第7話
両手に伝わるのは、柔らかくてゴツゴツとしている感触。
それでいて、必死に手を引き剥がそうとする腕と荒い息遣い。
太いようで細い───そのようなもの。私は初めて、人の首を本気で握り締めている。
「ソフィア様! これ以上はダメです! 本当に死んでしまいますよ!!!」
横からは、親友とも呼べる少女が私の腕を抱えて同じように引き剥がそうとしている。
「かひゅ……あ、がっ!?」
眼前、見下ろす先には顔や瞳を真っ赤に染めて足をバタつかせて抵抗するもう一人の少女。
『おいっ! ソフィア様がご乱心なさったぞ!』
『このままではサラ様までもが死んでしまう!』
『騎士を呼べ! 早くソフィア様を取り押さえろ!』
周りからは悲鳴や動揺の混ざった悲鳴が聞こえてくる。
「やめろソフィア! サラが何をしたというんだ!!!」
そして、やがては騒ぎと状況を理解した婚約者までもがやって来る。
走る足音が近づいてくる。騎士達の着ている甲冑の金属音までもが、会場に現れた。
それなのに、私は手に込めた力を緩めることはなかった。
(どうして、私はこのようなことをしているのでしょうか……?)
何も感じない。何も感じられない。
胸の中に蠢くのは、ただただ『目の前の少女を殺すこと』という黒く禍々しい意思のみ。
どうして、私はそんな感情を抱いているのでしょうか?
確かに、目の前の少女に恨みはないかと言われればそうではありません。私の婚約者であるアレク様と親しくなり、私という婚約者がいるにもかかわらず恋人のように振る舞っていた。
今日のパーティーも、まるで自分が婚約者なのだと知らしめるかの如くアレク様と一緒に会場に入り、初めてのダンスを踊っていた。
私はこれから妃になる女です。妾の一人や二人、いたとしても文句は言いません。
子が増えるのであれば、王家の血筋を確実に残すのであれば致し方のないこと。
それに、私は……アレク様に恋慕は抱いておりませんでした。あるのは、妃としての使命感と義務感のみ。
だからこそ、妾としてであれば仲良くしていただいて構わなかった。
妃としての私の立場を理解してくれるのであれば、それは別に構いませんでした。
故に、妃のように振舞おうとする彼女に恨みはありました。
ですがそれだけ、それだけなんです。私は、それしかなかったはず───なのに、どうして? 私は、彼女を殺そうとしているのでしょう?
「ソフィア様! 正気に戻ってください!!!」
侯爵家の令嬢―――親友であるイリヤ。ずっと、私の味方であり続けていた彼女。
公爵家に生まれ、公爵家の人間として、妃になる存在として教育を受けて……公爵家の価値、妃としての価値しか見てこなかった周りとは違い、本当の友人として傍にい続けてくれた彼女。
そんなイリヤの声ですら遠い。
私の頭には、響かない───
「取り押さえるんだ!!!」
やがて、騎士達やアレク様が私の下に辿り着く。
私は容赦なく取り押さえられ、眼前に赤く染まった絨毯が広がる。
どうしてしまったのでしょうか? このようなこと、するはずがなかったのに。
立場と責任を理解している私が、一時の恨みで人を殺そうとするなんて───
(あぁ……早く)
この夢から、覚めてほしい。
冷めた意識の中、イリヤからもらったブレスレットが視界に入った。
何故か、そのブレスレットを見ていると心がじんわりと───
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