自由な女神、不憫な鏡



「鏡よ鏡、世界で一番美しいのは誰?」

「おお、女神様。貴女以外に他なりませぬ。何故そのようなお戯れを仰るのですか」

「それはもう聞き飽きたのよね」

「えっ」

「そうねえ。ねえ鏡」

「あっ。えっ、はい。」

「世界で一番男前なのは誰?」

「えっ、……うーん、そうですね」

「がっしりした熊みたいな人がいいわね」

「……えっと。それならば、此方の殿方は如何です。今年度の力自慢で優勝なさったそうで、逞しく凛々しい男性です」

「あら、いいじゃない。明日にでも加護を与えに行こうかしら」

「えっいや、それは早計というものでは」

「鏡。世界で一番上品で愛らしいのは誰?」

「えっ……あ、はい。えっと。それでしたら、此方の御令嬢でしょうか。領主であるご両親に愛されて育ったようで、兄と妹の面倒を見るのが最近の楽しみだそうです。立ち居振る舞いも心根も美しい女性であられます」

「あら〜、いい子ねぇ。この辺り確か、最近は干ばつが酷かったのよね。バランスが悪かったかしら。調整しておきましょう」

「あ、それは不要かと。此方の領主はやり手なようで、隣の領主と手を組んで水道を引く目処が立っているそうですので」

「まぁ!なんと立派な人間かしら!それは良い娘に育つわね。明日は忙しくなるわ〜」

「いやっあの、お言葉ですが女神様。気軽に加護を与えすぎではないですか?少し控えられた方が」

「あらなぁに?私に背くのかしら?その鏡面叩き割ってあげてもよくってよ」

「ひっ……い、いえ、過ぎたことを申しました……」

「分かればいいのよ分かれば。うふふ、明日の準備しないとね〜」

「……お好きに……。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る