第17話

 ソフィアちゃんを連れてやって来たのは、何度か足を運んだことのあるお洋服屋さん。

 ガラスでできたウィンドウに並んでいるお洋服は質もよく、デザインも可愛くてオシャレで、とっても高かった。値札を見てすぐに視線を逸らしちゃうほど。それからも分かる通り、このお店は貴族向けの服を扱っているお店だ。

 え? そんなところに入ってお金は大丈夫か、だって? ふふんっ! さっきも言ったでしょ、何度か足を運んだ場所だって!

 このお店は貴族向けのお洋服は多いけど、ちゃんと庶民向けのお洋服も扱っているんだよ! 質は劣っちゃうけど、リーズナブルで可愛い服がたくさんあるんだ。品揃え豊富で胸を張れるぐらいだね。

「たのもー! また来たよー!」

 そんなお店に、私は勢いよく扉を開け放って入店した。

 お店には棚や机に色んな服が並んでいたけど、タイミングが悪かったのかお客さんは誰もいなかった。

「あー、いらっしゃい当主様! また来てくれたんだね!」

 すると、店の奥から一人の女性が顔を出してきた。

「あの、レイシア様。お知り合いなのですか?」

「おやっ、見ない顔だね~」

 ソフィアちゃんが尋ねてきた間に、顔を出した女性が私達の方までやって来た。

 そして、マジマジとソフィアちゃんのお面をいきなり外して顔を覗き込む。

「いや、見たことあるね。この子は今話題の公爵家のご令嬢……」

「ッ!?」

 通報されると思ったのか、ソフィアちゃんは肩を跳ねさせて私の後ろに隠れてしまう。

 これは……早く説明してあげた方がよさそうなんだよ。

 とりあえず、お面を外して「無害です」アピールから始めよ。

「ほら、ソフィアちゃん大丈夫だから! 私もお面外したでしょ? それでもこの人何もしないでしょ!?」

「それはそうですが……」

「あははっ、勘違いさせちゃったか! 私はこの店のオーナーで、随分昔に当主様にはお世話になったことがあるんだよ! こんな時に私も変な言い方して悪かったね!」

 昔、仕入れの最中に襲われたことがあって、その時にたまたま助けたことがあるの。

 それからかな? オーナーと仲良くなって、こうしてちょくちょくお店に足を運ばせてもらっているのは。

 助けたお礼だーって言って安くしてくれるし、私のことを黙っていてくれるし、それでソフィアちゃんを連れてきたんだ。

「だから、ここではゆっくり選べるよ。お客さんもいないみたいだし―――」

「じゃあ、しばらくは休業中の札でもつけとくかね!」

「いいんですか、そんなことをすればお客様が……」

「いいのいいの、これぐらい! 当主様には返し切れない恩があるんだ! それに、こうしてお客としても来てくれる。それだけで、私は嬉しいからね!」

「流石だよオーナー! 今日もありがとうねっ♪」

「いいってことよ! でも当主様、この前たくさん買ってお小遣いがなくなったとか言ってなかったかい?」

「ミラから臨時のお小遣いをもらってきたから大丈夫なんだよ!」

「そうかい! だったら、ゆっくり見て行ってな! なんかあったら呼んでおくれ!」

 そう言って、マスターは店の奥へと戻っていってしまった。

「……レイシア様は、色んな人を助けているのですね」

「いやいや、たまたまだし下心あってのことだよ? それに「助けて」って言われちゃったからね」

 私は残されたソフィアちゃんの手を取る。

「じゃあ、色んなお洋服を見て回ろう! たとえファミリーに入らなくても、お洋服は入用だからね♪」

「よくしてもらいすぎなような気がします……」

「んー、そんなことないと思うけどなー? 今日は純粋に女の子同士のお買い物だよ!」

 そう、これはよく皆がやる女の子同士の遊び! 自分で言うのもなんだけど、色々と劇的な人生を送ってきたから、仲のいい同世代の女の子と遊んだ記憶があんまりないんだよねぇ。

「女の子同士のお買い物、ですか。私、あまり経験がないので正しい作法などがいまいち……」

「え? 作法とかあるの!?」

「あ、いえっ! あるのかなーっと」

「ないんじゃないかな? 私もあんまり遊んだことないし、多分ないと思う! ない者同士、とりあえず楽しんじゃえばいいんじゃないかな?」

 というわけで、私は近くにあった服を手に取った。

 シンプルな白のワンピース。私が着たら「子供じゃね?」って思われちゃうけど、スタイルもよくて身長も女性の中では高い方なソフィアちゃんが着たら似合いそう。

 高嶺の花って感じ? お花畑の上を歩いてたら綺麗な絵画になりそう。

「これなんかどうかな?」

「ワンピースは着たことないので不安ですが……シンプルだからこそ可愛いですね。素材がよければとても似合いそうです」

「ならよかった! ソフィアちゃんは素材がいいからね、きっと似合うよ!」

「そ、そんなっ! 当主様の方が素材が───」

「……私が着たら子供っぽくなっちゃうもん」

「あぁ……」

 否定してほしかったけど、事実だから何も言えないんだよ。もう少し身長がほしかった……十センチだけでもいいんだよ。

「き、気を取り直して! こっちの服なんかどう? 赤色のスカートと合わせれば大人っぽくていいと思うの!」

「そうですね……それでしたら、少し色合いを暗くしてアクセで色を明るくしてみるのはいかがでしょう? 色で攻めるよりアクセでアピールする方が……」

「ふむふむ、なるほど。私に似合うかなぁ?」

「こういうのは身長が低くても大人びて映りますよ。それに、コーデをかっちり寄せた方がギャップも生まれていいと思います」

 この方が、あっちの方が。私達は吟味しながらお店の品を見ていく。

 それがなんだか遊んでいる感じがして、気分がどんどん高まっていくような感じがした。

「じゃあ、早速着てみる!? 試着はタダだし、どうせだったら実際に合わせてみないと!」

「ふふっ、では先に色々選んでからにしましょうか」

 ソフィアちゃんの顔にも笑顔が浮かんでいて、それが余計に嬉しくさせた。

 女の子だからか、やっぱり洋服選びは楽しいんだと思う。どこ遠慮がちだった表情も、いつの間にかなくなっている。

 ───だからか分からないけど、私達はひたすらに服を選んでは試着をしていった。

 久しぶりに外出したからか、それとも同世代の女の子と遊べて楽しかったのか。


 ……気がついたら日が暮れていたんだよ。

 ごめんなさい、お洋服選びだけで終わってしまって。オーナーも一日貸し切り状態のままさせてごめんなさい。

 ソフィアちゃんは……遠慮していたお洋服を持って───

「大丈夫ですよ、レイシア様。私も楽しかったですから」

 そう言ってくれた。

 それだけが、唯一の救いだった。

 本当に、ソフィアちゃんはいい子だなぁ。

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