【写武者】 中の三
柏木家から強制回収された書類に、記載されていた【呪念の手記】の半憑。
性別は男、名を有栖川 莉玖。
彼のパーソナルデータと共に貼られていた写真は、俺の声に反応して振り返った目の前の少年と瓜二つだから、彼が有栖川 莉玖で間違い無いだろう。
それにしても。
「そう、ですけど。貴方は誰ですか?」
困惑した様子を隠さない彼の身体には皮膚を剥がし泥々とした人間の身体を、歪に組み合わせた様な【化け物】が纏わりついており、身体の至る所に点々と埋め込まれた目玉が、一斉に此方を品定めするように睨め付けている。
肉が剥き出しの物や、もう殆ど骨と化した腕が何本も此方に伸び、少しだけ怯んだ程だ。
日頃から怪異と対峙している自分ですら目を背けたくなるほど悍ましい姿にも関わらず、怪異から滴る正体不明の黒液を身体に浴びても、彼に気にする様子は無い。気にしない様にしているのか、そもそも別の姿に視えているのかは不明だがそんな事はどうでもいい。
「冠原 依来(かんばら いくる)陰陽師だ。……柏木が済まなかったな。」
陰陽師、という単語を聞いて有栖川少年の身体が分かりやすく硬直する。
「…………陰陽師が俺に何の用ですか?多分、新谷先輩の事でしょうけど。」
此方に警戒し、怯えつつも威嚇する少年。どうやら彼は怪異と意思疎通を取れているみたいだ。
「ニイヤセンパイ、とは【呪念の手記】の事か?なら正解だ。
……私と一緒に来てくれ、君は……君達【半憑】は、怪異の専門家である陰陽師の下で保護されるべきだ。」
なるべく怖がらせないように、義兄にも硬いと揶揄られる表情筋を動かす。
タダでさえ、柏木の所為で陰陽師に良いイメージを持たれていないのだ。
……本当にアイツは余計な事しかしないな。
「半憑を元の人間に戻す術は残念だが、まだ解明されていない。
しかし必ず私達が、お前を怪異から引き剥がしてやる。……信じて貰えないだろうか?」
現に半憑は解除できなかったが、怪異を支配する事には成功しているのだ。少し月日は用するだろうが、必ず解決方法を見つける事が出来るだろう。
しかし、私の差し出した手を取らず凝視したまま有栖川が言葉を続ける。
「……引き剥がした後【呪念の手記】をどうするつもりですか?」
「無論、俺たちが消滅させる。もう二度と復活なんてさせない。」
安心させる為に言ったつもりだが、彼は益々警戒を強め怒気を顕にした。やはり、彼は既に怪異と何らかの関係を築いてしまっているらしい。
「帰って下さい!俺は新谷先輩を殺させるつもりはありませんっ!!」
「【呪念の手記】は特に危険な怪異だ。一般人の、お前の手には余る。」
「新谷先輩は俺達の味方だ!!俺の友達も沢山助ける事が出来たし、俺の事だって……!!」
「何故」
「……え?」
「そもそも、何故【呪念の手記】はお前の怪異退治に協力してくれているんだ?自分だって怪異だろう?」
ピシリと。
痛い所を突かれたのか、有栖川が動揺から凍りついた。
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