【固執の姿絵】 中の二

突然来た西岡くんからの電話にパニックになった俺は、新谷先輩に助言をもとめた。


「ね、ねぇ、どうしよう!!今からでも西岡くんの家行った方が良い!?」


『莉玖くんが慌ててどうするのさ、いいから落ち着いて。

大丈夫、西岡くんの話を聞く限りだと、あの怪異は直ぐに殺してくる訳じゃないみたいだから。』


そういえば、そうだった。


「分かった、そう伝えてみる!…………もしもし西岡くん?そいつは直ぐには手を出してこないから一先ず安心していいよ。大丈夫、俺を信じて!」


「は、はい……!!……有難うございます!」


『さっきまで情けなく焦ってた人間の台詞とは思えないね。』


「新谷先輩うるさいっ!!……あ、ごめんね。とりあえず、明日詳しく話してもらえるかな?…………うん。じゃあ、おやすみ。」


 ポチッと通話終了のボタンを押した俺は、そのままベッドに突っ伏する。

なんて事だ……まさか、西岡くんまで狙われてしまうなんて。


『でも、悪い事ばかりじゃないよ。

……怪異の特定が出来た。アレは【固執の姿絵】だ。』


 固執の姿絵。その曰くは血塗れの芸術。


 学生服をきた少年の姿が描かれた絵。

 絵が上手い人間を狙い、数日間かけて他の絵を伝って現れては、相手の精神を追い詰めて殺す。

彼は「首から採れる血液が一番美しい」という自論を持っており、被害者から首を奪うらしい。


元は絵を描くのが大好きな少年。


 彼は部活の中で一番絵が上手く、それを誇りに思っていた。

 ある時、市で風景画のコンクールが行われる事を知った彼は、自分の素晴らしい絵を沢山の人達に見てもらおうと、参加を決め、描画を始める。


 アレコレと描きあげた朝日の赤色を試行錯誤をしていたが期限が迫る中、赤い絵の具が足りなくなってしまう。

 どうしてもコンクールを諦めきれなかった彼は、期限とプレッシャーに焦るあまりカッターで自分の首元を切り、溢れる血で朝日を描きあげた。

 そして絵の仕上がりに満足した彼は、絵を送った途端に失血で気絶した。

 見回りの先生に見つかり運ばれた彼は、病院のベッドで結果を心待ちに過ごしていった。

 しかし、数日後。結果、第一次選考すら通れなかった事を言いづらそうに顧問の先生から聞かされ、絶望に打ちのめされてしまう。

 無理もない、所詮は絵の具では無く血液で描かれたものだ。

 描きあげたばかりなら鮮やかな赤でも、時間が経つにつれ燻んだ茶色に変色してしまった。


 そんな事は知らず、自分の全てを注ぎ込んだ絵が誰からも評価されなかった事への怒りと、自分以外の優れた絵描きへの憎悪に満たされた彼は、そのまま治りかけていた首の傷から糸を無理矢理引きちぎり、大量の自分の血に染まりながら失血死したのでした。


 なお、其れを顧問の先生から聞かされたコンクールの審査員は、彼が悪霊になり自分たちに危害を加えるのを恐れて、その絵を御寺でお祓いしてもらい、どこかに封じ込められたのだった。



「……つまり、絵が上手いから西岡くんは狙われたのか。」


『みたいだねぇ、本当に怪異という奴は逆恨みが好きだなぁ。』


 新谷先輩も怪異じゃん、というツッコミは飲み込んで、考え込む。


 他の絵を伝ってくる……まさか、苺大福の絵を見て女子生徒が怯えてたのは、あのウサギのイラストに怪異が写り込んでいたからなのか。

 こんな小さな絵でも対象になるとしたら、かなり厄介な怪異そうだ。


 しかし、逆にこの性質を利用してやればいい。俺には西岡くんを助ける為の秘策がある。




そう【愛しのコーデリア】だ。



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