第23話

「それじゃ、当主がいない間にちゃっちゃとファミリーのルールを教えるわ」

「よろしくお願いしますっ!」

 ソフィアがレイシアファミリーに入ると決めてから二日が経った。

 結局、バレッド領から戻ってきた私達はそのままソフィアの本当の歓迎会をした。

 私も数少ない女性メンバーが増えるのだから嬉しく思わないわけがないし、ハメを外させてもらったわ。ソフィアって、妹みたいで可愛いもの。あ、当主は女性として見てるわ。

 ソフィアも、あれからは何か吹っ切れたように活き活きとしている。ちゃんとけじめと未練にケリをつけたからでしょう―――今は自分の理想を見つけるために勉強中。

 そして、当主が「近くに美味しいスイーツのお店ができたらしいから行って来るね! あ、お土産ちゃんと買って来るから!」と言い残し出て行ったタイミングを見計らって、今日はファミリーのルールをちゃんとソフィアに説明することになった。

「あの、でもどうして当主様がいない時にするのでしょうか?」

「あまり当主に聞かれたくないことも教えるからよ。最近の当主はソフィアが入ったのが嬉しいのか、あなたにすぐ会いに行こうとするもの」

 当主に好かれている証拠ね。それと、同年代の女の子と一緒にいるのは当主にとっては嬉しかったのでしょう。

「聞かれたくないこと、ですか……?」

「ちゃんと話すわ」

 魔術を習った時のような態勢で、目の前にはソフィアが椅子と机に座っている。

 今回もしっかりとメモと筆を持っている辺り本当に勤勉なのね。

「私達はそれぞれが悪党として生きているけど、そもそもが組織で動いているわ。組織といっても上下関係は基本的に私とライダみたいな副当主とレイシアのような当主しか掲げてないの。その座は基本的には実力主義―――だけど、あなたも感じているでしょうけど、私達はアットホームなのよね」

「それは感じています。皆様、本当にいい人で……家族のように接してくれます」

「当主がこのファミリーを作る時に「そういうファミリーにしたい!」って言ったからね。そもそも、副当主なんて皆を纏めているだけで、実際には当主しか絶対的な上はないの」

 全員が当主について行くと決めたから。全ては、当主を中心に集まっているメンバーだから。

「それでも、組織という体裁を取っている以上、ファミリー内の治安とかいざこざをなくすためにもルールは設けてあるの―――」


一つ、ファミリー内での問題はファミリーの当事者同士で解決すること。

一つ、アジトの場所が露見し、移動した場合は元のアジトに必ず置き手紙を残すこと。

一つ、裏切り行為はご法度とする。

一つ、ファミリーのメンバーはファミリーのメンバーを大切にすること。

一つ、ファミリーのピンチはファミリー全体の問題であり、見捨てず、助けること。


「ざっとこんなもんね」

「……最後の二つが、レイシアファミリーらしいルールですね」

「それはそうよ、当主があんな性格だもの」

 当主は仲間意識が凄いから。本当に、皆を家族のように思っている。

 だからこそこのルールは絶対であり、皆もしっかり守り続けて今に至るわ。

「今のが当主も知っているルール。そして———」


 一つ、私達は当主の理想を尊重する。

 一つ、当主が悲しむような行為はしてはならない。


「これが、当主以外が知っているルール。というより『掟』ね」

「……掟?」

「まぁ、単純な話よ。私達は当主のことを自分よりも一番に考えているわ。それを忘れないようにしましょうってことなの」

 ファミリーに入った理由を、当主について行こうと決めた想いを忘れずに。

 そうすることによって、自分の選んだ道を真っ直ぐに進めるから。

 当主と寄り添った人生を歩めるから。

 当主にこの命が果てるまでついて行けるから。

 皆、この掟を作ってこの掟を順守してきたの。

「これが、当主様に聞かれたくないことですか?」

「そうよ。当主が聞いたら「もぉ~、恥ずかしいからやめてよ!」って言うに決まってるもの」

「あはは……言いそうですね」

 それに、口にする方も恥ずかしいわ。何をイマサラ……って感じでね。

「まぁ、ソフィアも覚えておいてちょうだい。すぐには覚えられないかもしれないけど、ファミリーに籍を置くと決めた以上、ルールだけは守ってもらわないといけないから」

「大丈夫です、記憶力だけには自信がありますから」

 そう言って、胸を張りながら笑うソフィア。

 頼もしいのか可愛いなと思うべきなのか、そんなソフィア見て苦笑いを浮かべてしまう。

 ファミリーには女性メンバーが少ない。いるとしても、罪人としても悪党としてでもない一般人が多い。どうして悪党の集団にそおういう人がいるのか? 理由は色々あるけど、共通して言えるのは皆が当主に助けられたから。

 恩義もあれば、当主の理想に目を惹かれて……っていうのもある。もちろん分け隔てなく接しているつもりはあるけれど、悪党としての同じ立場にいる女の子は本当に少ない。

 だからこそ、ソフィアには親近感が湧く。本当に、新しい妹ができたみたいに。

(いいえ、そもそも年齢的にはお母さんかしら?)

 いや、おばさんなのかもしれない。年齢的には二百を超えてるわけだしね。

「話の続きをしましょう。掟の方はともかく、ルールの方はしっかりと説明しておかな───」

 その時だった。


 ガラーン、ガラーン、と。


 アジト内に警鐘が鳴り響いたのは。

「ッ!?」

「今のは、なんの音なのでしょうか……?」

 ソフィアが不思議そうに鳴り続ける警鐘に首を傾げる。

 けど、今回の講義みたいに悠長に教えてあげることはできない。

「…………げきよ」

「……はい?」

「今のは、アジトに襲撃者が現れた時の警鐘・・・・・・・・・・・・・・なの!」

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