【固執の姿絵】 中の三
「これが例の絵?」
今、俺の目の前には、青い布が被せられたキャンバスがある。
幾ら捕まえる方法を思いついたとしても、肝心の怪異が何処にいるか分からなければ捕まえようが無い。
だから、此処に来る必要があったのだ。
あの電話を貰った翌日、俺は授業が終わった後すぐに西岡くんのクラスに顔を出し、一緒に美術室に向かった。
勿論、本人が「出来れば二度と見たくない」と言っていた女子生徒の首が描かれた絵を見に、だ。
連れてきたのは俺が側に居ない時に怪異が出たら困るからだが、しょうがないとはいえ罪悪感で胸が痛む。
「そういえば、最初に見つかった絵は何処にいったの?」
トラウマだろうから無理に見ないで良いよ、と先に言っていたので、俺に背を向けたまま西岡くんが答える。
「……それが……分からないんです。
初めに箱を開けて見た時は、赤黒い空の風景画だったのですが、見ていたら何故か蜃気楼の様にキャンバスごと消えてしまって……。」
逃げたな、と思った。
当たり前だろう。そのまま蓋をされたらまた封印されてしまうかもしれないのだから。
「じゃあやっぱり手掛かりは、この絵しか無いのか…………うぅ……見たくない……!!」
『何言ってるのさ、普段あんだけ怖い目に遭っているんだから、今更でしょ?』
「わ、分かってる!!可愛い後輩の命が掛かってるんだ!腹を括るよ!!」
えいやっ!!と勢いよく布を引っぺがすと……
「ひいっ!?!?」
上がった悲鳴は俺の物じゃない。
振り返ると、西岡くんが腰を抜かして床にへたり込んでいた。
「西岡くん?」
『へぇ、これは中々面白い事をしてくる怪異だねぇ。』
新谷先輩には何か見えているのか、絵を見ながらニヤニヤと悪い笑みを浮かべている。
俺も絵を見るが、絵は赤黒い絵の具のような物で中心を塗り潰されており、話に聞いていた女子生徒の首など見当たらない。
確かに不気味だが、悲鳴を上げるほどでも無いと思うのだが。
そもそも、西岡くんは後ろを向いていて絵を見ていないはずじゃ……?
「こ、声が……!……アイツの、声が、絵から!!!」
耳を澄ませてみるが、俺達の声以外は何も聞こえない。
『なるほど、そもそも莉玖くんには認識出来ないみたいだね。……だったら。』
その曰くは、終わらぬ贖罪。
「わわっ!?」
新谷先輩が言い終わった途端、俺の視界が一瞬赤く染まり、すぐに元に戻った。
と、思ったら世界が二重に見える!!
『【回顧の牢獄】の力を使って、僕と視界を共有させたんだ。これで見れるようになったかな?』
「うぷっ、なんかグラグラして気持ちが悪い。」
『……視覚情報が混じったか。取り敢えず、目を瞑って遮断しよう。』
言われるがまま目を瞑ると。
「!?」
先ほど見ていた絵に、少年の様なものが描かれていた。
少年、と表現したものの、顔から手まで見えている範囲の肌の全てが赤く、まるで皮膚を剥がされているようで、着ている学ランで辛うじて男性と分かる程だ。
視認するや否や、掠れた苦しげな声が耳に届く。
ア……アァ……!!ニクイ……!!!
ボクハ、アンナニガンバッタノニ……………………ホカノ、サイノウノアルヤツラサエ、イナケレバ……!!
オマエモ……ボクノゲイジュツノ、カテトナレ…………ッ!!!
これは、まずい!!!
「新谷先輩っ!!右目だけ解除して、コーデリア出して!!!」
『もうやってるよ。』
パチっと瞼を上げて、急激な立ち眩みを堪えながら、若干ブレる視界の中でスマホのカメラを構える。
「コーデリア、力を貸して……!!」
パシャリ!!!!
再び目を瞑り、撮った写真を新谷先輩に差し出すと……。
「…………やった!!捕まえた!!!」
スマホの画面に、あの少年の描かれた絵が、イラスト調になった背景と共に収まっていた。
【絵を渡る】という性質上、例え絵を燃やそうとしても燃やし切る前に逃げられる可能性が高いだろう。
写真なら一瞬で撮る事が出来るから、逃げる暇も無いという訳だ。
後は、これをどうにか弱らせれば……!
『……馬鹿。』
「…………っあ。」
しかし、一安心したのも束の間。
スマホから少年が消え、元のキャンバスに戻っていた。
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この回、長いな。
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