【写武者】 中の四


 答えられないのは協力してくれていた理由を考えた事がないからか、はたまた信じていた怪異に利用されている可能性に気付きたくないからなのか。

 どちらにせよ、思うところがあるらしく彼は俯いてしまった。


『いやだな、怪異が善意で人間に味方しちゃ悪いの?』


 ズズズッと有栖川の背中から、呪念の手記が身を乗り出してくる。

 本体である有栖川が黙っているからか【呪念の手記】が、やっと口を開いたようだ。


『自分達の事は信用してくれって言ってるクセに、僕の事は信用してないんだ?実際に何回も人間達を助けているのになぁ。』


 その声は、老若男女さまざまな声を一斉に再生したようでキミが悪く、先程の「善意」という単語を聞き、あからさまに顔を顰めている有栖川を見ると、その内容も信用出来そうに無い。

 

「俺が信用して貰いたいのは有栖川に、だ。お前は要らん。」


 冷たく切り捨てると、少し回復したのか「あの、俺からも聞きたい事が……。」と今度は有栖川から、おずおずと話しかけてきた。

 険悪な雰囲気を感じ取って、いったん話を逸らす気らしい。


「メッセージボトルに入れた音声データから、俺と新谷先輩の声は消していた筈なのに。どうして、俺たちが柏木……さん、に襲われたって知っているんですか……??」


ああ、その事か。


「厳重に秘匿されている陰陽師の拠点に、何かを送れる怪異なんて限られている。その数少ない怪異の中から、柏木家の研究室に資料が有ったのが半憑の【呪念の手記】だけだったからだ。詰めが甘かったな。」


 それだけ言うと、まだ何か聞きたげな有栖川に踵を返す。

 恐らく、彼方もまだまだ知りたい事があるだろうが、おいそれと簡単に情報を渡す訳にはいかないのだ。


「お前達が私を信用出来ないのも無理はないだろうから、今回は引く。……柏木は嘘ばかりついていたようだが、民間人に手出し出来ないのは本当の事なんだ。」


 それだけ告げて、そのまま私は背を向けて歩きだした。


 そして、暫く歩き続け有栖川が追って来ていないのを確認すると、私は懐から札を取り出し呪文を唱える。

 手の中の札がクシャクシャと一人でに形を変え始め、一羽の紙でできた鳥の姿になると、そのまま鳥は私の手から反対方向へと向かって飛んでいった。



……そう、有栖川の居る方向へと。



ーーーーーーーーーーーーーーーーー


 鳥の式神を通して、有栖川の様子を監視する。覗き見なんて姑息な真似は好きではないが【呪念の手記】が良からぬ事を企んでいるのなら、本部に報告しなくてはならないからだ。

 場合によっては、特例として有栖川ごと処分される可能性もあるので、それを避けるためにも奴の真意は把握しておきたい。本当に人間に危害を加える気が無いという証拠が無ければ、また別の陰陽師が嗾けられるだけだろうから。


「きゃうっ!!きゃうんっ!!」


 ぺたー、と窓ガラスに鼻先や顔を押し付け此方を凝視するフサフサの仔犬(にしては小さ過ぎるが)の怪異に見つかったものの、有栖川がオヤツを用意したと言ったら上機嫌で直ぐに行ってしまった。多分、有栖川本人には気づかれずに済んだだろう。


 そのまま夕食から就寝まで窓から監視していたが、特に怪しい所は無かった。

陰陽師である自分が接触したから、警戒しているのかも知れない。

……と思ったが。


深夜 2時。


「…………?何処へ向かう気だ??」


 私も就寝しようかと思った頃、突然【呪念の手記】に叩き起こされた有栖川が、家を抜け出したのだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーー


ぐわー!!!前回の文章に重要な台詞が抜けてたー!!!。゚(゚´Д`゚)゚。

ケアレスミス!!!鹿のアホっ!!

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