【写武者】 上

「その日は、顧問の先生とミーティングがあって、随分と遅い時間まで学校に居たんだけど……。」


 やっとミーティングが終わって、蛍光灯の白い光だけが灯る暗い廊下を歩いていると、背後から……ガチャ……ガチャと金属同士が擦れるような音が聞こえた気がしたんだ。


 不気味に感じて振り返ると、そこには。


 学校という場所に似合わない立派な鎧武者が俺のと寸分違わない竹刀を持ち、目が合った瞬間、振り翳しながら此方に向かって走ってきやがった!!


……その時は直ぐに手にした自分の竹刀で応戦したので、何とか受け止める事ができたが。


 最初は自分が優勢だった。

……しかし、刀を交わらせる度に何故だか俺の竹刀が重くなり振るう力が鈍ってきて、とうとう竹刀が手からこぼれ落ちてしまったんだ。


 そこからは、君の想像通り。


 一方的にタコ殴りにされて、このザマだ。


 しかも不思議な事に、あれから剣道の腕が素人同然になってしまった。


「だから、頼む!!!あのよく分からない怪異を退治してくれ!!!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


「…………。」


 全身ボロボロの包帯だらけの姿で、此方に向けて頭を下げる剣道部部長の頭を見つめながら、俺・有栖川 莉玖は頭を抱える。


 俺の通う四十八願学校は中高一貫校で彼は高等部の生徒なのだが、全身ボロボロの状態で廊下に転がっている所を見回りの先生に発見されたと、中等部の俺の所にも噂自体は届いていた。

が、まさか高等部の彼が直々に校舎の違う中等部の自分に相談してくるとは……!!


「有栖川くんは怪異について詳しいんだろ??君しか頼れる人が居ないんだ。」


 なんて事だ。

 西岡くんや柊さんを助けた事により、俺は怪異の専門家として、密かに噂になっていたらしい。全然知らなかった。


『いいじゃないか。何もしなくても勝手に怪異の情報が集まってくるんだ、こっちから探す手間が省ける。』


 取り敢えず考える時間が欲しいと答え、部長が去ったのを確認すると、新谷先輩が徐にスマホから出てきて、そんな事をほざく。

 俺、別に自分から積極的に怪異に関わりたい訳じゃないんだけどなぁ……。

 そうさりげなく文句を言うと『どうせ、お人好しの莉玖くんの事だから、怪異に巻き込まれた人がいたら放っておけないでしょ。同じ事だよ。』と言いくるめられてしまった。


『それにさ。』


 囁くように、俺の耳に新谷先輩が顔を寄せる。吐息が擽ったい。


『怪異の専門家って肩書き、カッコいいと思わない?特別な感じがしてさ。』


 カッコいい。

 その単語を聞いて、俺の目が輝く。


「え、ホント?今の俺の立場ってカッコいい??」


『うん。カッコイイ、カッコイイ。』


 へぇ、かっこいいんだ……!!ちょっと照れくさいけど、誇らしい。


「た、確かに学校に出る怪異なら他にも被害が出るかも知れないし!!放ってはおけないよね!新谷先輩、調べてみよう!!」


『やる気を出してくれたようで、なにより。それじゃ、行こうか。本当に怪異なのかどうかも気になるしね。』

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