第五話 秘密の正体
ポーリシアが新たに婚約した話は学園中に知れ渡っていた。
「ポーリシア本当なの? 幼馴染と婚約したって」
ポーリシアの友人たちは次々に同じ質問をしてきた。
「そうだよ。ずっと憧れていたお兄ちゃん。両親もあっさり認めてくれてこっちが拍子抜けだったよ」
「そうなんだ? おめでとう!」
友人たちが祝福してくれている。ポーリシアは恥ずかしい気持ちと嬉しい気持ちでいっぱいになっていた。
そんな中、エルヴィンの婚約者である男爵令嬢トレイティが通りかかった。トレイティはポーリシアと目があったがすぐに目をそらした。
ポーリシアはトレイティのもとへ走ると、彼女を人目につかないところまで連れて行った。
「この間は嫌味っぽいこと言ってしまって申し訳ございませんでした。トレイティさんはエルヴィン様の秘密の趣味に耐えられそうなのですか?」
ポーリシアはトレイティを嘘偽りなく心配するくらいに心に余裕があった。
「あなた……耐えられるわけないでしょう? なぜわたくしがエルヴィン様にママと呼ばれないといけないのですか!? わたくしより大きなエルヴィン様のことをおんぶしたり抱っこしたり、何度も排泄物の処理をさせられて、子守唄も歌わされて。おっぱいを飲ませて欲しいなんて言われても出るわけがなくってよ? 少しでも理想のママの行動から外れると怒鳴られ、叩かれ、物を投げられるし……。もうわたくし限界です」
(やっぱりトレイティにも同じことをしているのね。本当に気持ちの悪い男)
「わたくしも同じことをされていました。トレイティさん、お話聞くくらいならいつでもしますわ」
「結構よ! どうせ自業自得だと思っているんでしょう?」
「前はそうでした。でも今は本当に心配しています」
(トレイティがわたしの嘘の噂を吹き込んでくれたおかげで、わたしはあの人の考える理想のママ像から離れたんですもの。急にあの趣味に付き合わなくてよくなったので初めはなぜだか怖かったくらいよ。それで婚約破棄できたのだから感謝してますよ)
「……ポーリシアさん。ありがとうございます。それなら愚痴を言いたくなった時に頼ってもいいかしら? わたくし本当に限界ですの」
「もちろんですわ」
そうして悪役令嬢に仕立て上げられた被害者とその加害者は和解したのだった。共通の敵を前にわかり合ったのだった。
しかし、ふたりが決定的に違うのは、ポーリシアには幸せな毎日が待っているが、トレイティには地獄が待っているという点である。
【完結】婚約者の恥ずかしい秘密の趣味に苦しめられた私は、婚約破棄されたおかげで小さい頃から大好きだったお兄ちゃんと婚約する 新川ねこ @n_e_ko_
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