【固執の姿絵】 中

「と、言う事なんです。」

 そこまで話終えて、西岡君は暫く黙り込んでしまった。


 無理もないだろう、慕っていた先輩が見るも無惨な姿で殺されていたのだから。

 正直、話を聞いているだけの俺も寒気がするほど怖かったが、実際に体験した後輩が目の前にいる以上、情けない姿を見せて更に不安にさせる訳にはいかないので、平気なフリを努めた。


 事の起こりは数日前。

 俺の学校で同学年の女子生徒が死亡した。


 被害者は自宅で首が無い変死体の状態で見つかり、全身は血を抜かれた様に青白かったという。

 誰かが侵入した形跡も目撃情報も無く、首に明らかに人では不可能な力でもりもりっともぎ取られたかの様な凹凸の切り口が残っていた事から、警察の捜査は難航しているようで、頭の部分も未だに見つかっていないそうだ。

 同日に美術室で叫び声が聞こえた事や謎の絵が見つかった事なども相まって、怪異の仕業だと推理した新谷先輩と俺は、真っ先に美術室に入っていったらしい後輩の子に話を聞きに行った。

 そして、学校では話辛いと言う彼を俺の家に招き、ガチガチに緊張と恐怖で震えていたのをなんとか宥めて知っている事を話して貰ったのだ。


 黙り込んでしまった後輩に、どうするかなーと悩んでいると、珍しく神妙な顔をした新谷先輩が声を掛けてきた。


『悪いんだけど霧呼出していいかな?

さっきから五月蝿いんだ。』


 何事だ?と思い目配せで許可すると、何もない空間からポイッと霧呼が飛び出した。


「きゃう!きゃうんっ!!」


 出てきた霧呼は、真っ先に西岡君が持ってきたお土産の苺大福の紙袋に突撃して、うさぎの絵をカリカリと引っ掻き始める。


「何?この紙袋が怪異と関係あるの?」


『いや……ただ単に苺大福を食べたいらしい。』


「………………。」


『言いたいことは分かるけどね。』


 ウルウルと上目遣いでおねだりしてくる霧呼に、緊張感の無い仔だなぁ、と呆れつつ西岡君にバレない様に紙袋から一つ取り出し、机の下で包みを広げてあげた。


 そういえば死んだ女子生徒は、この紙袋をみて動揺していたらしい。

 何か、関係があるのだろうか?


「あぅ、あむあむ。」


 霧呼は苺大福を大変気に入ったらしく、千切れんばかりに短い尻尾を振りながら大きな大福にしがみつき、口の周りを粉だらけにして夢中で齧り付いている。

 中の苺を齧るシャクシャクという音だけが暫く響き、一呼吸の後、意を決した様に西岡君が再度口を開いた。


「美術室で見つかった絵は、見えない様に布を被せて倉庫に移動されているみたいです。……かなりショッキングな物が描写されていますから。

実物を見たいのでしたら、先生に見つからない様に気をつけて下さい。」


「そうなんだ……分かったよ。

今日は色々と教えてくれてありがとう。

辛い話をさせちゃってごめんね。」


「いえ……俺も話を聞いてもらえて少しだけスッキリしました。」


 念のためメアドを交換してから西岡君を家まで送った帰り道、俺は新谷先輩と女子生徒を襲ったという怪異について話していた。


『まだ該当する怪異を絞り込むには情報が欲しいところだけど、大方分かってきたかな。』


「なんで、その女子生徒は襲われたんだろう?」


『十中八九、美術室にあった箱を開けた事が原因だろうね。』


「うーん、だよねぇ。

元々危険な怪異だったから、手近にいた彼女を襲ったのかな?…………うん?」


 しまった!!!

 そういえば西岡君に最初に開けた箱に何が入っていたかを、聞き忘れていた!!


まぁ、いいや。

明日にでも聞こう。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


 その日の夜。

 布団の中で微睡んでいた俺は、スマホのバイブ音で慌てて飛び起きた。



「た、助けて……有栖川先輩……!!」


「西岡君!?どうしたのっ!?」


 電話は西岡君からだった。

 怯えたような西岡君の声を聞いて、只事ではないと直感が告げる。


「お、おれ……!」


「俺も……、あの男に殺されるかもっ……!!」


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