【回顧の牢獄】 中の二
『唯一出来る怪異探知能力も使えないのか。……呼び出し損だな。』
「きゅうぅ……。」
霧呼は入り口から鼻先を出し、クンクンと頑張って匂いを嗅いで、怪異の位置を探ろうとしていたが、どうやら店自体が怪異の一部なのか赤パーカーの男の位置が分からないらしく、新谷先輩に冷たくされてショボンとしょげてしまった。
今はスタッフ用の倉庫に隠れているが、相手にいつ見つかるか分からないうえに霧呼の能力が使えないとなると、無事に逃げ切れるか不安になってくる。
少しでも生存率を上げる為にも、怪異の情報を集めないと。
「さっきは中断してごめん。
【回顧の牢獄】の曰くの続き、聞きたいんだけど。」
『そうだね。
……続きを話そうか。』
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そして、この怪異に関わってしまった人間は赤いパーカーを着た謎の男に追い回され、捕まると胸に包丁を突き立てられて殺される。
助かる為には、16時30分になるまで逃げ続けなければならない。
しかし、たかが1時間だが助かった人間は少なく、死者の数は日々増えているようだ。
元は、スーパーで起こった殺人事件。
被害者の女性は、エレベーターで胸を刺されて死亡。
エレベーター内は彼女の血で真っ赤に染まっており、見つかった時間が16時30分だったという。
加害者の赤パーカーの男は、その直後にスタッフが呼び出した警察に逮捕され、のちに絞首刑によって既に絶命している。
また、同日にスーパーの従業員男性が一名、行方不明となったが、事件との関連性は不明とのこと。
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珍しい、と思った。
毎回痒いところに手が届かな…………肝心な部分が分からない「挧」が、助かる方法を記載している。
それにしても、なんて迷惑な怪異なのだろうか。
スーパーの人も安全の為に監視カメラを沢山設置したり、人気の商品を入荷したりして頑張っているというのに、これでは客足は遠のくばかりだろう。
「死人もでているみたいだし、こんな怪異が出るんじゃ普通の人が寄り付く訳がないよね。スーパーで働く人が可哀想だ。」
『一応、怖いもの見たさで来る常連は居るみたいだけどね。
……最初の事件について書かれた他の記事を幾つか見てみたけど、赤パーカーの男と被害者女性は親戚関係だったみたいだ。……消えた従業員は何処に行ったんだか。』
消えた従業員。
未だに見つかっていないということは、彼も【回顧の牢獄】に巻き込まれて死んだのだろうか?死体は未だに見つかっていないらしいが。
「結局、この空間って何なんだろう。
店中の商品が最初の事件が起こった年のものに変わってるって、書いてあったよね?
もしかして、タイムスリップしてる?」
『いや、元の世界と変わってないものもあるみたい。
逃げている時に見かけた監視カメラは相変わらず沢山あったし、動かなくなった人達も変わらなかったし。
……恐らく、当時の現場を再現したくても力が足りないんじゃないかな。』
そんなことをあーだこーだと、話していると……。
ドンドンドンッ!!!!
いきなり強く倉庫のドアが外側から叩かれ、心臓が飛び出そうになる。
「うわぁっ!!なにっ!?!?」
『あー、彼に此処に居る事がバレちゃったみたいだね。』
「早すぎないっ!?」
実際に時間を確認しても、隠れてから5分ほどしか経っていなかった。
あれだけ人混みに紛れて逃げ切ったと思ったのに、どうして此処が分かったのか不思議だが、1時間逃げ切れた人が少ないと書かれていたのは、こう言う事か!!
ドンドンドンドンッ!!!!
乱暴に叩かれるたびにドアが軋み、取っ手の側の南京錠から錆が落ちる。
これは、長く持たないかもしれない……という俺の予感は見事に的中し、
ガチャン!!
錠が音を立てて壊れ、ドアの向こうから赤色が覗く。
もうだめだ、そう思った瞬間。
「わうーーんっ!!!」
「霧呼っ!?」
俺の腕の中から威勢よく吠えた霧呼が、ドアを蹴破って油断していただろう赤パーカーの男の顔面に飛び付いた。
そして、引き剥がそうとした男に負けず、そのまま小さな爪でバリバリと引っ掻いたのだ。
「っ……!!」
男が顔を抑えて片膝をついたので、霧呼はピョンっと俺の肩に乗って逃げ出す。
「ありがと、霧呼!!」
「きゅうっ!!」
助けてくれた御礼に頭を撫でてあげると、霧呼は嬉しそうな声で鳴いた。
新谷先輩は「呼び出し損」などと先程言っていたが、こんなにも頼りになるではないか。
『ほら、話してないで逃げるよ。』
新谷先輩は男の横をすり抜けるように通り、出入り口で俺達を呼ぶ。
霧呼の事を冷たくした分、ちゃんと褒めてやれば良いのに……とは思ったが、そんな余裕がないのは本当なので、大人しく従った。
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「ね、ねぇ、次は何処に隠れればいい!?出来るだけ分かりづらい所に……。」
『いや、多分隠れるのは無駄だよ。
……相手は僕達が何処にいるのか、手に取るように分かるみたいだからね。』
やっぱり。
察していたとはいえ、助かる為の退路が断たれたようで落胆する。
そんな不安が顔に出ていたのか、新谷先輩は優しく微笑み、そんなにガッガリしなくても平気だよ、と慰めの言葉を寄越してきた。
『大丈夫。常に僕達を見ているというのなら、逆にそれを利用させて貰おう。』
指示された通りに走り、右の角を曲がった先。
そこには無造作に段ボールの山が積まれ……。
「って、行き止まりじゃんっ!!」
まさか、この段ボールを投げつけて応戦しろ、とでも言うのだろうか??
そんなの俺の力じゃ通用しないと分かっているはずなのに!!
慌てる俺を一瞥して新谷先輩は意味深に笑うと、怪異を呼び出す為に前口上を唱え出した。
……その曰くは、死への行進曲。
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