【写武者】 中の二


写武者、その曰くは奪者の剣豪。


 立派な鎧に身を包んだ怪異。

 剣の腕に自信のある者に近づいては、全く同じ武器を持って決闘を挑み、相手が受けるまで何処までも付き纏う。

 交わした剣から相手の技術を奪い強くなる能力を持つ為、最初はワザと弱いフリをして近づくらしい。

 相手から技術を奪い尽くすと、持っている武器で滅多打ちにされる。

 逆に【写武者】に決闘に勝つことが出来れば、怪異は今まで奪った力を全て失う。


元は、昔の裕福な農家の倅。


 剣の道場に通い、そこでは敵なしであった為、自分は必ず戦場で名のある剣豪になると自負していた。

 だが、鎧や真剣を扱った事がないお前には危険だからと、親からは戦場に出させてもらえず、日々不満を募らせる。

 強い武将と戦い名声を上げたい、そう思っていた男は馬と刀を借り、鎧一式を勝手に着込んで、有名な武将が参戦しているらしい、合戦が行われている戦地まで掛けていった。

 そこで刀を奮って戦ったが、鎧の重さと馬の揺れ具合で思ったように扱えず、名も知らぬ者にアッサリと首を落とされ、死んだ。

 

 男は口惜しくてならず、自分は強い奴を倒し、偉人になる程の男だった筈なのにと。あまりの無念からか怪異化し、強い者に挑んでは技術を奪って打ちのめし、悦に浸るようになったという。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 俺が一日中の休み時間を使って情報を集め、新谷先輩が出した結論が、この【写武者】の仕業じゃないかという事だった。

 なるほど、特徴が一致しているし、ほぼ間違いなくこの怪異で合っているだろう。


 にしても、この怪異の仕業だとすると部長は竹刀だから怪我で済んだが、仮にもし真剣を持っていたら、どうなっていたのか。少しゾッとする。

 まぁ、凶器になるような武器なんて一般人は持っていないから、殺される事は無いと思いたい。それはそれとしても、危険な怪異である事は変わりないから退治しなければ!!

……って思ってたんだけど。


「……あれ?この曰くの通りなら、剣の技術が無いから俺の前には現れないんじゃ?」


『そうだね、どうしようか。』


 なるほど。剣の腕が無ければ、そもそも現れる事も無く。逆に剣でやり合ったら否応なく力を奪われ続け、かといって逃げ続ける事も出来ない。

 同じ物を真似して使ってくるから、武器に細工も出来ない。

 全く、なんて狡い怪異だろうか。腹立たしい。


 さて困った。同じく絵の上手い人しか襲わない【固執の姿絵】の時は、西岡くんが居たから結果的に何とかなったけど、今回は協力してくれる人間を捜さなければならない。


云々悩みながら帰り道を歩く俺に、


「お前が、有栖川 莉玖か?」


突然、背後から中性的な声が掛けられた。

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