第12話

 窓一つない部屋。

月明かりによって照らされることもなければ、照明によって光を生み出していることもない。

 どれぐらいの広さか、何が置いてあるのか、誰がいるのか。その空間にはそれらを明らかにする情報が掴めない。

 そんな場所。そこで、誰かが口を開いた。

「どうやら、あの公爵令嬢は大罪聖女の下にいるようだね。上手く逃げ出してくれたようだ」

 誰かに話しかける声はトーンが高く、声音が少し若い。

 そこから読み取れる情報は、この空間に少なくとも二人以上いること、話している人物は少女であるということの二つ。

「大罪聖女って、あの大罪聖女か!?」

 野太い声が室内に反芻する。

「あぁ、君のご執心なあの大罪聖女のことだよ。うちの部下が張って得た情報だから間違いないだろうね」

「がーっはっはっはー! んなら、この件も少しは安心だなぁ!」

 野太い声の主は上機嫌に高笑う。

 嬉しい情報だったのだろう、それは表情が見えていなくてもよく分かる。

「それにしても、かしらは本当に大罪聖女のことが大好きだね。君が目をつけるほど、そんなに彼女は魅力的なのかい?」

「っつたりめぇだろ!? あの時助けた《・・・・・・》嬢ちゃんが悪党になってくれたんだぜ!? しかも、俺みたいな『大悪党』を目指すって口にしてるらしいじゃねぇか……これほど嬉しいことはねぇよ! なぁ、知ってるか? 嬢ちゃんの活躍を耳にする度、俺は決まって酒を煽るんだぜ!?」

「知ってるよ、酒好きでもない君が数年前から決まった時に酒を嗜むことぐらい」

「嬢ちゃんも随分有名になったもんだ……そろそろ俺らと並ぶ悪党になるんじゃねぇか?」

「その可能性はあるね。今、一番勢いのある悪党は恐らく大罪聖女率いるレイシアファミリーだから―――といっても、ボク達『大悪党』にはまだ及ばないが」

「そりゃ、及んでもらっては困る! 何せ、俺達は嬢ちゃんの目標だからな!」

 はぁ、と。小さい少女のため息が聞こえてきた。

 そんな少女のため息など聞こえていないのか、男は楽しそうに高笑い続ける。

「君のご執心な大罪聖女の話は置いておくとしよう。それで、結局あの公爵令嬢はどうする?」

「んなもん、放っておけ」

「いいのかい? 元はこちらで保護するはずだったが……」

「そんなの、保護されただろ? 『大悪党』を目指している嬢ちゃんの下にいりゃ安心だ」

「ふむ……」

 少女は男の言葉を聞いてそれ以上は疑問を投げかけない。

 疑問として口にしていたものの、少女も少女なりに納得できる部分があったのだろう。

「まぁ、数人ぐらいはいつも通り見張らせとけ。またあいつら《・・・・》が接触しねぇとは限らねぇからな」

「そうだね、恐らく公爵令嬢は奴らから狙われているだろうから……殺し損ねた《・・・・・》のなら、狙ってくる可能性は高い。動き出したら、こちらも動き出せばいいか」

「っつたく……こんな悪党に狙われて大変だな、公爵令嬢とやらも」

 男がため息を吐く。

「呪術教団───『愚者の花束』。彼らは、何を考えて狙っているのか? 教団の総意か、はたまたいち団員の私怨か」

「それは知らねぇ……だが、どちらにせよ気に食わねぇ悪党共なのは確かだ───」

 そして、最後に重苦しくも震えてしまうような低い声で呟いた。


「まぁ、早いところ尻尾掴んで根こそぎ潰す───悪党を倒すのが俺達『大悪党』だからな」


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