妄想


「あーもうどこ行……あ。んだよここかよ。ほら、コーヒーいるか」

「……なんで来た」

「探して来いって言われたんだよボケ上司に。さっさと帰んぞいきなり飛び出しやがって」

「それは、まぁ。悪かったけど」

「あー?おい、どうしたよ。何がそんなに嫌なんだよ」

「別に、今が特別何か嫌なわけじゃない」

「じゃあ何だ?何がお前をそんな腑抜けた顔にしてんだ、らしくもない」

「……お前は、なんで生きてる」

「は?なんだ喧嘩か?」

「違う。なんで生きてると思う」

「なんだよ急に。知らねぇよそんなの、哲学者に聞けよ」

「じゃあ、なんで生まれたと思う」

「おいどうした。そりゃお前、言わすなよ。いや、なんだよ、ほんと」

「なんで、……なんで、意味もないのに、」

「……おい」

「意味もない、価値もない、何もかも中身なんてないのに。なんで、こんなに」

「おいってば」

「おかしいんだ、だって、なんで生きてる。意識があることに意味なんてない、考えることに意味なんてない。怖いって思うのも、意味なんてないのに」

「おい!どうしたんだよ!」

「だってみんな死ぬんだ!!ずっとなんてないんだ、最後にはっ、……最後には、みんな、死ぬ、のに」

「……お前、」

「昨日、風呂場で殺した虫が、ほこりみたいに流れてったんだ。死んだことにも気づいてないのかもしれないんだ。僕だって同じかもしれないんだ。生きてるつもりなだけで、もしかしたら、もう、死んでるかもしれないんだよ。僕だけじゃない、お前も、あそこで寝てる猫も、上飛んでる鳥も、みんな、みんな」

「おい、」

「なんで、生きてると思うんだ。そんな確証、どこにもないのに」

「……知らん。そんなんただの人間が分かるわけねぇだろ」

「っでも、」

「だーーうっせぇなバカ!知るかよそんなこと!!俺がわかんのはお前が生きてるってことだけだ!!知らんことに無駄な時間使うなもったいねぇ!!」

「あ、」

「死にたくないんだろうが結局は!大抵の人間そうだろうよ生きてんだから!!黙って死ぬまで生きろもう!」

「……死ぬのがいつかも分からないのに?」

「分かったら人間じゃねーだろバータレが!骨ぐらい拾ってやるから長々しょげんなや!」

「……僕より先に死にそうな人に言われたくない」

「喧嘩かテメェ」

「嘘、嘘。っはは」

「笑い事じゃねぇ!!」

「ごめんって。ラーメン奢るから許してくれ」

「貢献度的に焼肉でも文句言われねぇだろ焼肉にしろ」

「美味いとここの辺にあったかな、塩がいいな」

「おいコラ話聞けや人騒がせ。先会社戻るぞ馬鹿野郎」

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