【写武者】 中の五


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      一方その頃

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 草木も眠る丑三つ時、俺は新谷先輩に叩き起こされて夜の学校に来て居た。

 結局【写武者】の出現条件は満たせなかったが、現場に行かなければ分からない事もあるだろうし、実際に現場で色々と試してみようと昼間話し合ったのだ。


「きゃうっ!!!わぅっ!わぅっ!!」


 【写武者】を探す為に出し俺のツムジの上に乗っていた霧呼が、廊下の窓に向かって、しきりに吠えだした。

 違う違う!探して欲しい怪異は学校の中にいるのだ。外じゃない。


「霧呼、ダメだって!忍び込んでいるんだから、静かにしなきゃ。」


『外に何か居るみたいだね……おや?』


 俺の頭の上に乗っていたら、何か見えたらしい。新谷先輩まで廊下の窓を覗き出し、意味深な呟きをする。

 そんな動作をされると俺も気になり、真似して覗き込んだ。


「…………っげ!!」


 服装は違うが、あの長い髪と中性的な顔立ちは間違いない。


 窓の外には昼間、俺達に話しかけてきた陰陽師の姿があった。


 慌てて相手に見つからない様に、しゃがみ込み小声で新谷先輩に話しかける。


「何で居るのっ!?新谷先輩を捕まえに来たのかなぁ!?どうしようっ!!」


『落ち着いて、莉玖くん。むしろチャンスかもしれない。』


 チャンス?

 怪異と陰陽師、両方相手しなきゃいけないかも知れないのに!?


『彼をよく見て?……腰に刀を差してる。もしかしたら【写武者】を誘き寄せる事が出来るかも知れない。』


 鼻先から上までを恐る恐る出し、冠原さんの様子を観察する。

 確かに、彼(彼女?)の左腰辺りに武器らしき物が見えた。と、言うことは冠原さんも【写武者】を退治しに来ただけで、俺たちと同じ場所に来たのは偶然だったのだろう。


「じゃ、じゃあ!!冠原さんに全部任せちゃえば良いじゃんっ!!!陰陽師なら多分、強いだろうし!」


『それでも良いけど、鉢合わせないようにしなよ?』


 やった!!お家に帰れるっ!!

 正直言うと今日も学校があるので、まだ寝ていたいのだ。


「あ、じゃあバレないように冠原さんの居場所を突き止めなきゃ……!!新谷先輩!」


『はいはい。……その曰くは、闇に閉ざされた遊戯。』


「ありがとー!……うわわわっ!!!」


 視界がガラリと変わり、目の前に廊下の中央に立った鎧武者の姿が映って、腰を抜かした。

 手には鈍く光る日本刀が握られているのをみるに、どうやらさっそく対峙したらしい。

 近くの教室とか見てくれないかなー、と呑気に思いながら見ていた、その時。


 唐突に、嫌な考えが頭を過ぎった。


 仮にもし、冠原さんの目的が【写武者】で無かったら?


 刀を、使ってはいけない怪異だと知らなかったら?


 あり得なくも無い話だ。幾ら陰陽師が怪異の専門家とはいえ、全ての怪異を把握している訳では無いだろう。

(俺たちは、その都度「挧 」で怪異について確認出来ているけど、陰陽師って「挧 」について知っているか現時点で不明だし。)



 そして、俺の疑惑は確信へと変わる。



視界が、刀の柄に添えられた手を映したのだ。

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