第13話

 宴会が終わって翌日。

 楽しく盛り上がってしっかりあと片付けをして、ライダが療養室で寝たきりになっていること以外は特に変わったこともなく、無事に気持ちを切り替えて次の日を迎えることができた。

「さて、今日から普通にお仕事! 気持ちを切り替えて頑張っていこー!」

 拳を突き上げて、一日の気合いを入れる。

 ぐーたらしていてはいけない! ちゃんと当主らしく、お仕事をしないと部下の人に顔向けはできないからね!

「あの……私もお邪魔していてもいいのでしょうか?」

 おずおずと、私が座っている椅子の横でソフィアちゃんが手を上げる。

 ここは執務室兼私とミラの部屋。ついでにソフィアちゃんも過ごすことになった部屋。

 一応お休みする時以外は、私とミラの仕事部屋ってことになっている。

「大丈夫大丈夫っ! ソフィアちゃんって今はお試し期間でしょ? 私達のファミリーがどんなことをしてるか知ってもらって、好きになってもらうのが一番だなって思っただけだから!」

「といっても、当主はそんなに仕事ってないわよね」

 ソファーで座りながら紙の束を読んでいるミラが茶々をいれてくる。

「ぬぐ……ッ!」

 でも事実だから言い返せない。

 なんだかんだ、仕事をやってるのってライダなんだよね。

 それで、ライダがいない間はミラがやって……最終的に、大きなことは私が判断する。

 だから私の仕事って「おっけー」か「ダメー」って言うぐらいしかないんだよね。

前に「仕事手伝うよ!」って言ったら「当主は細けぇことはできねぇだろ」って断られちゃいました、ぐすん。

「ま、まぁ! ミラの仕事ぶりを見てもらえばいいから! そんで、今度どこかで一緒にお仕事に行けばいいよ!」

「お仕事というのは、どこかを襲ったりすることでしょうか……?」

「基本的にはそうかな〜? あとは依頼があればその依頼をこなすって感じだけど……」

「その依頼も汚れ仕事ばかりだから、結局やることは一緒ね」

「な、なるほど……」

 ソフィアちゃんが引き気味な反応を見せた。

 まぁ、前まで善人だったソフィアちゃんからしてみれば、悪事ばかりのお仕事って言われても乗り気にはならないよね。

「あんまり乗り気じゃないなら、別に来なくてもいいからね?」

「いえっ! ご厚意で匿ってもらっているわけですし、少しでもお手伝いはしたいと思っているので乗り気じゃないというわけではありませんっ! も、もちろん……抵抗はありますが、問題はそこではなく……」

「なく?」


「私……魔術が使えないので、お役に立てるかどうか───」


 ♦♦♦


「というわけで、今から『レイシアちゃんの魔術講座』を始めようと思います!」

 ババン! っていう効果音がついてくれればよかったけど、そんなのはないから『レイシアちゃんの魔術講座』っていう垂れ幕(頑張って作った!)を叩く。

「ど、どうしていきなりそんな講座を……?」

 持ってきた椅子と机にちょこんと座るソフィアちゃんが首を傾げる。

「いやね、これから一緒にお仕事行くんだったら覚えておいた方がいいかなって」

「私の記憶が正しければ、魔術とはそう簡単には編み出せないものだった気がしますけど」

「その通り! まぁ、すぐすぐには無理だけど、いつかのために覚えておいた方がいいんじゃないかな?」

 魔術を覚えていなくてもお仕事に行く時は私達が守ればいいけど、もし仮にソフィアちゃんがうちを離れちゃったらその時困るし。

 ほら、一人だったらやっぱり身を守る術は持っておかないと生きていけないしね。

「っていうより、やっぱり学園じゃ教えてもらえなかったんだね」

「はい、貴族に魔術は不要ですから……」

 貴族は魔術が不要。

 というのも、貴族にとっては護身用の魔術など必要じゃないからだ。

 何かあれば護衛を雇ったり騎士を同伴させればいいだけだからね。もちろん、そんな余裕がない爵位の低い貴族だったり、魔術師や騎士を目指す貴族の人達は別だけど。

でも、貴族で騎士や魔術師を目指す人ってだいたい家督を継げないって理由がほとんど。

 妃として将来が決まっていたソフィアちゃんには関係のない話で、覚える必要もなかった。

「まぁ、この機会に学んでおいた方がいいのは確かだからね! 私、お仕事ないから暇だし、教えられることは教えちゃう!」

「……至れり尽くせりのような気がします」

「気にしない、気にしない! 私がしたくてしてるんだから!」

 申し訳ないという顔をするソフィアちゃんに笑顔を向ける。

 暇なのは本当だし、ミラがお仕事くれるまでの時間潰し。

 ソフィアちゃんも魔術を勉強できて、私も時間が潰せる……一石二鳥だね!

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