずとも良かったな、と俺は自らの"好奇心"の結果を受け止めた。
○
○
その姿は、どちらも進化元である
うねうねと細葉を模したいくつかの触手で、それぞれに"オカリナ"の砕けた白い殻を宙に持ち上げ、掲げていた。この"持ち上げ方"で
そして、"花"の部分を構成する紅蓮色の肌に覆われた肉塊の果実の中には――凝素茸が生み出すものに近い「魔石」のような拳大の結晶が、裂けた肉の切れ目から見え隠れしていた。
この「結晶」こそが『
俺はそれに『属性結晶』と名付けた。そして【火属性】の場合は、周囲から少しずつ、魔素の青と命素の白を属性結晶の中に取り込んでいき、それを結晶の中で、まるで霧状の絵の具が空中で溶け合ってかき混ぜられ――その中から新しく淡く"赤橙色の"
それは技能【魔素操作】を使うまでもなく魔素の流れとわかるものであり、そしてそれがさらに【火】の魔力と言えるもの、【火】の"属性"であるものとして蓄えられたものとはっきり感じ取れるものであった。
そしてこの言わば『火属性の結晶』とでも言うべきものを、一度命令を下せば、火属性砲撃茸は『燃え盛る火球』として、魔法の力の弾丸として撃ち放つことができる。この【火】魔法の操作には、ある程度の柔軟性があるようであり、"放出"に限ってであるが、火炎放射器のように細く鋭く噴き付けさせることや、時間を貯めて大きな火球としたり、複数の小さな火球に分散させて撃ち放つことができるなど、応用が効き、『砲撃』の名に恥じず、まさに砲台のような運用が可能。
一方で火属性障壁茸の方は、これは俺が『9氏族陥落』作戦で「妨害魔法」に近いものを会得したため理解できたことだが、【火属性】を引き起こそうとする魔素の流れや魔力を
欠点として、属性障壁茸自身の
この"障壁"が及ぶ範囲内では
これだけでも、俺の迷宮の対魔法戦力が急激に強化されたようなものである。
少なくとも『9氏族陥落』作戦の時にもし
――だが、
この『属性結晶』だが、実は
赤橙色が十分に結晶全体に染み渡り、成長しきった結晶であれば、それを直接【火】属性の「魔力タンク」として扱うことができることが判明したのである。
ソルファイドに持たせてみて【火竜の
ただし、一度取り外してしまうと
ソルファイドや炎舞蛍に与えた属性結晶は、魔石や命石と同じく、内部の魔素や命素が尽きた場合は霧散して塵よりも細かな粒子となって風に消えてしまうのである。その一方で、魔石や命石とは異なり、属性結晶自身は、エイリアン達の維持命素や維持魔素を支払うためには使えない。
"戦略資源"としての『属性結晶』は生産に時間がかかる、
「御方様。その
というル・ベリの気づきの下で、
「なぁ、ソルファイド。"属性付きの魔石"なんてものが【人世】にはあったか?」
「そこまではわからぬ。【人世】の"魔法"については、『長女国』を調べねばわからぬだろう」
「考えるのは最低でもリッケルを退けてから、だな……だが、
ただ単に、
あくまでも魔素・命素の供給源として安定的に軍力を増していくか、もしくは『属性結晶』として蓄えてそこから生み出される特定の属性の魔法の大火力による瞬発力を重視するか。
はたまた、これを"資源"として交渉や交易に利用するか。
――「属性」と言うだけあって、少なくとも今俺が解析できている他の『属性適応因子』の全てが同じように扱われる可能性が高い。
単純にこの【火】属性の『属性結晶』があるだけでも、元の世界では長い技術史の果てに少しずつ解決されてきた、暖房問題や燃料問題について、色々な段階をすっ飛ばしたアプローチが可能になったりするのである。
そこに他の「属性」が加わった時に、果たしてどれほどの応用が効くことになるであろうか。
なお、物は試しということであえて魔石ではなく命石についても『属性結晶』化を試みてみた。
しかし、やはり超常の現象を引き起こす
だが、それでも
今後、【闇世】や【人世】でどのような勢力と遭遇するか次第ではあるが――割りと本気で『属性結晶』をさらに今後の"迷宮経済"の中心に据えていってもいいのかもしれない。
俺はこの時、既にリッケル戦の先を見据えていた。
今はその余裕が無いが――"技術革新"は流石に気宇壮大で勇み足であるにしても、
(果たして、他の
既に"大枠"としての
連日、流れ着いてくる木造船団の"残骸"に関しては、念の為【情報閲覧】によって見聞後、全て燃やしているが――それはテルミト伯の『飛来する目玉』に俺が【火】での対抗を意識していることを見せつける意味もある。
こちらがこの作業を「日課」として慣れてきたあたり、そろそろ"奇襲"に警戒すべき時期が来ていた。
【後書き】
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また、次回もどうぞお楽しみください。
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